第464話 花火
☆亜美視点☆
車椅子で盆踊りを楽しんだ私達は、一休みする為に休憩所へやって来ていた。
お祭りが始まってそこそこ経ち、同じように休憩をしている人達も増えてきているようだ。
子連れの家族や、友人達と来ている中学生や大学生。 月ノ木学園高等部の生徒もチラホラ見かける。
バレー部の子達もいたりして、挨拶しに来たりもしていたねぇ。
と、そんなことを考えていたらバレー部1年生グループを発見した。 あちらも私達に気付いてこちらへ向かってくる。
「先輩方! こんばんわです!」
「こんばんわー」
「堅苦しいわねぇ。 もっと砕けていいのよ?」
と、奈々ちゃんが言うも、1年生達は「そんな恐れ多いこと……」と、何故か恐縮してしまうのであった。
私達は苦笑を浮かべて応対する。
1年生グループの中にはマリアちゃんの存在も確認できた。 可愛らしい浴衣に身を包んでいて、まるでお人形さんみたいだ。
「マリアちゃん、似合ってるねぇ」
「どうもです……」
相変わらず私には少し素気ないねぇ。 最後の方は少しはましになったと思うけど。
それでも私に対してのライバル心みたいなものは常に燃やしているみたいだ。
「そういえば聞きたかったんだけどさ、マリアってハーフだったりする?」
ずっと思っていたことを奈々ちゃんが訊いてくれた。 綺麗な金髪ブロンドの髪に碧い目。
欧州系の血が入っているんじゃないかと思わせる容姿をしている。
「はい。 母がイギリス人です」
「ああ、やっぱそうなのね」
「お人形さんみたいに可愛いもんねー」
「あ、ありがとうございます……」
と、顔を赤くして俯くマリアちゃんはとても可愛らしい。 きっとモテるんだろうなぁ。
1年生グループはひとしきり挨拶を終えた後、皆して手を振って夏祭りの喧騒の中へと戻っていった。
「すげぇカワイ子ちゃんだな」
「だよねぇ」
「ありゃ相当言い寄られてるわよ」
「他の1年の子に聞いたけど、ほぼ毎日男子に呼び出されてるってー」
と、麻美ちゃんが訊き出した情報を教えてくれた。 そうだよねぇ、あの見た目じゃ相当モテてるはずだもんねぇ。
奈々ちゃんが「私達も今でこそ落ち着いたけど、入学当初から相当凄かったじゃないの」と、笑っていた。
毎日2~3人相手にしてたもんねぇ。
今でも恋人がいるってわかってるにも拘らず玉砕しに来る男子が3日に1~2人はいる。
「校内の男子はもう全部砕いたんじゃないのか?」
宏ちゃんに訊かれてよくよく考えてみると、たしかに校内の男子生徒数から察するに、フッた数の方が多いような気がするよ?
これは月ノ木学園の七不思議に入るのではないだろうか?
「あれね、結構他校の生徒も混ざってるわよ? 放課後に呼び出してくる系の男子は大体そうよ」
「え、そうだったの?」
それは全然知らなかったね。 というかうちの学校のセキュリティ面大丈夫なの?
ちょっと怖くなったところで、休憩を終わり移動を再開する。 今回車椅子を押してくれるのは大親友の奈々ちゃん。
右手の捻挫もだいぶ良くなったみたいである。
「この車椅子本当に押しやすいわね」
「だよな」
皆が驚くほど押しやすいらしいこの車椅子。 けが人本人である私は押せないのでよくわからないのだけど、そんなに凄いんだろうか? 押してみたい欲に駆られる私なのであった。
「誰か、何か行きたい屋台あるか?」
「そだねぇ……私は無いかな」
他の皆も十分に堪能したと言うと、宏ちゃんは意味ありげに「ふふふ……」と、笑うとどこからか袋を取り出した。
あれは……。
「花火だー」
「その通り! 打ち上げ花火の時間までまだあるし、人のいないところへ出て手持ち花火でもやろうぜ」
「へぇ、宏太にしては気が利くわね。 どうせなら皆も呼んでやりましょうよ」
「そだねぇ。 他の皆ももう回り終えてるかもしれないしね」
ということになったので私は奈央ちゃんに、奈々ちゃんが遥ちゃんに電話を入れて、それぞれ駅前広場に来るように伝える。
その後、私達もUターンして駅前広場へと向かう事にした。
車椅子を押してくれるのは引き続き奈々ちゃん。
「奈々美、車椅子を押すより持ち上げた方が速いし楽なんじゃねぇか?」
「……ほぉ、試してみようかしら?」
「ちょちょちょ、奈々ちゃん待って!? 私乗ってるんだけどぉ!?」
本当に持ち上げようとする奈々ちゃんを静止して、何とか落ち着かせる。
奈々ちゃんのパワーなら私ごと持ち上げることもわけないと思うけど、多分その後宏ちゃんの頭の上から落とすつもりだっただろうからね。
怖い怖い。
「命拾いしたわね宏太」
「な、何をしようとしたんだ……」
予想した通りだよ。
「宏ちゃんもすぐそうやって奈々ちゃんを怒らせるんだから……」
「それがお姉ちゃんと宏太兄ぃの付き合い方なんだよー。 不器用だねー」
麻美ちゃんが言う通りなんだろうね。 この2人は小さな頃からこんなやり取りを続けている。 これが日常でありこれが当たり前なんだよね。 2人しかわからない付き合い方なんだろう。
渚ちゃんは少し苦笑いを浮かべて「佐々木先輩、命知らずなだけやないんですか?」と言っていたけど。
駅前広場へやって来ると、先に遥ちゃんと、大学生の彼氏さんの2人が来ていた。
ちょっとイジってやろうと思います。
「遥ちゃん、夏祭りデートはどうだった?」
「うぇ?! デ、デート?! どうでしたか先輩?!」
「え? うん、楽しかったね。 ははは」
んー、ダメだこの2人。 いまいち恋人同士としての付き合いというものを理解していない気がするよ。 遥ちゃんは御覧のありさまで狼狽えてるし、彼氏さんに関しては何かよくわかってるのかどうか怪しい。 こんなんで続くのか心配だよ。
それは奈々ちゃんも希望ちゃんも同じらしく、大きな溜息をついている。
私達は、少し人込みから離れた場所で奈央ちゃん達のグループを待つ。 9人で談笑しながら待つこと数分。 奈央ちゃん達が祭りの喧騒の中から出てきてこちらへやって来た。
「全員集合だな。 あっちの駅前公園で花火しようぜ」
花火を持参してきた宏ちゃんが先導して、公園の方へと移動する。 あと30分もすれば夏祭り恒例の打ち上げ花火も上がり始めるだろう。
とりあえず、思い思いの花火を手に取り皆で始める。
「……打ち上げも良いけど、手持ちには手持ちの良さもあるよねぇ」
「だな」
隣では、私を支えるようにして座っている夕ちゃん。 その横に希望ちゃんと麻美ちゃんも屈みこんで好きな花火で遊んでいる。
「あははは、両手持ちー!」
元気な麻美ちゃんは両手に花火を持ってはしゃいでいるし、静かな希望ちゃんは線香花火をじーっと見つめている。
バチバチバチバチ……
「はぅんっ?!」
「きゃははは! 希望ちゃんびっくりした?」
紗希ちゃんはねずみ花火で希望ちゃんを驚かし、それを見て奈々ちゃんや宏ちゃんが爆笑している。
とても楽しい時間だ。
あっちのほうでは奈央ちゃんと春くんが良い雰囲気だ。
そんな風に皆で手持ち花火を楽しんだところで。
ヒュー……
ドォン!
「おおー、始まったねぇ」
夏祭りの夜空を彩る打ち上げ花火が上がり始めた。 こうして大好きな人達とみる花火はやはり格別だ。
車椅子に座り、夜空に咲く大輪を見上げ、夏の終わりを感じるのであった。
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