第449話 食らいつけ
☆奈央視点☆
決勝戦第4セット目。 開始直後はマリアの咄嗟のサインプレーから虚を突いたツーアタックで1点を取ったものの、その後は渚が連続でシャットアウトされていきなり2ブレイクされた。
渚、宮下さんに色々と言われてるみたいだし完全に止められちゃってるし、自信失くしたりしなきゃいいけど。
「絶対ぎゃふんと言わせて、私の名前を嫌でも覚えさせたんねん……ブツブツ」
大丈夫そうね。 むしろ熱くなってプレーが荒くならなきゃいいけども。 上手く手綱を取って調整していきましょう。
さて、渚へのトスはちょっと様子を見て紗希やマリアを使っていきますか。
川道さんのサーブを希望ちゃんが拾ってくれたので、私は定位置で待機。
ブロックは相変わらずスプレッドか。 うちの1、2年ぐらいなら1枚で十分って事かしら?
「じゃあ、ほい!」
ボールをライトに上げる。 マリアのセミクイックの上を飛び越えて……。
「おらー!」
後衛から紗希が跳びついていく。 紗希を1枚で止められるかしら?
「バックアタック版メテオストラーイク!」
スパァン!
紗希の打ち下ろすスパイクが相手コートに突き刺さる。 あれ、バックアタックからも出来るのね。
ピッ!
「ふーん! 甘いねー!」
無駄にデカい胸を偉そうに張りながら、紗希は都姫女子を煽る。 うーん、調子に乗ってるわね。
まぁ、今日はかなり決定率出てるし、亜美ちゃんと奈々美がいない今は一番頼れる選手だしガンガン使っていくしかないわね。
幸い、スタミナお化けだし何とかなるでしょ。
さて、ローテーションして次は遥のサーブ。 ここで希望ちゃんはコートを出て麻美が入ってくる。
今日はこの子のブロックも結構決まっている。 宮下さんに対抗できるカードである。
「っ!」
パァン!
遥のサーブ。 それは新田さんが拾っていく。 本当に崩せないわね。
リベロが崩れないから攻撃もやりやすい。
つまり、都姫女子の攻撃力の強さの根底を、新田さんの安定したレシーブが支えているわけ。
それは私達にも言えるけど。
「永瀬っち! ちょ-だい!」
「ほれ、ナベー!」
「なんでー!?」
宮下さんは無視されて田辺さんにトスが上がる。 そこには麻美が1枚ブロックについている。
「うぇーい!」
パァン!
麻美がドシャットを決めて、ここで1ブレイク返し3-2。
「ナイスブロックー」
「なははー。 宮下さん以外ならなんとかなるー!」
頼もしいわねーまったく。
「出来れば宮下さんも止めてね」
「頑張るー」
元気にそう応える麻美。 本当に、この子がどれだけ止められるかにかかってるわよこの試合。
中盤までリード、最低でも3点差っていうのも、麻美のブロック込みでのギリギリのライン。
亜美ちゃんと奈々美が帰ってきたとして、万全の状態から数段パフォーマンスが落ちているのはわかり切っている。
このセットが取れなきゃもう勝ち目はないわね。
「遥ーもう1本ー」
「あいよー」
パァン!
遥のサーブ。 ここであえて宮下さんに拾わせるも、あまり崩せず。
レシーブそれなりに上手いのよね、あの人。
しかもレセプションしながら助走に準備に入ってるし。 結局宮下さんの攻撃リズムを崩せないか。
「もっかい止めるわよー」
宮下さんのオープン攻撃が飛んでくる。
麻美と紗希で2枚ブロックに入る。
「うぇーい!」
「はっ!」
麻美のブロックにボールが当たり、コート外へ飛んでいく。 さすがの追いかけられないので諦める。
「うーん……やっぱり読み切れないー」
と、頭を抱える麻美。 相手の癖を見抜く洞察力に長ける麻美でも読み切れない攻撃パターン。
おそらくは、ほとんど癖が無いとかなんでしょうね。 本当に凄い選手だこと。
「切り替えていきましょ。 このままつかず離れず、しっかり食らいついていくわよ」
「はい!」
とりあえず3-3。 まだまだ序盤ではあるけど、なんとかキープしてるわね。
なんとかこのまま中盤戦まで持ち込みたいとこだけど……。
ここで都姫は新田さんが一旦いなくなる。 連続ポイントを狙うならこのタイミングなんだけどはてさて。
サーブは都姫女子の足立さん。
パァン!
「私が拾います」
と、足立さんのサーブを拾うのはマリア。 亜美ちゃんの代わりとして十分に働いてくれているわね。
「ナイスレシーブー」
亜美ちゃんや希望ちゃん程の上手さではないけど、それでも十分だ。
同世代なら右に出るプレーヤーはいないでしょ。
さて、ここは宮下さんも下がってるし、一回渚を使ってみましょうか。
「渚!」
渚のセミクイックに合わせてトスを上げる。 渚は跳び上がり、ブロックを上手く躱しながら決めてくれた。
「しゃ!」
「いいわよー」
うむ。 宮下さんや足立さんがブロックに来てなければ渚の攻撃も通るみたいだわ。
これは収穫収穫。
2セット目よりやれてるし、これは案外いけるんじゃないかしら?
「このままいくわよー」
「おー」
サーブはここで渚に回る。 このローテ、後衛にマリア、遥、渚となり攻撃力が最も下がるローテでもある。 前衛のメインは紗希で、麻美が搔き乱す役になる。
守備の時も、私の高さじゃブロックとして心許ないから2人頑張ってもらう他にない。
ここを凌げるかどうかが一つの山場ね。
「渚ナイサー!」
パァン!
渚のスピードサーブは、後衛の足立さんが拾って高く上げる。
あら、崩れたわね。 足立さん、案外レシーブは苦手っぽい? これも収穫収穫。
「ここ止めるわよ!」
「おーけー」
乱れたボールの落下点に入る永瀬さんは、仕方なしにアンダーハンドトスでボールを上げる。
それに合わせるのは後衛の宮下さん。 こういう難しいボールを託されるのはやはりエース。
「はっ!」
宮下さんのスパイク。 乱れていたボールを打っているとは思えないほど安定感のある攻撃だわ。
麻美と紗希が2枚で止めに行くも、それを躱してインナークロスに決めてきた。
信じられない上手さだわ。
「いやいや、末恐ろしい事……」
「そっちのエースとやキャプテンもでしょー」
聴いていたらしい宮下さんが言う。 まあたしかにそれもそうか。
「それに西條さんもー」
「私はまぁ当然ですわー」
私は持ち上げられれば遠慮したりしないので偉そうにふんぞり返る。 私はまぁ天才ですしね。
と、調子に乗ってる場合じゃないか。
4-4
一応最低目標の3点以上離されないってのは何とか達成できてるわね。 まずはこのまま1回目のテクニカルタイムアウトまで行きたいところ。
次は田辺さんのサーブ。 これもマリアに拾ってもらい、私がトスを上げる流れに持っていく。
次は麻美のクイックに合わせて……。
「ほっ!」
「うぇーい!」
パァン!
きっちりと決めてくれて5-4。 いいわよいいわよ。
「これは流れが来てるかもしんないわね」
正直言って、最低限の3点以上離されないっていうのさえむずかしいと思ってたけど、これは思ってた以上。
上出来よ。 とはいえまだまだ序盤も序盤。 特に希望ちゃんがいないこのローテを凌いでいくことが何より難しい。 あー、亜美ちゃんと奈々美さえ万全ならこんな苦労しないのにぃ。
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