第441話 大ピンチ

 ☆渚視点☆


 インターハイ決勝戦の第2セット早々に、アクシデントで清水先輩と藍沢先輩が一時離脱。


「えらいことになってもうたなぁ……」


 と、小さく呟く。

 すると、西條先輩が呆れたように返してくる。


「何言ってるのよ。 春高予選からは、あの2人どころか、私達3年は皆いなくなるのよ? しっかりなさい」

「は、はい!」


 発破をかけれてしまった。

 そやな。 私らがしっかりせんとあかんねんな。


「持ち堪えるわよ!」


 神崎先輩が今一度気合を入れ直す。

 2人は必ず返ってくる。 それまでなんとかするんや。


 サーブは都姫女子サイド。 しかし中々打って来ない。

 なんや?

 主審が警告を出してようやくサーブを開始。

 ようわからんけど、試合は再開。

 サーブを雪村先輩が拾うと、西條先輩ははすかさずにセットアップする。

 先に蒼井先輩が助走に入り、西條先輩がボールに触れた瞬間に私とマリアが同時に助走。

 トスは真っ直ぐ私の方へ。


「はっ!」


 跳び上がり、スパイクを打ち抜く。

 ブロック1枚を抜いたわええけど、新田さんに拾われてしまう。


「すんません!」

「どんまい! ナイススパイクよ!」


 神崎先輩がフォローしてくれたので、少し気が紛れる。

 次は決める。


「その前に止めなあかんな」


 都姫女子の攻撃。 宮下先輩が助走に入っとるから、そこに合わせて跳ぶ。


 ちょん……


「フェイント!?」


 それもかなり中途半端なフェイントや。

 あんなんやったら簡単に拾えてまうで。


「拾わなくて良いわよ希望ちゃん」

「うん……」


 はい? 何でや? あんなフェイントやったら簡単に拾えてチャンスボールに……。

 と、思った矢先に都姫女子がタイムアウトを取った。


「な、何なんや……」


 私も渋々ベンチへ向かう。 一体何が起きてんのや。

 ベンチの前で集合すると、西條先輩が怒る。


「時間稼ぎですわね」

「え?」

「亜美ちゃんと奈々美ちゃんが戻ってくるまで、緩くやって時間を稼ごうとしてるみたいだよぅ」


 り、理解でけへん……。


「多分宮下さんだと思うけど、あの2人がいない私達に勝っても意味無いって思ったんじゃないかしら」

「せ、せっかくのチャンスやのに……」

「私と月島先輩はナメられてるってことでしょか?」


 マリアがそう言った瞬間に私も気付いた。

 そうか、私らが相手じゃつまらんってわけか。


「まあ、そうね」

「目にモノ見せたる」

「ナメた事を後悔させてあげます」


 なんや腹立ってきたわ。 先輩達が戻るまで持ち堪える? 冗談やないわ。

 2人がおらんでも勝ったる。


「向こうのコーチさんも気付いてタイムアウト取ったみたい」

「怒られてるわねありゃ。 こっからは本気で来るわよー」

「上等です」

「やったる」

「頼もしいよぅ」


 タイムアウトが明けてコートへ戻る。

 得点は2ー0でリードされている状態で試合再開。

 サーブは都姫女子が継続。

 今回は力の入ったサーブが飛んできた。

 切り替えてきたみたいやな。


「はぃっ!」


 それでも雪村先輩のレセプションは完璧や。

 それを見た西條先輩は、即座に移動してトスの準備に入る。 蒼井先輩はタイミングを見て助走を開始している。

 私もマリアも両サイドに分かれて助走に入る。

 西條先輩のトスを受けたのは私。


「せやけど……」


 後ろから足音が聞こえる。 神崎先輩や。

 私は囮になるで。

 ジャンプするも高さは出さずに着地して横にスライド。 その後ろから、凄い勢いでボールに飛び付く神崎先輩。


「うおりゃっ!」


 パァン!


 強烈なバックアタックを放つ。

 新田さんが飛び付くも僅かに届かず。


「ふぬー! 亜美ちゃんと奈々美がいなくてもやれんのよー! ナメんなー!」


 と、更に都姫女子を挑発していく。


「ははは、ごめんごめん。 そうよね。 失礼しました」


 宮下先輩は案外素直に頭を下げて謝ってきた。

 ここからは勝負に徹するとの事。

 

「手加減抜きでいくわよ」


 その瞬間、宮下さんから発せられるプレッシャーに一瞬気圧されてしまう。

 何ちゅう圧や……。 お姉ちゃんや清水先輩でもこんなプレッシャーはあらへんかったで。


「こら、気圧されんなー」


 ポカリと神崎先輩に叩かれてしまう。

 そ、そんなわかりやすかったんやろか。


「とにかく試合再開よ。 マリアー良いサーブお願いねー」


 ローテーションしてサーブは1年レギュラーのマリア。 私や3年の皆も期待を寄せるスーパールーキーや。


「ふっ!」


 パァン!


 マリアのサーブは西條先輩のドライブサーブと同じ物。 ただ落差だけ見れば西條先輩の方が遥かに大きい。


「はい!」


 あちらの新田さんも上手いリベロや。

 雪村先輩はかなり意識しとるみたいやな。


「美智香いけー!」

「あいよ!」

「渚! 合わせて!」

「はい!」


 神崎先輩と並んで2枚ブロックで止めに行く。

 しかし、宮下さんはニヤリと笑って盛大に空振る。


「囮?!」


 パァン!


 その後ろから川道先輩がバックアタックを打って来る。

 ブロックがいないストレートに打ち抜かれる。


 ピッ!


「やられたー……」

「あんな打つ気満々で囮になるやなんて」

「一筋縄じゃいきませんね」


 気を引き締めてかからなあかんな。



 ◆◇◆◇◆◇



 と、意気込むも……2回目のテクニカルタイムアウトを16ー10と大きく引き離されて迎える私達。


「つ、強い……何なんあのリベロ」

「あはは……新田さんよく拾うよね」


 かくいう雪村先輩もかなり拾ってくれている。

 問題は決めらへん私達の方にある。

 神崎先輩はそこそこ決定率も出してるのに、私とマリアは低空飛行。


「あかん。 こんなんやったら、託してくれた清水先輩と藍沢先輩に申し訳が……」

「別に気にしなくて良いわよ」

「!」


 振り返ると、そこには応急処置を終えたと思われる藍沢先輩と清水先輩の姿が。

 藍沢先輩は手首をテーピングと包帯でガチガチに固めてあるようだ。

 おそらく清水先輩も靴下の下は同じような感じやろう。


「で? 2人とも出れるの?」

「私は出れるわよ」

「私も」


 と、2人はまだ試合に出れるという事らしい。

 ただ、このセットは私達に任せるとの事。

 ここから2人が出ても逆転出来るかわからんしな……。


「頑張ってね皆」

「任せてー。 なるべく追いつくように頑張るわ」

「ですね」


 テクニカルタイムが開けてコートに戻ると、宮下先輩が早速話しかけてきた。


「あの2人は? 出ないの?」

「このセットは私らに任せるらしいです」

「ありゃ。 んじゃサクッとこのセット取っちゃおうかな」


 余裕な態度で笑う宮下先輩。 そう簡単に取られてたまるかいな……。

 私は月ノ木のエースを引き継ぐ女やで。


「負けへんで……」


 都姫女子からのサーブで試合再開。

 川道先輩のサーブはユラユラと飛んでくるフローター。

 拾いにくそうやけど、雪村先輩は器用にアンダーハンドで拾う。

 オーバーハンドで拾うのが一般的なんやけどなぁ。

 西條先輩のトスに合わせて、私は助走を開始。

 ブロック2枚。 上等や。

 勢いよく跳び上がり、ブロックの手の位置や相手コートの守備位置を一瞬で把握する。

 以前清水先輩がそう教えてくれた。


「ここや!」


 パァン!


 コースを見極めてそこへ打ち込む。

 少しコースは甘くなったが、それでも何とか決める事に成功。

 ようやく一矢報いることができた。

 このセット、まだ終わるわけにはいかんで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る