第445話 マリア

 ☆奈央視点☆


 3セット目終盤。 何とか16ー16で追いつきはしたけど、見た感じ亜美ちゃんも奈々美もかなり痛みを我慢してプレーしてるみたいね。

 特に足を痛めた亜美ちゃんは、テーピングで固定していても痛むらしい。

 骨に異常がなきゃ良いけど。

 どちらにせよ、あまり2人に負担を掛けるわけにはいかないわ。

 かと言って……。


「あいよ!」


 ピッ!


 何て考えてる間に、また宮下さんに決められてしまう。

 あれは止まらないわね。 麻美が何とかってとこかしら。

 あ、そうそう。 亜美ちゃんと奈々美の事考えてたんだっけ?

 あの2人に負担掛けないようにするとなると、紗希や遥をメインに使うわけだけど、それだと攻撃の択が少ないのよね。

 っと、希望ちゃんがサーブを拾ったわね。

 トストス……。

 えーと、遥がAで紗希がセミのバックアタック。 亜美ちゃんがセミで奈々美がオープン。

 んじゃ、紗希で時間差攻撃使いましょ。

 ブロックも遥と亜美ちゃんで釣れてるしね。


「ほいっ!」


 ちょっと速いトス。 紗希の打点にいち早く届く最短距離のボールを上げる。


「ナイストース!」


 ブロック1枚いるけど、高さ十分の紗希なら上から抜ける。


 ピッ!


「おっけ!」


 ふぅ、しかし亜美ちゃんと奈々美を使い倒せないのはしんどいわね。

 この際だから渚かマリアと交替させた方が良いかしら? どちらか1人ずつ残ればなんとかなるんじゃ?

 と思い、亜美ちゃんにタイムアウトを取るように合図する。

 亜美ちゃんはすぐに顧問に合図を送り、タイムアウトを取った。



 ◆◇◆◇◆◇



「どしたの奈央ちゃん?」

「亜美ちゃんか奈々美、どっちかをベンチに下げてマリアか渚を入れましょう」

「うわわ……」

「私達まだやれるわよ?」

「まだやれるじゃないわよ。 いつまでやれるかが問題なわけ。 両方同時に潰れられたら終わりよ終わり」


 短いタイムアウトだから、さっさと納得させてしまわないと。


「どっちか片方抜けるだけならまだ何とか戦えるわ。 さ、どっちが下がる?」

「奈々ちゃん」

「亜美でしょ」


 だぁーっ!


「はい! 足痛めてる亜美ちゃんが下がる!」

「えぇ……」

「文句は受け付けません! はい! マリア! 大丈夫!?」

「は、はい」


 強引に話を進めて亜美ちゃんをベンチに下げ、代わりにマリアを入れる事にした。

 亜美ちゃん程じゃないにしても、センスの塊みたいなプレーヤーであるマリアに期待しましょう。


「あら? 清水さんは?」


 コートに入ると、宮下さんがキョロキョロとコートの中を見回す。

 奈々美が「亜美ならベンチ」と、指を差すと宮下さんは「ありゃ、やっぱり足ダメ?」と残念そうに言う。


「何かわかんないけど、うちの司令塔が下げちゃったのよ」


 と、私に矛先を向けて来た。


「作戦よ作戦ー」

「おー! 西條さんの作戦なら油断できないねー!」


 宮下さんがバカで助かるわ。 正直な話、作戦な訳ないし、何ならただの亜美ちゃん温存だし。


「んで、代わりに出て来たのは君か。 マリアちゃんだっけ?」


 と、そんな話してる時間なんて無いのに宮下さんは……。

 つか、マリアのサーブじゃん。


「マリア、サーブサーブ!」

「あ、はい」


 話も半端に切って、マリアをサーブに向かわせる。

 危ない危ない。


「期待されてるね、あの子」


 と、宮下さんはそれだけ言い、ポジションについた。

 まあ、一応うちのスーパールーキーだものね。

 私達3年生が異常なプレーヤーなだけで、マリアだって1年生ながら全国区を張れる逸材だもの。


 そんなマリアのサーブが相手コートに飛んでいく。

 そう言えばマリアの目指すプレーヤー像を聞いた事があったわね。

 たしか……。


「東京の宮下選手です」


 そうそう、宮下さんが目標なんだっけ。

 亜美ちゃんは「え? 私じゃない?!」とびっくりしてたっけ。

 プレースタイルも宮下さんに近いし、割と良い線行くんじゃ無いかしら。


「ブロックー!」


 都姫女子の攻撃だ。 紗希が宮下さんのブロックに跳ぶも、ボールはレフトへ。 そっちは田辺さんね。

 希望ちゃんもセンターより右寄りに待機。

 ブロックには奈々美がついた。


 パァン!


「っ! ワンタッチ!」


 負傷した右手でもお構いなしにブロックして見せる奈々美。

 凄い気迫だわ。


「上げたくなるわね」


 しかし、このプレーでは誰に上げるかもう決めている。

 セットアップして……。


「行きなさいマリア!」


 ライト後衛に走り出し、バックアタックを試みようとするマリアに、絶好のトスを上げる。


「はっ!」


 パァン!


 良いバックアタックだ。 ギリギリで新田さんのレシーブも届かず。

 見事に決めて見せる。


「っし!」


 珍しくガッツポーズも出る。

 2セット目では随分やられたものね。 体も温まってきてるし、この子はこっからでしょ。


「ナイスマリア。 さすが我らのスーパールーキー」

「……は、恥ずかしいのでやめて下さい」


 と、紗希にイジられて顔を赤くしながらサーブに向かう。

 可愛いとこあるわね。 亜美ちゃんには相変わらずだけど、基本素直で良い子よね。


「マリア、もう1本ー!」


 マリアの2本目のサーブ。 これを新田さん以外に拾わせる好サーブにしたが、結局は拾われてしまう。

 そこから永瀬さん→宮下さんの連携であっさり決められてしまう。

 しかし、これで新田さんがコートアウト。 相手の守備力がダウンするポイントだ。

 ここで出来れば何本かブレイクしたいとこだけど。

 奈々美は負傷中。 マリアは後衛。

 んー……しばらくは紗希と遥に集めて……。


「じーっ……」


 マ、マリアが「私に集めろ」オーラ出して見つめてくるんだけど……。

 やけにやる気ね。 ここで活躍して自分を認めさせたいってところかしら?

 力みは邪魔になりやすいんだけど……。


「はぅ!」


 おっと、サーブが飛んできていたみたいね。

 希望ちゃんが拾ってくれているわ。

 私はいつも通りに、センターネット際でトスを上げる……。


「下さい!」


 マリアが声に出して主張してくる。

 珍しい事ではあるけども。


「えーい! はい!」


 ここはそのやる気に免じて折れてあげましょう。


「ありがとうございますっ!」


 パァン!


 マリアのバックアタックはブロックの手に当たり、ネットよりこちら側へ……。


「アウト!」


 奈々美が叫んだので、誰もフォローには向かわずにボールの落球を見届ける。


 ピッ!


 結果、マリアのスパイクはブロックアウトプレーとなった。

 さすが宮下さんを目指しているだけあるわね。


「ナイス。 狙ったでしょう?」

「は、はい」


 やっぱり天才ねぇ。 おー怖い怖い。

 こりゃ亜美ちゃん超えも近いかもね。


「よーし! 奈々美ー! エース決めちゃえー」


 と、ここで奈々美にサーブが回ってくる。

 新田さんがいない今、奈々美のサーブならエースだって狙える。

 けど、コートに戻ってきてからはへなちょこなフローターサーブしか見せていない。

 スパイクは打てるから、痛みがひどいというわけじゃあないでしょうし、温存かしらね。

 

 パァンッ!


 次の瞬間、強烈なインパクト音が耳に響いたのだった。

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