第446話 痛みが何だ
☆奈々美視点☆
さて……亜美が温存の為にベンチに下がったわけだけど……温存で良いのよね?
まあ、どっちにしろ今あの子はコートにはいない。
そんな中、何とか都姫女子と渡り合っているわけだけど、ここで私にサーブが回ってきた。
右手首を負傷してからここまで、いつものようなジャンプサーブは使わずにフローターサーブで誤魔化してやってきた。
けど、今は点差も無いしブレイクが欲しい。
なら、ここは勝負所っしょ。
胸の前でボールをクルクルとバックスピンさせて間を取る。
私のルーティンよ。
一つ息を吐いて助走しながらボールを斜め前方にトスする。
「っ!」
パァンッ!
インパクトの瞬間、手首が微妙に動いただけで痛みが走る。
弥生のテーピングのおかげでかなりマシだけど、それでも遊びは出来ちゃうのね。
サーブは、新田さんのいない相手コートへと飛んでいく。
出来ればサービスエースが欲しいけど……。
「あいっ!」
川道さんに上手く拾われてしまう。
仕方ない。 切り替えて攻撃を止める事に集中……って言っても、私はオポジットだから守備はしないんだけど。
「美智香いけっ」
宮下さんにトスが上がり、麻美と紗希が2枚ブロックに跳ぶ。
「うぇい!」
と、麻美が適当にブロックの手を動かして宮下さんのスパイクを止めようとするも、読みを外したようでボールはブロックの手に当たらずに真っ直ぐに私に飛んでくる。
「バカ美!」
これは仕方ないので、私が何とかするしかない。
「っこの!」
普段やらないディグをなんとかやってみる。
パァン!
「っけい!」
何とか拾う事には成功したけど、ボールは明後日の方に飛んでいく。
「何が『っけい!』よ!」
フォローの為に紗希が猛ダッシュしていく。
「ごめんー!」
とりあえず謝っておく。
このボールは返すだけとなり、引き続き都姫女子のチャンスボールとなる。
都姫女子は余裕を持って攻撃に繋いでくる。
「ほれ!」
パァン!
あっさりクイックを決められてしまう。
これは私の所為ね。
「……」
「どんまいです」
「あ、ありがと」
1年生に励まされてしまったわ。 情けないわね。
気持ちを切り替えていきましょ。
「よし! まだまだチャンスはあるわよ!」
それからお互いに更に点を取り合って22-23。
ここまで点差がつかずになんとか食らいついている。 私も前衛に移動して攻撃に積極的に参加していくわよ。
「永瀬っちナイスー!」
という事で、永瀬さんがサーブを打てくる。 しかしうちには希望がいる。 希望に任せておけば、よっぽどのことが無い限りサービスエースを取られるなんてことは起きないわ。
「はいっ!」
ほらね。 本当に頼もしいわ。
またこれが上手すぎるレシーブで、ほぼ毎回と言っていいぐらい、奈央のセット位置にボールを上げるのよね。
奈央も楽だって言ってたわ。
さて、私も攻撃の準備に入るか。
ということで、少し下がって助走の準備に入る。
「ほい!」
奈央は私にトスを上げる。 よし、決めるわよ。
タイミングを合わせて助走に入る。 ブロックは1枚。 上手く遥とマリアが釣ってくれたわね。
思いっ切りジャンプして腕を振る。
パァン!
ズキッ!
「っ!?」
打つたびに手首に痛みが走る。
ピッ!
何とか決まってくれたけど、明らかに威力は落ちている。 多分、都姫女子サイドも奈央も気付いてるはず。 さあどうする? このセット取れても、最低後1セットはあるわよ。
て、何考えてんのよ。 これが最後の試合なんだし、手首がぶっ壊れるまで打つだけでしょ。
痛みが何よ。
「どんどん上げなさいと奈央!」
「OK-!」
私の覚悟を見て取ったのか、奈央は何も言わずにそう応えてくれた。
これに応えなきゃエースじゃないわ。
「マリア、良いサーブお願い」
「わかりました。 出来るだけやります」
頼むわよ将来のエース。 サービスエースなら楽でいいんだけど。
マリアのジャンプサーブは、やっぱり新田さんに拾われる。 まあ、このチームからサービスエースはそうそう取れないか。
「美智香よろしく!」
ここも宮下さんできたわね。 ほんじゃま、ブロックに行きますか。
宮下さんのスパイクに会わせてブロックに跳ぶ。 すぐ隣に遥も来て2枚。
宮下さん相手だとこれでも心許ないわね。
「っ!」
パァン!
宮下さんのスパイクを落とそうと、無理矢理右手首を下に向けるために曲げる。
ピキッ!
「くっ!」
無理に曲げたせいで激痛が走る。
更にそこに宮下さんのスパイクが直撃。 ダメージはさらに加速した。
しかし、その甲斐あってボールは相手コートに叩き落として……。
「たぁっ!」
ブロックポイント取ったと思ったのに、そこへ新田さんが跳び込んでくる。
いい加減にしてよ。
「あー鬱陶しい!」
「ひぃっ」
ついイラついて大声を出してしまう。 手首の痛みでつい……。
「ごめっ! 気にしないで!」
とりあえずすぐに謝っておく。 ちゃんとした謝罪は試合の後でするわ。
今は返ってくるボールに集中。
宮下さんがすぐに後ろに下がって助走の準備に入る。 私はこのまま宮下さんのブロックの為にネット際待機。 右手は痛むけど、この際どうでもいい。
さっきぶっ壊れるまで行くと決めたものね。
「ナベー!」
今度は田辺さんのバックアタック。 私は届かないので大人しく待機して、ディグに託す。
パァン!
「はぅっと!」
「ナイス希望!」
よく拾ったわ。 あの子が拾えば大体チャンスボールになる。
奈央、頼むわよ。
助走準備に入って奈央のトスを待つ。 今前衛には私と紗希がいるけど、奈央がトスを上げたのは。
「奈々美、もう一発!」
「了解!」
私だ。 やっぱりこういう時に頼られてこそエースよね。 応えなきゃ。
助走に入って、大きく跳び上がりスパイクを……。
ズキッ!
「くっ! 痛みが……何よ!!」
パァン!
痛みを押して力一杯にボールを叩きつける。
ブロックをぶち抜いて相手コートに突き刺さるスパイク。
大きなブレイクポイントとなった。
「ナイス奈々美ーって……大丈夫?!」
「へ、平気平気……」
さっきのワンプレーで一気に痛みが増したわね。 テーピングで固めてるところを無理矢理に曲げたせいかしら。
右手首を抑えて苦痛の表情を浮かべる私を見て、紗希が心配そうに声を掛けてくる。
「でも、痛そうじゃん」
「別に痛くないわよ。 よゆーよゆー」
とりあえず誤魔化しつつ手をプラプラとさせて平気アピールしておく。 まだ打てるんだから下がるわけにはいかない。 間違いなく私より亜美の方が重傷だし。まだ亜美をコートに戻すわけにはいかないもの。
「さぁ! このセット取るわよ!」
「お、おー!」
ここを取って次のセットを取る以外に私達には無い。 痛みなんて無視して、バンバン点とるわよ。
「奈央ー。 奈々美だけじゃなくて私も使いなよー」
「わ、私も」
「わかってるわよ。ちゃんと考えてやってるから」
第3セット終盤。 このセットを取れるかどうかでこの試合の結果が大きく変わりそうだわ。
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