第444話 宮下美智香

 ☆亜美視点☆


 麻美ちゃんがここに来て宮下さんを止め始めてきた。 というよりも、さっきから読みを通しているという感じで、百発百中というわけではないみたいだ。

 しかし、それでもそこそこ機能しているところを見るに、何か癖を見つけたりしたんだろうか?

 だとしたら早めに情報を共有したいところだけど……。


「麻美ちゃん。 何か掴んだ?」

「んにゃ……全然」

「そか」


 どうやら本当に勘で手を出しているようだ。

 空中での選択肢が非常に多い宮下さんの攻撃。

 その全てを見切るのは難しいという事かな。


「宮下先輩って、これっていう癖が見当たらないんだよー」


 と、麻美ちゃん。

 私には何もわからないけど、麻美ちゃんでもわからないならそうなんだろうねぇ。


「でも、もう少し時間くれたら何とかしてみせるー」


 麻美ちゃんはそう言うと、自分のポジションに戻った。

 ふむ。 今の宮下さんをなんとか出来るとしたら麻美ちゃんぐらいかもしれないし、ここは頼りますか。 遥ちゃんも色々試行錯誤してるみたいだし。


 現在4ー2でリード中。 サーブは引き続き遥ちゃん。


「どりゃ!」


 気合い入ってるねぇ。 でも、その気合いの入ったサーブは川道さんに拾われてしまう。

 難しいボールだと思ったけどやるねぇ。


「良いよー! はいっ!」

「っ!」


 ここは田辺さんに上手く決められてしまい4ー3とされる。


「どんまいどんまい!」


 声が出ているのは紗希ちゃん。 最後の試合までしっかり私達のムードメーカーでいてくれている。


「ここ切るよ!」

「集中集中!」


 ここで都姫女子のサーブには宮下さんが回ってくる。

 後衛に下がっても強力なバックアタックがあり、中々気を抜けない選手だよ。

 特に今日は、田辺さんとの時間差攻撃も見受けられる。


 パァン!


 宮下さんの弾丸サーブを私は何とか拾って奈央ちゃんに繋ぐ。

 体勢も悪いし足も少し痛むので、後衛にいる時はブロックフォローに入る事をメインにする。

 まあ、奈央ちゃんから跳べと言われたら跳ぶけど、今のところ奈央ちゃんは何も言ってこない。

 前に出た時だけ攻撃に参加しよう。


「はい!」


 ここは麻美ちゃんのクイックに合わせる。

 麻美ちゃんも冷静に決めてくれて、5ー3とする。

 麻美ちゃん、なんだかんだ言ってスパイクも結構上手い。 というか、中々の決定率を出している。 生粋のMBミドルブロッカーかと思いきやOHアウトサイドヒッター適正も高いと思われる。


「ナイス麻美」

「やるじゃーん」

「えっへん! さー止めるよー!」


 ローテーションして次は奈々ちゃんのサーブ。

 奈々ちゃんの怪力から放たれるパワーサーブは、新田さんのいない都姫サイドには脅威なはず。


 トンッ……


「……あれ?」


 飛んでいったサーブは、奈々ちゃんのサーブとは思えないようなへなちょこフローターサーブだった。


「集中集中」


 ちょっとびっくりしたけど、今は集中だよ。

 奈々ちゃんのフローターなんてしばらく見てなかったからねぇ。

 慣れないサーブを打った結果、特に相手が崩れる事もなく川道さんに拾われる。

 そのまま当然の様に永瀬さんがセットアップ。


「……」


 相手コートの動きをよく観察する。

 後衛に下がった宮下さんは、まだ助走を開始していない。

 田辺さんとの時間差攻撃に要注意だ。

 その田辺さんは、Bクイックかな?

 紗希ちゃんが田辺さんのクイックを止めるためにコミットブロックに跳ぶ。

 更に永瀬さんがボールに触ると同時に、MBの高井さんがブロード。 更に更に宮下さんも助走を開始。

 綺麗なコンビバレーだ。

 実際に打って来たのはブロード攻撃の人。

 ブロックがいなかったのですんなり決められてしまう。


「1人1枚はしっかりブロックについてこ! 宮下さんは怖いけど、他の人がノーマークじゃ意味ないよ!」

「ラジャ!」


 とはいえ、存在するだけで否が応でも意識してしまう程のプレーヤー。

 自分で打つ時は勿論、打たない時でさえいるだけで囮として機能してしまう。


「宮下美智香……恐るべしだよ」


 と、感心している場合じゃないよ。

 何とかあと2セット先に取らないと。

 早めに決めないと私も奈々ちゃんもいつまで保つかわからないし。

 弥生ちゃんが処置してくれたとはいえ、ケガが治ったわけではないのである。


 

 ◆◇◆◇◆◇



 試合は3セット目中盤まで進み、14-16と逆転されてしまっている。

 何があったかというと、私と奈々ちゃんがそれぞれケガのせいで思いっ切りプレー出来ずに足を引っ張ってしまっているのである。

 痛みは我慢できるんだけどねぇ。


「亜美ちゃんも奈々美も、渚やマリアと替わった方が良いんじゃないの?」

「うっ」

「んー……」


 奈央ちゃんは正直な意見を私達に言ってくれる。 今の私と奈々ちゃんはそれぐらい足を引っ張ってるってことかぁ。


「私はまだやるわよ。 痛みは無視するわ」

「私も大丈夫だよ。 ここからは今まで通りプレーする」

「そう? 貴女達がそういうなら構わないけれど」


 と、私と奈々美ちゃんの我儘を聞いてくれる奈央ちゃん。

 何と言ってもこれが私達にとっての最後の試合だ。 ケガで退場なんて終わり方は御免だよ。


「そういうことなら結果で証明してね。 トス、ガンガン上げるわよ」

「どんと来いだよ」

「ええ」


 という事で、第3セット後半開始。

 サーブは都姫女子川道さん。 相手コートにはリベロの新田さんがいる布陣。

 この布陣を崩せないことには点差を縮めることはできない。


「はぅ!」


 希望ちゃんはいつも通りのポテンシャルでリベロの仕事をこなしてくれている。

 皆の頑張りに応えないと。

 奈央ちゃんがセットに入る。 私はあえて助走をせずに待つ。 ここでやるのは全力ジャンプ以外に有り得ない。


「んじゃー亜美ちゃん!」


 奈央ちゃんが私のコースに高いトスを上げてくれる。


「よし……」


 助走を開始して、全力で踏み切る。


 ズキッ


「……っ! あぁぁっ!!」


 痛みを我慢して、咆哮を上げながら大ジャンプする。


「高過ぎ!」


 ブロックを越えてスパイクを打つ。 コースもしっかりついて完璧に決めて見せる。


「よっし!」


 これほど気合を入れたスパイクを打ったことは今までなかったねぇ。

 いつもと変わらない高さを出せたし、何とかなりそうかな。

 ただ、やっぱり足は痛む。 早めに勝負を決めたいところである。


「んじゃ次は私に上げなさいよー」

「はいはい」


 という事で、ここで奈々ちゃんが前衛に入ってくる。 スターティングポジションだよ。

 奈央ちゃんがサーブを打って、新田さんがそれを拾う。

 ここまではいつも通りで、永瀬さんがトスを上げる。


 パァン!


「ワンチッ!」


 田辺さんのスパイクを何とかワンタッチで止める遥ちゃん。

 そのボールに食らいつくのは勿論希望ちゃん。


「はいっ!」


 上手く繋いでくれたボールを奈央ちゃんが……。


「ほら奈々美!」


 奈々ちゃんにトスを上げる。 奈々ちゃんはテーピングでガチガチに固めた右手を大きく振りかぶり。


「おらぁ!!」


 スパァン!


 もの凄いインパクト音をさせながらとんでもない威力のスパイクを打ち込んだ。

 

 ピッ!


「っしゃ!」


 私も奈々ちゃんも気合いで点をもぎ取り健在をアピールするのだった。

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