第448話 月島渚や

 ☆渚視点☆


 さぁ、セットカウント2-1で4セット目に突入や。

 清水先輩も藍沢先輩も負傷して長期戦はきついはず。 このセットで勝負を決めんと恐らくこの試合勝たれへんやろう。

 で、このセットを取るための最低条件は……。


「良い? 次のセット、中盤までに出来ればリード、最悪でも3点以上離されていないこと。 もちろん、これは目安ではあるけど、今の亜美ちゃんと奈々美の状態を考えると、あまり点差が離されていない状況が好ましいわ」

「別に、私達だけで勝ってしまっても構わないんでしょう?」


 マリアはなんか偉そうなことを言ってるなぁ。 せやけど、それが出来るんが一番良いのは間違いあらへん。


「えぇ、それが出来れば」

「あはは、楽させてねぇ」

「私はまだ出れるけど」


 藍沢先輩はまだそんなことを言っている。 宮下先輩との勝負にかなりこだわってはるんやろうな。

 全国No3を決める戦いやからなぁ。

 でも3番目決めるんてなんか悲しくないか?


「まぁ、中盤以降出番あるかもしれないから、亜美ちゃんも奈々美もゆっくり休んでなさいな」

「そうだよぅ」

「うん」

「頼むわよ皆」


 2人から託された4セット目。 必ずいい形で2人に出番を回すんや。


「じゃ、いくわよ!」

「はい!」

「おー!」


 第4セット目のコートへ向かうと、宮下先輩が「ふむ」と頷きながら言った。


「2セット目と同じメンバーね? 藍沢さんはさっきのセットで痛めた手首が悪化しちゃった?」

「さあ、どないでしょ?」

「なるほどなるほど。 その分だとまだ出て来そうね。 さっさと出て来てもらうとしますかー」

「案外、2人が出るまでも無いかもしれへんですけどね」

「おー、言うね! 弥生っち妹!」


 むぅ……まだ私は「月島弥生の妹」扱いなんか。

 まあいいやろ。 この試合で覚えさせたる。


 さて、4セット目のサーブは都姫女子の永瀬先輩スタートや。


 パァン!


 4セット目の開始。

 ノルマは中盤までにリード、もしくは3点差以上離されてない事。

 難易度はかなり高いミッションやけど、それが出来ひんかったらこの試合、勝ちは無い。


「やるしかあらへん」

「はい!」


 雪村先輩の完璧なレセプション。 それを見越して素早くセットアップする西條先輩。

 完全に雪村先輩を信じてる動きや。

 さて、私は西條先輩がボールに触ると同時に助走を開始。 先に跳んではった蒼井先輩にブロックが1枚。 レフトで私と同時に助走していたマリアに1枚、私に1枚。

 いわゆるスプレットブロックやな。

 3人のブロッカーがそれぞれ離れた場所で待機する、1VS1のフォーメーション。

 と、トスを待っていると。


「はっ!」


 ツーでのプッシュスパイクで虚をつくマリア。

 え? マリア?! 西條先輩がセットアップしてたんやないんか?

 にしても何食わぬ顔でやってのけるとは、強かな子やなぁ。


 ピッ!


「んなー! ツーはノーマークだったー」


 と、頭を抱える宮下先輩。 いつでも騒がしい人やなぁ……まるで麻美や。

 何か、2人は気が合うらしいけど……。


「よーし、マリア! サーブよろしく」

「はい!」


 さっきのセットでは入れていくサーブを見せていたけど、今は4セット目序盤。

 攻めてもええ場面。

 マリアもそれはわかっているようで、コントロールを捨ててスピードサーブを打ち込む。


「ナイサー!」


 ボールは偶然にも新田さんの足元へと飛んでいく。

 ああいうボールは拾いにくいんや。


「……はいっ!」

「な、何?!」


 拾いにくいボールを足で拾う新田さん。

 足でレシーブはルール上ありやけど、そんなん普通出来る? 安定せんやん?


「ナイス千沙っちー! さすが元フットサルプレーヤー!」


 ええ……そんな初耳やん。


「キーパーですけど」


 それも初耳や。 ほんまにようわからん……通りで中学時代に噂聞かへんかったわけやで。

 つまり、高校に入ってからバレー始めてここまでやるようになったって事かいな……。


「あれも化け物ねぇ」


 と、神崎先輩は小さな声で呟く。

 それはそうとブロックやブロック。

 えーと、私らのブロックフォーメーションはレフト寄りにリリース。

 つまり相手側ライト攻撃……宮下先輩を警戒したフォーメーション。

 ライト側にはマリアがついてる。


「そら!」


 宮下先輩へトスが上がる。 ここはブロックアウトされへんように注意や。 少し手をセンター寄りに傾けて……。


「ストレートガラ空き!」


 ほんの僅かに空いたスペースを、まさに針の穴に糸を通すが如く狙い打ってくる宮下先輩。


「っく!?」


 せやけど。 ブロックアウトでさえなければあの人が。


「はぅっ!」

「なっ?!」

「わお!」


 雪村先輩が拾う。 足で……まさか、さっきの新田さんのプレーに対抗したわけやないよな……。

 てか、雪村先輩はサッカーとかフットサルなんて経験あらへんやろうに……。


「おーおー、良い感じじゃない?」


 と、西條先輩がセットアップする。

 偶々か狙ってなんかはわからんけど、足でのレシーブは割と良い所に上がったらしい。

 ほな、私はレフトからセミクイックで。

 神崎先輩はライトへ移動してバックアタックみたやな。

 その前に蒼井先輩、センターAクイックにマリア。

 トスは……。


「渚!」


 私に向かって飛んできた。 合わせて私も跳び上がり。


「うらっ!」


 スパイクを打ち込む。 しかし、それは宮下先輩のブロックに阻まれてしまう。


 ピッ!


「甘い甘いー。 そんなんじゃまだまだだねー、弥生っちの妹」

「うぐ……」


 ブロックを決めた宮下先輩は、腕を組みながら偉そうにそう言った。


「パワーだけじゃダメダメー」


 くぅ、私の気にしてる事を……。

 藍沢先輩からは色々と教わってきて、空中での駆け引きも教えてくれはった。

 私も気を付けてはいるけど、まだついパワーに頼ってしまう癖がある。

 それは、まだ技術に自信が無いからや……。

 まだまだ私は未熟やな。


 さ、切り替えて次のプレーに集中や。

 サーブは都姫女子の川道先輩。


 パァン!


 威力のありそうなスピードサーブ。 それを拾うのはマリア。

 さすがにレシーブも上手いなぁ。


「ナイスゥ」


 定位置より少しライト寄りに上がったボールに、西條先輩が追いつく。

 私は今度はライトへ移動しオープントスを待つ。


「ほら!」


 ライトへのオープンが上がる。

 ブロックは宮下先輩の1枚。 今度こそ決める。


「私は月島渚や!」


 宮下先輩のブロックはストレートを警戒したブロック。 クロスが空いてる。


「覚えときや!」


 パァン!


「……」


 クロスへ打ったスパイクは、咄嗟に腕の位置をズラした宮下先輩のブロックに阻まれた。

 跳んだ瞬間にクロスを空けていたのは、私にクロス打ちを誘導させる為やった?

 まんまと打たされた?


「……っ」

「いやいや、筋は良いよ。 さすが次期エースだねー。 今の場面でしっかりクロスを選択出来るプレーヤーは偉いぞー」


 と、上から目線でそう言う宮下先輩。

 も、弄ばれとるんか。


「でも、まだまだ甘いね。 何だっけ? 月島……あー、忘れたし弥生っちの妹で良いよね」

「うぐ……」


 まだ私の名前は覚えるに値せんちゅうわけか……。

 ええやろ。 絶対に覚えさせたる!

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