第462話 奈央たちの夏祭り

 ☆奈央視点☆


 受験勉強をお休みして、夏祭りへ来た私達。

 グループに分かれての行動となり、私は春人君、紗希、柏原君の4名で行動中である。

 遥は彼氏さんと2人で別行動となっている。


「遥んとこは上手くやってるかしらね?」

「上手くやるって何よ……」


 紗希は「そりゃもう、アレよアレ」とわけのわからない事を言っている。

 本当に頭の中ピンクなんだから……。

 小学生の頃からマセてはいたけど、ここまでになるとはね。


「神崎さんは相変わらずですね」


 と、春人君も少し苦笑いしながら言う。


「本当、大変だよ」

「何よー! 裕樹だって私の体好きな癖に」

「あ、あのなー」

「はぁ……とりあえず行きましょう。 私、お腹空いたから何か食べたいわ」

「そうね。 あそこにお好み焼きとかあるわよ」

「じゃあ、お好み焼きにしましょ」


 女子2人でサクッと決めちゃったけど、男子2人は特に文句もないようで黙ってついてくるのであった。


「おじさん、お好み焼き4パックー!」

「あいよー。 って、西條さんとこのお嬢様!」


 私の顔を見るや大きな声で驚く屋台のおじさん。 まあ、仕方ないかしらね……。

 とは言え、この辺ではそんなにお嬢様然として歩き回ったりはして無いんだけれど。


「あー、畏まらなくて良いですよ。 外に出ればその辺の女子高生ですから」

「は、はい」


 ふぅ……こっちも気を遣ってしまうわね。

 やっばり、一般の人は西條家令嬢ってだけで畏怖してしまうのかしら。


「4パックお待ちどう様です!」


 紗希が代表してお好み焼きを受け取り代金を払う。

 落ち着いた所でお金を返しましょう。


「何処か、休みながら食べられる場所へ移動しましょうか」


 春人君が周りをキョロキョロと見回しながら、休めそうな場所を探す。

 どうやらこの辺りには無さそうという事で、少し移動し、ちょうど良さそうなベンチを見つけたのでそこに腰を下ろす。


「奈央は大変ねぇー」

「慣れたわよ。 と言っても、こっちとしてももう少し普通に接してほしいものだけどね」

「それも中々難しいんじゃないでしょうか? いくら奈央さんが普通に振る舞っているとは言え、やはり西條家の御令嬢という事実は変わらないわけですし」


 お好み焼きを頬張りながら春人君がそう言う。

 だとしたら、学校の友人達は随分と慣れてくれたものね。

 クラスの皆とかは、普通に接してくれるもの。

 本当、ああいうのは楽で良い。


「まあ、皆が皆そういうわけにはいかないんじゃないかな? 僕も最初はおっかなびっくりだったし」

「柏原君、最初の頃はビビッて紗希の後ろに隠れてたものね」

「そーそー! 情けなかったなー」

「仕方ないだろ。 普通はそうなるものだよ。 天下の西條グループだよ?」

「別に無礼を働いても食べたりはしませんわよー」

「ははは……」

「その辺考えると、良い彼氏見つけたわよねー奈央」

「そうですかね?」


 紗希の言葉に春人君が首を傾げる。

 私は最高の相手だと思ってるけど、春人君は違うのかしら? だとしたらショーック!


「北上君は西條家と付き合いの長い家でしょ? 奈央とも普通に接してるし何より元許嫁じゃん」

「まあ、そうですけど……正直言って、僕なんかが奈央さんに釣り合っているかどうか」

「西條家に婿入りする殿方が、そんな弱気では困るわ。 私が惚れたんだから釣り合ってるに決まってるじゃない」

「きゃはは! 謎理論だけど私も釣り合ってると思うわよん」

「だね。 どっちも気品あるし」

「はぁ、そうでしょうか?」

「そうなの!」


 私は強引にそう結論付けて話を切る。

 とりあえず、お好み焼きを食べ切ってお祭りを回るのを再開するのを優先する。



 ◆◇◆◇◆◇



「いやー、食ったわねー」

「紗希、はしたないわよ」


 どこぞのおっさんみたいに、腹太鼓しながらそんな事を言う紗希を注意する。

 女の子としての恥じらいはないのかしら?


「そーだ。 そう言えば2人はどこまで進んでんのー?」


 と、私に聞いてくる紗希。


「進んでるって何よ?」

「そりゃー恋人としてのステップの話に決まってんじゃない」

「恋人としてのステップ?」

「また困らせるような事を聞いて……」

「ははは……」


 ふうむ……恋人としてのステップか。


「キスはしたわよ! ふふん、どうよ!」

「……」


 それを聞いた紗希は、ジト目でこっちを見ながら溜息をついた。

 な、何だって言うのかしら?


「中学生かっ!」


 パシッ!


 後頭部を叩かれる。


「な、何なのよ?!」


 理不尽だわ。 ちゃんと答えたのに何で叩かれなきゃいけないのかしら。


「紗希……それはちょっと理不尽じゃないか?」


 と、柏原君も言っている。

 しかし、そんな事は我関せずと言った感じで紗希は口を開く。


「キスぐらい、今時中学生カップルでもしまくってるわよ? あんた達まだそこ?」

「ははは……まあ、はい」

「良いのよ、私達はこれで」

「奈央ー……私は心配で心配で」


 と、泣くフリをしながらそう言う紗希。

 この子はこの子で私の事を色々心配してくれているようだ。


「紗希……」

「北上君がこんな幼児体型な奈央相手に欲情出来ないんじゃないかって」

「黙らっしゃーい!」


 スパコーン!


 勢いよく紗希の後頭部を叩き返してやる。

 まったくこの子は……ちょっとウルッときて損したわ。


「あいたたた……」

「自業自得だよ紗希……」

「は、ははは……」


 春人君はこのノリにはついてこれないようで、顔を引き攣らせながら笑っている。


「あ、リンゴ飴よリンゴ飴」


 話の腰をへし折りながら紗希が走っていく。

 本当に周りを掻き乱すだけ掻き乱すんだから。

 仕方なくその紗希の後についていく私達。

 紗希はリンゴ飴を柏原君に買わせて、満足そうに舐め始める。


「レロレロ」

「いやらしいわ!」

「どうしろってのよ……って、話の続きしなきゃ。 実際どうなの北上君? 奈央のこのお子様ボディに欲情出来るの?」

「こらこら……」


 そんな紗希の質問に、春人君は真剣に悩む。

 いやいや……そんな真剣に考えなくても。


「そうですねぇ……。 僕も男ですから、ある程度は発育している方が……」

「がーん……」


 私ショーック! やっぱり私みたいなお子様ボディじゃ、春人君は……。

 こ、これじゃ跡取りが作れないわ。 どうしましょう。


「あ、いや。 その、奈央さん相手にその気になれないという意味ではなくて……あくまでも自分の好みと言いますか……」

「北上君は落ち着いた方が良い……」


 紗希のペースに完全に乗せられている春人君に、柏原君が声を掛ける。

 でも、私相手にもその気になるって言ってたわよね? よ、良かった……。


「ふふ、良かったじゃん奈央。 さっさとステップアップしちゃいなー」


 ポンッと背中を軽く叩かれる。 紗希ったら……。


「良いのよまだ。 私達は私達のペースでね。 それこそ、結婚するまでしなくても良い」

「奈央……はぁ、あんたがそれで良いならもう何も言わないわよ。 ただ、もし困った事があったら、すぐ私に相談するのよ?」

「ふふ……その時は頼りにしてるわよ、親友」


 結局、本当に私の事を色々心配してくれているらしい紗希。

 何だかんだで最高の親友ってやつね。


「あ、くじ引き屋台よー! 行きましょ」

「はいはい」


 これからもこの台風みたいな子に振り回されてあげましょうかね。

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