第451話 堪えて
☆亜美視点☆
さて、決勝戦第4セット。 セットカウント2-1の14-16の場面で私と奈々ちゃんがコートに戻る。
足でトントンと床を軽く叩いていて痛みの程を確かめる。
「……」
衝撃が加わると痛む。 そんなに何度も跳べる感じじゃなさそうだ。
やっぱりこのセットで試合を決めちゃわないといけないね。
さぁ、試合再開だよ。
サーブは奈央ちゃんから。
パァン!
奈央ちゃんのドライブサーブが鋭く飛んでいく。 しかし、新田さんがそれをレセプション。
もう軌道にも慣れた感じなのかな?
「返ってくるよ! しっかり止めていこ!」
私もブロックの準備をする。
永瀬さんのトスは宮下さんへの速いトス。
私は追いつかないのでフォローに回る。
宮下さん相手にブロック1枚は心許ないけど……。
パァン!
宮下さんは空いたストレートに打ち込んで来た。
凄いコントロールだ。
「とぅ!」
しかし、スペースが空いているのをわかっていたのか、そこに希望ちゃんが飛び込む。
良い反射神経だよ。
「ナイス!」
すぐに私がフォローに入る。
奈央ちゃんの位置からは遠いので、ここは私がトスをあげるしかない。
遥ちゃんが早めに助走に入り、続いて奈々ちゃん。
「……こっち!」
私は軽いジャンプトスをほぼ真後ろに上げる。
そこには紗希ちゃんのバックアタックがやってくる。
「どりゃ!」
スパァン!
速さと高さを兼ね備えた紗希ちゃんのバックアタックには、都姫女子サイドも反応が遅れる。
辛うじて動いた新田さんも、カットするには至らず。
ピッ!
早速1ブレイクに成功し、15ー16とする。
これは希望ちゃんのファインプレーだね。
「このままサクッと追いつくわよー!」
「おうー!」
再び奈央ちゃんのサーブ。
パァン!
良い音させるねぇ。
と、ボールの軌道を見ていると、いつもと違い真っ直ぐ飛んでいく奈央ちゃんのサーブ。
あれ? ドライブ掛かってない?
そう思っていると、新田さんが慌てたようにバックステップしながら落下点へ移動しているのが見えた。
なるほど。 普段からドライブサーブしか打たない奈央ちゃん。 当然、都姫女子サイドもその事には気付いているので、奈央ちゃんのサーブ時はドライブサーブを警戒したフォーメーションになる。
そこを突いた絶妙なサーブだ。
「すいません!」
謝りながらも、何とかオーバーハンドで触った新田さんだが、ボールはかなり乱れた。
慌てて永瀬さんも走り出して、落下点に入る。
これは二段トスになる。
アタッカーとしてはかなりやりにくい展開のはず。
と思考を巡らせていると、視界の端で動く影を捉えた。
宮下さんがファーストテンポで助走してる?! あの位置からの二段トスでクイックなの?
紗希ちゃんもそれに気付いたようで、私の隣に走ってきて2人でコミットブロックに跳ぶ。
左足は痛むけどそんなことは言ってられない。
「うわわ!?」
「うげっ?!」
やられた。 ファーストテンポで走り込んできた宮下さんは、ジャンプすると見せかけて体を沈み込ませた後でピタリと止まる。
そこにセミクイックよりボール2個分高めのトスが上がった。
フェイクだった。 いわゆる一人時間差というやつだ。
「もーらい!」
パァン!
今度はがら空きの頭上をスパイクで抜かれてしまう。 とんでもないプレーヤーである。
駆け引き上手というかなんというか……。
これで15-17。 このまま逃げ切られるわけにはいかない。 あと3ブレイク以上取らないといけないのは少し骨が折れる。
「まったく、やってくれるわねー」
「ふふん。 このセット落としたら負けだしこっちも必死ってわけー」
なるほどなるほど。 都姫も必死ってわけか。 そりゃそうだよねぇ。
「このセット取れば私達にもチャンスあるみたいだし、抵抗させてもらうわよー」
うーん。 どうやら私達の怪我の具合もある程度見抜いてるみたいだね。 私達が勝ち急いでるのを見て取ったのかもしれない。
「この試合に5セット目は無いわよ」
と、奈々ちゃんがかっこいい事を言う。 宮下さんもそれを聞いて「おおー、かっこいいねー」と口にしていた。
さぁ、ここでサーブは川道さん。 何とかここを1本で切って点差を拡げられないようにしないと。
パァン!
飛んできたサーブを拾うのは希望ちゃん。 今日も終盤まで安定感抜群だ。
奈央ちゃんが走り込んでトスを上げる準備をする。
よし、全力ジャンプだよ。
という事で私はセカンドテンポで助走を開始。 右利きの私は左足で踏み切る為、どうしても痛みが走る。 こんな事なら左手で打つ練習でもしておくんだったよ。
「亜美ちゃん頼むわよ!」
奈央ちゃんが私を信じてトスを上げてくれた。 ありがたいねぇ。
「お任せだよぉ!!」
痛みを堪えての全力ジャンプ。 足立さんと宮下さんが2枚ブロックに来るも、私の手はその更に上。
2人の手の届かない位置から、新田さんの守備範囲外めがけてスパイクを打ち込む。
パァン!
打ち切った後の着地は右足で1本で行い、左足への負担を少なくする。
ピッ!
「よし!」
渾身の一発に思わずガッツポーズ。
「その足、ケガしてるのよね?」
「え? うん」
「はー……何でそんな跳べるのよ……」
大きく溜息をついてそういうのは宮下さん。 結構我慢してるんだけどねぇ。
でもこの分ならまだ跳べそうだ。 思ったより堪えられるよ。
「本当に化け……」
「人間だよ!」
「あ、はい」
とりあえずいつものをやっていきながらローテーションしてサーブを打つ準備に入る。
「さてさて……この足で打てるサーブはっていうとやっぱりフローターかな。 よっ!」
という事でフローターサーブを打ち込んでいく。 私のフローターサーブを処理しようと新田さんがボールに集中する。フローターは非常に軌道の読めないサーブ。 どんな名リベロでも処理をミスることがあるものである。
「はいっ!」
なんだけど、今回はあっさり拾われてしまった。 これもまたフローターの特徴である。
「今度は誰が打ってくるかな……」
現在このローテーションでは私と希望ちゃんが2人とも後衛にいる状態。 つまりWリベロ状態を作り出すことが出来るのである。 私は希望ちゃんに比べれば劣るけどそれでも十分に守りの一翼を担える。
「宮下さん来るわよ」
奈央ちゃんがそう発するとともに宮下さんにトスが上がる。
「さーこーい!」
宮下さんが跳び上がりスパイクを打ってくる。 ブロックは遥ちゃんのみ1枚で奈々ちゃんと紗希ちゃんはフォローに回る。
「っ!」
パァン!
スパイクは紗希ちゃんを避けるようにクロスへ打ってきた。 そこは私の守備範囲だよ。
「よっ!」
何とか真正面でディグすることに成功。 この鉄壁の布陣で一気に追いつきたいところだ。
「ナイス亜美ちゃん!」
奈央ちゃんがそう言いながらセットアップ。 攻撃は皆に全てお任せして、私達後衛はブロックフォロー。 とにかく点を取られないで、こっちが決めるまでひたすらラリーを繰り返す覚悟である。
「奈々美!」
ここでトスは右手を負傷している奈々ちゃんへ。
「っぁぁ!」
スパァン!
右手を負傷しているとは思えないようなインパクト音を残して、ボールが相手コートに突き刺さる。
ここに来て威力が増してる気もするけど、大丈夫かな?
ピッ!
「よっし!!」
奈々ちゃんもガッツポーズが出る。 これでまたブレイクである。
このまま勢いに乗って逆転したいところだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます