第463話 姉妹

 ☆亜美視点☆


 夏祭りを引き続き楽しむ私達。 今車椅子を押してくれているのは希望ちゃんに替わっている。

 両手が塞がっている希望ちゃんは、先程射的で取ってもらったボケねこさんのぬいぐるみを私の膝の上に置いている。


「……」


 んー、これの何が可愛いのか私にはやっぱりわからない。 でも、巷の女性には大人気というから謎である。


「可愛いでしょ?」


 と、希望ちゃんが後ろから聞いてくる。


「ううん」

「はぅ……即答」


 嘘をついても仕方ないので正直に言うと、希望ちゃんは少し落ち込んだ。 私と希望ちゃんは、血は繋がっていなくても仲良し姉妹である。 だけど、物の好みは結構違っていたりする。

 というより、私が可愛い物に無頓着なだけかもしれないけど。


「私もそれの可愛さはちょっとわかんないわね」

「なははー、愛嬌はあると思うよー」

「私も可愛いと思います。 お姉ちゃんも結構気に入ってる言うてました」


 と、刺さる人には刺さるらしい。 ちなみに夕ちゃんと宏ちゃんには不評である。

 さて、次は何をしようかとうろついていると、希望ちゃんが金魚すくいに挑戦したいと言い出したので、金魚すくいをやることに。


「よぅし、やるよー」

「私もやるー」


 一緒に麻美ちゃんも参加することになった。 


「渚はやらなくていいの?」


 奈々ちゃんが訊くと「私は下手やからええです」と首を横に振った。 たしかに渚ちゃんって不器用なところあるよね。 それを努力で克服出来る偉い子でもあるけど。


「弥生ちゃんって器用なの?」

「お姉ちゃんですか? あれで器用なんですよねぇ……結構なんでも卒なくこなすっちゅうか。 姉妹やのになんで違うんやろ」

「あー、それは私も思うわね。 私も麻美と結構違うし」


 と、皆も姉妹間での違いについて疑問に思っているようだ。

 うちは血が繋がってないからまだわかるけど、血が繋がった姉妹でも性格などが違っているようである。


「えぃっ」

「ほい」


 希望ちゃんと麻美ちゃんは、私達の会話には興味も示さずに金魚すくいを楽しんでいる。 どれどれ……。

 おー、希望ちゃんは2尾すくってるね。 麻美ちゃんは「あははは」と笑いながら4尾目をすくっている。

 何気に器用である。


「はぅ、破れた」

「私もー」


 少し経ったところで2人ともポイが破れて」金魚すくいは終わった。

 どれどれ……希望ちゃんは4尾、麻美ちゃんは7尾でフィニッシュのようだ。

 2人とも金魚を飼うつもりはないようなので、水槽に返している。 ハムスターの飼育で満足なようだ。


「あぅ……」

「どしたの亜美ちゃん? もじもじしちゃって?」


 少し屋台を見回っていると、急にお手洗いに行きたくなった。

 皆には待ってもらい、希望ちゃんにお願いしてお手洗いの方へ車椅子を押してもらう。

 駅前のお手洗いに到着し、松葉杖を伸ばして立ち上がる。 希望ちゃんも心配になって途中までついてきてくれた。


「車椅子のとこで待ってるね」

「うん」


 希望ちゃんは優しいなぁ。 面倒見も良いし、きっといい幼稚園の先生になるよ。

 用を足し、希望ちゃんの元へ松葉杖を突いて急ぐ。


「ねー、いいじゃん。 1人なんでしょー?」

「はぅぅ……」


 車椅子の前で男の人3人に囲まれてあたふたしている希望ちゃんを見つけた。

 あれは十中八九ナンパである。 うちの希望ちゃんを怖がらせるなんて許せないねぇ。


「希望ちゃん!」

「はぅ、亜美ちゃん!」


 私を見つけてほっとしたのか、少し表情が和らぐ。


「おー? カワイ子ちゃん追加ー」


 この人達はぁ……。


「行こう希望ちゃん」


 と、男の人達を無視して車椅子に座る私。 希望ちゃんに押すように促す。

 希望ちゃんはビクビクしながら車椅子のハンドルを持つ。


「し、失礼しますぅ……」

「ちょっとちょっとー、釣れないんじゃないー? ちょっと遊ぼうよー」

「興味ないんで他当たって下さい」


 こういうのは相手せず無視するに限る。


「おいおいおい、ちょっと待てよー」

「あんた達遅いわよ? 何やってんのよ」

「あ、奈々ちゃん」


 私達が帰ってこないのを心配して、奈々ちゃんが見に来てくれたようだ。 奈々ちゃんがいれば百人力だ。


「おおっと、さらに追加ー。 これで3:3で丁度良いじゃーん」

「あ?」


 奈々ちゃんが男の人達を睨む。 うわわ、凄い迫力。


「あんた達何? ナンパ? 私の友達に触ったりしてないでしょうね?」


 グゴゴゴゴゴゴゴ……


 凄い威圧感を醸し出しながら、男の人達に近付いていく。


「ねぇ? 聞いてんの?」

「あ、いや、その」

「そう。 ウザイからさっさとどっか行きなさい」


 しっしっと猫でも追い払うかのような仕草を男の人達に見せながらこちらへ引き返してくる奈々ちゃん。 やっぱり頼りになるねぇ。


「行きましょ」

「うん」


 希望ちゃんは少し急いで車椅子を押してその場を後にした。


「亜美ちゃん、奈々美ちゃんありがとぅ……怖かったよぅ」

「私は何もしてないけどねぇ」


 お手洗いから出てきて、そのまま彼らを無視して去ろうとしただけである。

 まあ別に怖くはなかったけど、私には奈々ちゃんみたいな凄みが無いからねぇ。 口では勝てなかっただろうし。


「そんなことないよぅ。 さすがお姉ちゃんって感じで心強かったもん」

「そうかなぁ?」

「うんうん」

「奈々ちゃんはさすがだねぇ。 あれ大学生ぐらいだったけど、視線だけでビビらせてたよ」

「大した度胸も無いくせにナンパなんてする奴が悪いのよ」


 奈々ちゃん相手にビビらずに立ち向かえる人なんて、そんなにいるとも思えないんだけどな。

 こういうのも姉妹で全然違うね。 麻美ちゃんではああはならないよね。


「あー、帰ってきたー」

「おう、遅かったな」

「うん。 希望ちゃんがナンパされてて」

「何?! 大丈夫か希望?」


 何があったか話すと、夕ちゃんが希望ちゃんを心配していた。


「うん、亜美ちゃんと奈々美ちゃんが追い払ってくれたよぅ」

「そっか、良かった」

「やけに希望姉を心配するねー? 亜美姉が面白くなさそうだよー?」

「え? そんな事無いけど……?」


 別に面白くないわけじゃないんだけどなぁ。

 どちらかと言うと、夕ちゃんの気持ちわかるけど?

 私でも、可愛い妹が知らない所で危ない目に遭っていたなんて聞かされたら、同じように心配するもんね。


「亜美は何もされなかったか?」


 と、今度は私を心配する様に屈み込む夕ちゃん。

 優しいねぇ。


「大丈夫だよ、あれぐらい」

「そうかそうか。 何かされてたら追いかけてぶん殴るとこだぜ」

「あはは……暴力はダメだよ」


 学校にバレたりしたら大変だ。 何事も穏便に済ませないとね。


「奈々美は大丈夫か。 お前をナンパしようなんて奴はいねーもんな」

「佐々木先輩……なんでいつも自分から墓穴掘っていかはるんやろ……」

「あはははー」

「どうせ私はゴリラですよっ!」


 ゲジゲジ……


 見慣れた光景を繰り広げる奈々ちゃんと宏ちゃん。 微笑ましい。


「あ、盆踊りー! 私行ってくるー」


 言うや否や突っ走っていく麻美ちゃん。 元気である。

 盆踊りかぁ……最近は踊ってないな。

 よーし。


「希望ちゃん。 私も踊りたいから押してー」

「車椅子で踊るの?」


 首を傾げながら聞いてくる希望ちゃんに、大きく頷いて応えると、希望ちゃんは「わかったよぅ!」と言って、盆踊りの輪の中へと車椅子を押してくれた。

 私達は、姉妹で仲良く踊り倒すのであった。

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