第439話 総力戦
☆奈々美視点☆
試合は第1セットも序盤を過ぎたところ。
テクニカルタイムアウト明けのラリーで、麻美が宮下さんをシャットアウト。
大きなブレイクだ。
「ナイス麻美!」
「うぇーい!」
「何やったのよ?」
「読み勝っただけだよー」
「読み勝ちねぇ……」
いまいちよくわからないわね……。
考えても仕方ないか。
「もう1本ー!」
遥のサーブで試合続行。
遥の放つ高速のジャンプサーブは、新田さんに拾われてセッターの永瀬さんに送られる。
足立さんが助走に入っているので私はそっちへ向かいコミットブロックに跳ぶ。
しかし、ボールはこちらへは来ずライト方向へ。
そちらには麻美が付いている。
「うぇいー!」
パァン!
ここは宮下さんのスパイクと麻美のワンブロックの勝負。
今度は麻美の指先を狙いブロックアウトを取りに来た。 これは麻美の読み負けって事なのかしらね?
「そうそう止められてたまるかってね」
「うー! 選択肢が多すぎるー」
麻美が頭を抱えている。 あれだけシミュレーションしててもやっぱり無理なものは無理なのかしらね。 でも、麻美なら何とかしてくれる気もする。
「どんまいだよ。 次止めていこう」
亜美が麻美の肩を叩いて励ますと、「もちろんだよー!」と元気に返す麻美。 この元気がこの子の取り柄よね。
私達が出来ることは1本でも多く決めること。 ここで相手はローテ。 新田さんが抜けて守備が少し手薄になるタイミング。
このタイミングでできるだけ稼ぎたいわね。
「足立ちゃんナイサー」
都姫足立さんのサーブ。 それを亜美がしっかりとレセプション。 奈央がセットアップするのを見て、私はライトへ走り込む。 麻美がクイックに跳び、紗希がレフト攻撃に備えている。
私は少し早めに助走を開始。 平行の速いトスを要求してある。
「はいっ!」
「良いトス!」
要求通りの最高のトスを受けてスパイクに跳ぶ。 ブロック1枚で止めるつもりのようね。 でも私だってパワーだけじゃないのよ。
「うらっ!」
相手の腕の外側にぶつけるようにスパイクを打ち、宮下さんのお株を奪うブロックアウトを取る。
「どうよ!」
「かー! 藍沢さんも上手い!」
「当然よ! 私は月ノ木のエースよ?」
「言うねー」
亜美が後ろから声を掛けてくる。 まあ、この子が本気になったら私より上なんだけどね……。
パワーが無いからエースアタッカーは無理という理由で、今は全体のサポートに落ち着いている。
何はともあれこれで10-8。 今のところまだリード出来ているわ。
とりあえずはこのままま2回目のテクニカルタイムアウトまで行きたいところね。
「バンバン上げなさいよ奈央ー!」
「誰に上げるかはその時その時で私が決めるわよー」
と、いつでも冷静な奈央はそう答える。 決してエース贔屓しないセッターである。
まあこの子に任せておけば間違いないのは確かよね。
「任せたわよ司令塔」
「はいはい」
それだけ言ってサーブの準備に入る。 ルーティーンでリラックスして助走をつけてジャンプサーブを打つ。
ここ最近はひたすらサーブの練習をしてきたから、ずいぶんサーブミスも減った。 亜美に色々コツを聞いたけど、あの子の言ってることはさっぱりわからなかった。
理論派なんだろうけど、強さと角度と回転数と空気抵抗を計算してって何なのよ。 だから化け物だってのよ。
私のサーブは川道さんに拾われているが少し乱れている。 永瀬さんがボールの元へ走り込んで行き高いトスを上げる。 宮下さんが助走から跳び上がる。 麻美と紗希でブロックに跳び私達はフォローに回る。
「うぇいー!」
「っ!」
パァン!
宮下さんのスパイクは紗希の手の平に当てて軌道を変えて高く飛んでいく。 これも狙ってやってんのかしら。 私はダッシュで追いかけて飛びつくも、わずかに届かず落球してしまう。
希望なら拾えたのかしら。
「どんまい奈々ちゃん。 次々」
「えぇ」
取れなかったものは仕方がない。 切り替えて次攻撃を決めればいいのよ。
「1本で切ってくわよー」
「おー!」
ここでお相手は宮下さんにサーブが回ってくる。 都姫女子の中ではビッグサーバーである。
その宮下さんのジャンプサーブが矢のように飛んでくる。
それをこれまた亜美が上手く拾う。 一体どうなってんのかしらこの子。
私は後衛なのでバックアタックの準備。 麻美の後ろについて時間差攻撃ができるように備える。
「はい」
トスは紗希の方へ飛んでいったので、私達はブロックフォローに回る。
紗希は高く飛び上がり……。
「メテオー!」
技名を叫びながら大きく腕を振る。
「ストラーイク!」
相変わらず大仰な名前の付いたスパイクだけど、あの高さから打ち下ろすスパイクって本当にやばいわね。
ピッ!
そのスパイクを決めてガッツポーズの紗希。 この子もかなりやばいわよねー。 本気ジャンプの亜美ほどではないけど、とんでもない高さだわ。
ブロックも大変そうね。
「良いよ良いよー」
「でも中々点差つかないねー」
とはいえ、麻美がかなり仕事してくれているのは事実。 この試合中に宮下さんを攻略しちゃうかもしれないわね、あの子。
さて、ローテーションして紗希のサーブ。 紗希のサーブは良くも悪くも癖のないスピードサーブ。
以外にもサーブミスは少ない。
パァン!
「ナイサー!」
しっかりとセッターに拾わせて攻撃のリズムを作らせない。 新田さんも引っ込んでいるので、代わりにトスを上げるのは足立さんのようだ。
「頼むー!」
平行の低くて速いトスを逆サイドに振る。 そちらには川道さんがセミクイック攻撃に跳んでいた。
麻美は宮下さん警戒でライトで待機していたため間に合いそうにない。 亜美が何とかダッシュで追いつくも間に合わず振りで打ち抜かれる。
ピッ!
「っし! こっちだって美智香だけじゃないのよ!」
川道さんも少々テンションが上がっているようだ。 宮下さん以外のアタッカーも軒並みレベルアップしていて厄介だわ。
「さすがに弥生ちゃん達に勝手上がってきただけあるねぇ。 新田さんいなくても普通にやれてるよ」
「まぁ、元々いなくても強いとこだったのが、あれが入ったおかげで一段と強くなっちゃっただけだけど」
「たしかにねぇ」
次は田辺さんのサーブ。 彼女のフローターサーブが紗希めがけて飛んでくる。
「うわっと!」
少し体勢を崩しながらオーバーハンドでカットする紗希。
多分、思ったより伸びてきたのね。
難しいボールになったけど、奈央がダッシュでセットアップしてトスを上げる。
それを亜美が決めて事なきを得る。
「ナイス亜美」
「いぇーい」
ガッツポーズを見せる。
「あっさり決めてくれるわねー」と宮下さんも呆れている。 本当に恐ろしい子。
そのままお互いブレイクを挟みはしたものの点差は変わらずに2回目のテクニカルタイムアウトに入る。
「ふぅ……相変わらず気が抜けないねぇ」
「そうね。 新田さんの動きもキレてきたし、この辺りからは中々決めさせてもらえないかも」
「私も頑張るよぅ」
と、新田さんに対抗意識を燃やす希望が珍しくやる気満々だ。
麻美もこっからどんどん止めていくと意気込んでいて期待できそうである。
「期待してるわよ」
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