第450話 ここからは

 ☆亜美視点☆


 第4セット序盤。 想像以上に皆は奮闘してくれている。

 本当なら私と奈々ちゃんがフル出場しなきゃいけないところなのに、私の不注意で両方とも負傷。

 奈央ちゃんからはギリギリまで温存するという話を聞いている。

 このセットの中盤から終盤にかけて、私と奈々ちゃんを投入するつもりらしい。 それまでに大きな点差をつけられていなければ、十分に勝機はあるはずだ。

 現在スコアは5-4で良い感じに来ている。


「皆、頑張ってくれてるねぇ」

「そうね。 このまま行ってほしいとこだけど」

「うん。 宮下さんは簡単にはいかないよね」


 とはいえ、麻美ちゃんも結構読みが鋭くなってきており、宮下さんも苦戦してると見える。

 今は新田さんもいないタイミングだし、ここで点差をつけられれば。


 ピッ!


 と、思っていたらあっさり5-5にされてしまう。

 一筋縄ではいかないみたいだねぇ。 さすがに弥生ちゃん達を倒して上がってきただけはあるよ。


「でも、マリアも渚も良くやってるわ。 次の代もとりあえず安心ね」

「あはは、そだねぇ」


 頑張って後輩育成に注力した甲斐があるというものだ。


「希望ちゃんは手応えどう?」

「うーん、宮下さんがまだまだ余力残してるっぽいんだよ。 ここからだと思う」

「んー……あれでまだ八分ってとこかしら? 怖いわねー」

「そだねぇ……うわわ、ブレイクされてる」


 話している間に都姫女子にブレイクされている。 マリアちゃんのスパイクをカットされてからの宮下さんのバックアタックで決められたようだ。

 やっぱり宮下さんかぁ。


「宮下さんもだけど、川道さんもレシーブ上手いわね」

「うん。 本職のリベロと遜色無いよぅ」


 新田さんがいない間の守備を担う選手だねぇ。 本来はOHアウトサイドヒッターだけど、十分リベロとしてもやっていけるよ。


 それにしてもこれで5-6か……。 まだ大丈夫ではあるけど……。


「皆頑張れぇ!」



 ついつい声も出てしまう。 希望ちゃんも一緒に応援してくれている。 少しでも皆の力になれればいいけど。

 その声が届いたのか、その次のプレーで都姫から点を奪い6-6とする。

 更にその後も点を取り合って、7-8でテクニカルタイムアウトに入った。


「良いよ皆! もう少し! もう少し頑張ってね!」

「はいっ!」

「良い形で先輩達に回します」

「頼むわよ」


 帰ってきた皆を労っていく。


「ふう、正直予想以上にやれてると思うわ。 このまま離されずにいければ勝機はあるわ」

「よーし、やるわよー」

「亜美ちゃん、足の様子はどう?」

「動いてみないと何とも」

「そう……14点取れたタイミングで3点差以内なら2人とも出てもらうわ」

「OK」

「らじゃだよ」


 14点から残り11点取れば良いのか。 奈々ちゃんと紗希ちゃんで分ければそんなに跳ばなくていいかもしれないね。


「よし、じゃあ行ってくるわね」

「うん」


 短いテクニカルタイムアウトを終えて、皆がコートへ戻っていく。

 皆なら大丈夫だ。


 タイムアウト明けの最初の攻防をしっかり取り8ー8にする。


「よしよし……」


 あと6点。


「ねぇ、あんたその足は本当に大丈夫なわけ?」

「軽い捻挫だと思うし大丈夫大丈夫」


 踏み切る瞬間に痛みはあるけど、まだ全力でジャンプ出来るぐらいには大丈夫なはず。


「それより奈々ちゃんは大丈夫なの? さっき手首押さえてたけど」

「まあ、あと何回かぐらいはフルスイングできるんじゃないかしら」

「そか……お互い足手纏いにならないようにしないとねぇ」

「そうね。 案外、このまま渚とマリアに任せたままの方が良いんじゃないかしら?」

「あはは、たしかに」


 パァン!


 ピッ!


 おっと、都姫女子の攻撃が決まり8ー9。


「いやー宮下さんキレキレだわ。 よくあれに食らいつけてるわね」

「希望ちゃんが、大事な場面で凄く頑張って拾ってるからねぇ」

「麻美もよく宮下さんのスパイクに対応してるし」

「なははー。 中々大変だよー」

「麻美ちゃんがあれだけ止められないプレーヤーも珍しいよねぇ」

「私、そんな凄くないよー?」


 いやいや、十分凄いと思うけどなぁ。

 多分、全国指折りのMBミドルブロッカーだよ。


「んー……宮下先輩、テクニックもだけど、駆け引きも凄い上手くて中々的を絞れないんだよー」

「あーわかる」


 打つ時に視線でフェイント入れたり、体の向きとかと逆に打ってきたりしてわかりづらいんだよね。


「癖っていう癖も見当たらないというか、むしろ癖だらけでわけわかんないー」


 癖だらけなんだ……。 なんだか凄い。


 ピッ!


「うわわ、8ー10だよ」

「ブレイクされちゃったみたいね」

「まだ大丈夫ー! 皆ー! 頑張れー!」


 麻美ちゃんが大声で応援する。 それに倣って私と奈々ちゃんも声を出す。


「食らいつけー!」

「ファイトー!」


 都姫女子のサーブを希望ちゃんが上げて、奈央ちゃんがセット。

 速いトスをマリアちゃんがしっかり決める。

 これで9-10。


「良いよー!」


 マリアちゃん、冷静だね。 安心して見ていられる。

 来年は渚ちゃんとのWエースで、月ノ木を引っ張っていってくれるだろう。

 楽しみなプレーヤーだよ。


 ピッ!


「あー、惜しい!」


 遥ちゃんがブロックで弾いたボールにマリアちゃんが飛び付くも、僅かに届かずに落球。

 9ー11だ。


「宮下さん以外のスパイクなら何とかなるわね。 上手く宮下さんを抑えられないかしら?」

「難しいと思うよ。 レシーブも上手いし、レシーブの体勢からすぐ助走準備に入っちゃうからねぇ」

「やっぱり難しいのね」

「うん」


 ピッ!


 お、渚ちゃんが宮下さんのブロックを躱してスパイク決めたよ。 何か2人が会話をしているけど、何を話してるんだろ?

 何はともあれ10ー11。

 ここで希望ちゃんがベンチへ下がり、麻美ちゃんがコートへ。


「はぅ、1ブレイクされちゃったよぅ」

「仕方ないよ。 何とかなってるし、私達ももうすぐコートに戻るから」

「そうそう」


 まあ、戻ったからって勝てる保証はないんだけども……。


 その後の流れは、都姫女子にもう1ブレイクされた後、何とか離されないように食らいついて……。


 ピッ!


「おー! 決めた!」


 14ー16の2点差で、ノルマを達成してくれた、マリアちゃんと渚ちゃん。

 その2人と私、奈々ちゃんが選手交代である。


「ありがとう、お疲れ様だよ」

「ここからは私達に任せない」

「お願いします」

「清水先輩。 私達はちゃんとノルマクリアしましたよ。 これで負けたら許しません」


 と、マリアちゃんから厳しい事を言われてしまう。 でも、言う通りだね。

 2人はちゃんと私達の期待に応えてくれた。

 次は私達が見せる番である。


「見ててね。 私達の高校最後の戦い」


 2人とタッチを交わしながらプレートを手渡してコートへと入る。


「お、来たねー。 2人とも大丈夫ー?」


 宮下さんが話しかけてきたので、私達は「心配いらない」と伝える。

 さあ、このセットが勝負のセットだ。

 いつまで足が保つかわからないけど、行けるとこまで全力で行くよ。

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