第440話 アクシデント

 ☆亜美視点☆


 第1セットも終盤に来て、少し点差に開きが出来た。

 23ー19でリードを増やした私達。

 新田さんがコートにいない間に稼いだ点差だ。


「セット取るよ!」


 気を引き締めて残り2点を取りに行くよ。

 ここに来て都姫女子のコート内には新田さんが戻ってきた。

 ここで粘られて流れを持っていかれるのは防ぎたい。


「麻美ちゃん落ち着いて入れていこう!」

「おー!」


 元気よく返事をしてくれた麻美ちゃんのサーブ。

 新田さんがすかさずレセプションに入り、サーブをカットする。

 永瀬さんのトスは、ここ一番勝負所という事でエース宮下さんに上げられる。


「亜美ちゃん2枚!」

「らじゃ!」


 遥ちゃんと2人でブロックに付き、タイミングを合わせて跳ぶ。

 私は全力で跳んで高さを出し、抜かれないようにする。


「よっ」

「うわわ、フェイント!?」


 しかし、宮下さんはここでフェイントを使ってきた。

 上手く後ろに落とされてしまう。

 搦め手まで上手いんだもんなぁ。 困っちゃうよねぇ。


「狡いわねぇ」

「勝負に狡いも狡くないも無いでしょ!」


 と、ごもっともな事を言う宮下さん。

 真剣勝負。 勝つ為には狡い技も使って行くべきなのである。


「1本集中だよ」


 ここで決めればセットポイントを握れる。

 何とか決めたいところ。

 お相手のサーブは田辺さん。

 

 パァン!


 飛んでくるサーブを奈央ちゃんが拾う。

 という事はここは希望ちゃんに任せて私は攻撃の準備だ。

 遥ちゃんが逆サイドでクイックを仕掛けている。

 なら私はセンターでセミクイックだ。

 遥ちゃんから少し遅らせて助走を開始。

 同時に希望ちゃんが跳び上がり、ジャンプトスを上げる。

 飛んだ先は奈々ちゃん。

 ブロックが遥ちゃんに釣られたのを見て、その後ろに待機していた奈々ちゃんへトスを送ったようだ。


「上手い!」


 希望ちゃんの好判断に思わず声を出す。

 奈々ちゃんは待ってましたと言わんばかりに跳び上がり。


「っあ!!」


 ボールを力一杯叩く。


 パァン!


「っ!」


 トォン!


「うわわ?!」


 その強烈なバックアタックを、華麗なダイビングレシーブでカットする川道さん。

 凄いの一言に尽きる。


「あれを拾うとはね」

「返ってくるよぅ!」


 希望ちゃんはまだ気を抜かずに構えている。 私もブロック先を考える。

 宮下さんか、田辺さんか……。

 永瀬さんがトスする為にジャンプする。


「そい!」

「うわわ!?」


 ここで虚を突いたツーアタックを仕掛けてきた永瀬さん。 完全にノーマークだった。


「はぅん!」


 しかしそれに反応しているうちのリベロ。 さっきの川道さんと言い今の希望ちゃんと言い、凄い反応速度をしている。

 ダイビングで拾った希望ちゃん。 ボールはそこまで高く上がっていないのだけど、奈央ちゃんなら何とかしてくれると信じている。

 奈央ちゃんは小さく合図を出す。

 ここであれを使うんだ。


「OK……」


 私は奈央ちゃんを信じて助走を開始する。 遥ちゃんも同時である。


「いきますわよー!」


 奈央ちゃんはアンダーハンドでトスを上げる。

 私と遥ちゃんは同時に跳び上がり、腕を振る。 すると私が振り抜いた腕にドンピシャでボールが運ばれてくる。


 スパァン!


 ここで久々の同時高速連携攻撃。 しかもアンダーハンドトスでドンピシャで合わせてきた。

 奈央ちゃん凄すぎるよ。

 この攻撃には相手サイドもどうすることもできず。

 セットポイントだ。


「そう言えばそんなのあったわね……最近出さないからすっかり忘れてたわよ。 卑怯でしょそれー!」


 と、急に切れだした宮下さんに対して、鬼の首を取ったように奈々ちゃんが言う。


「勝負に卑怯も何もないわよ」 

「ぐぬぬー」


 ブーメランが刺さって悔しそうな宮下さん。

 その後にプレーではワンブレイクされたりもしたが、何とか1セット先取することに成功した。

 ベンチへ返ってきて座り込む。


「ふぅ。 良い感じだね」

「そうね。 新田さんには結構拾われてるけど、希望もそれ以上に頑張ってくれてるしいい勝負になってるわね」

「今日は良い感じだよぅ」


 本当に今日は希望ちゃんに助けられている。 


「お願いね希望ちゃん」

「うん。 亜美ちゃんも奈々美ちゃんも、一杯点取ってね」

「ええ」

「もっちろんよ!」

「任せてよぉ」


 私達がしっかりスパイクを決めていかないとね。

 第2セットはもうちょっと積極的に最大ジャンプしていくよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 そんな第2セットも開始早々激しい攻防が繰り広げられる。

 実に30秒近いラリーが続いた。

 そしてそんな時であった。


 宮下さんの打ったスパイクを遥ちゃんがブロック。 しかしそのボールは高く跳ね上がりコート外へ飛んで行く。

 近い位置にいた私がダッシュで追いかけようとした時、同じように走り出した奈々ちゃんと思いっ切り衝突。


「うわわっ」

「ちょっ?!」


 そのまま2人で倒れ込む。

 

 ピキッ……


 ぶつかって倒れ込む時、左足を痛めてしまう。


「っ…」

「ちょっと、2人とも大丈夫?」


 心配して皆が近寄ってくる。


「んと……ちょっと左足捻ったっぽいかな……かなり激痛が……」

「ええ?!」

「ちょっと……プレーできるの亜美ちゃん?」


 私は立ち上がってみる。


「っ……」


 思ったより痛むよぉ。


「……ちょっと今は無理みたい……」

「どうすんのよ……」


 と、皆が私の心配をしている中、希望ちゃんはもう1人の異変に気付く。


「奈々美ちゃん? どうしたの?」

「……ごめん、私もちょっと右手首捻っちゃったかも」

「ちょっと……」


 ここに来て私と奈々ちゃんが一時戦線離脱することになりそうである。 まだ第2セット開始直後だし、今から応急処置すればまだ試合には出れる。 これが終盤でなくてよかった。

 主審にタイムを貰ってベンチへ下がる。


「せ、先輩方大丈夫ですか?!」

「んと……私は左足首捻挫で、奈々ちゃんは右手首捻挫……今から応急処置するから、その間は……」


 私は渚ちゃんとマリアちゃんに目配せする。 それだけで2人は察したようで、目つきを変えて小さく頷く。

 次期エースと未来のエース、この2人に私達の代わりをしてもらうしかない。


「任せてください。 2人が戻ってくるまで、何とか持ちこたえときます」

「……待ってますから」


 2人はそう言ってコートの中へ入っていく。

 あの2人と紗希ちゃんに任せておけば大丈夫だ。


「誰か、3人ほど控室までついてきて」

「はい!」


 応急処置をするために人を連れて一旦ロッカーまで戻ることにする。

 足を引きずりながら歩く私を見て、奈々ちゃんが心配そうに口を開く。


「ごめん。 ボールしか見てなくて……」

「私もだよ。 奈々ちゃんは利き手だよね……戻ってもあの強烈なスパイク打てる?」

「打つわよ」


 奈々ちゃんはそう言い切る。 これでこそ私達のエースだ。

 私も、何とか復帰して全力で跳ばないと。

 だから、それまで頑張ってね皆。 すぐに戻るから。

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