第438話 成果

 ☆希望視点☆


 現在試合は第1セットの2ー2で同点。私は麻美ちゃんと交替してベンチに下がってきている。


「雪村先輩、どないな感じですか?」

「んー。 前衛が上手く宮下さんを抑えたり誘導してくれてるから、何とか拾いやすい形にはなってるよ。 でも、やっぱり宮下さんは空中での選択肢が多いから、かなり読みにくいね」

「さよですかぁ……」


 前衛が上手くコースを止めたりしても、構わずブロックアウトプレーを狙ってきたり、フェイントを混ぜて来たりと、多彩な攻撃で的を絞らせてもらえない。

 やっぱり上手いんだよね。


 試合の方は都姫サーブで試合が進む。

 レシーブ関係も抜群に上手い亜美ちゃんが、私がいない間は私の代わりを担ってくれている。


「上手いなぁ、亜美ちゃんは」

「いやいや、リベロとしてなら雪村先輩の右に出る人はおらへんですやん……」

「かなー?」


 自信はあんまり無いけど、周りから評価されているというのはよく知ってるし、自信を持っていいのかもしれない。


 パァン!


 ピッ!


 紗希ちゃんが得意の打ち下ろしスパイクを決めて3点目を取る。

 あのスパイクは本当に拾いにくそうだ。

 真上から落ちてくるような軌道だから、リベロの守備範囲の手前とかに着弾するんだよね。


「神崎先輩も全国トップクラスやないんですか?」

「多分トップ5ぐらいに入るんじゃないかな?」


 高さなら通常時の亜美ちゃんと互角だし、パワーもあるし。


「お、藍沢先輩のサーブや」

「頑張れー!」


 奈々美ちゃんは春先ぐらいからサーブ強化を重点的にやってきている。

 威力は良いんだけど、コントロール面に難があった為である。

 亜美ちゃんみたいなピンポイントを狙ったサーブは無理だけど、サーブミスは明らかに減っている。

 そんな奈々美ちゃんのサーブが、都姫女子コートに炸裂。

 新田さんがコート内にいないタイミングなのが功を奏したか、ノータッチエースとなり点差を広げる。


「もう1本!」


 奈々美ちゃん2本目のサーブは、後衛に拾われてそのまま攻撃に繋がり、宮下さんに決められてしまう。

 麻美ちゃんも頑張って触りはしたけど、ブロックフォローが間に合わなかったようだ。


「麻美の奴、宮下先輩のスパイクにしっかり対応しとるな」

「うん。 今日はかなり集中してるみたいだよぅ」


 さっきもずっと脳内シミュレーションとかいうのをやっていた。

 打倒宮下さんに燃えるのは奈々美ちゃんだけじゃないみたい。


 更に試合は進み、6ー5となっています。

 私もコートに戻り、サーブは都姫女子側。

 そのサーブが、奈央ちゃんに向かって飛んでくる。

 位置を入れ替わるにはタイミングが遅く、ここは奈央ちゃんにレセプションしてもらわざるを得ない。


「はいっ!」


 奈央ちゃんが上手くカットしてボールを上げる。

 いつもなら次のタッチは亜美ちゃんのトスだけど、亜美ちゃんは攻撃の準備をしている。


「任せて!」


 私は上がったボールに向かって助走をして、アタックラインの手前で踏み切ってジャンプ。

 今こそ、練習の成果を見せる時だ。


 私のジャンプに合わせて遥ちゃんと亜美ちゃんが助走を開始、さらに後ろでは奈々美ちゃんが助走の準備に入っている。


「亜美ちゃんっ!」


 私はずっと練習してきたランニングジャンプトスを亜美ちゃんに送る。


「ドンピシャだよ!」


 亜美ちゃんが腕を振って、クイックを決めてくれた。


 ピッ!


「よぅし!」


 上手くいった。 練習の成果が出たよ。


「ちょっとー! 雪村さんそんな事出来なかったじゃーん」


 宮下さんがプンプン言いながら文句を言っている。


「練習したんだよぅ」

「んもー! 厄介な技術をー」


 困ってる困ってる。

 これで私達の攻撃の幅も増えるというものだよ。


「良いじゃないの。 練習した甲斐あったわね」


 トンッと奈々美ちゃんに肩を叩かれ、褒めてもらえた。

 嬉しいよぅ。

 ローテーションして亜美ちゃんのサーブで試合続行。

 亜美ちゃんのサーブはエンドラインギリギリを狙った際どいものだったけど、新田さんは迷わずにカットする。

 亜美ちゃんの狙いはバレているみたい。

 そのまま永瀬さんがトスを上げて、田辺さんと宮下さんのコンビネーション。


「紗希!」

「はいよー」


 遥ちゃんと紗希ちゃんの高いブロックで、田辺さんをシャットアウト。

 しかし、ブロックフォローが間に合い更に都姫女子の攻撃が続く。

 しぶといよぅ。


「ナイスです!」


 フォローで上がったボールを新田さんが落ち着いてアンダーで上げ直す。

 私はどんなスパイクでも跳び付くよぅ。

 永瀬さんがセットアップ。 周りのアタッカーが慌ただしく動き始めて、こちらの前衛もそれに釣られて動く。

 リベロの私は誰が打ってくるのかをしっかりと見極めなければならない。

 宮下さん? 田辺さんかな? それとも川道さん? クイックの足立さんかも。

 相手コートとボールの動きを凝視して……。

 宮下さんだ。

 判断するや、こちら側のブロックの位置を確認してコースを予測しつつ、軽く両足を浮かせて予備動作に入る。


 あの体の位置とブロックの位置関係なら……。


「ストレート!」


 両足が地面に着くと同時に予測したコースの方へ移動をする。


 パァン!


 ボールは予測した通り、ストレートに飛んできた。

 少し手前に落ちそうなので、すかさずダイビングレシーブ。


「はぅ!」


 なんとかスレスレで拾う事に成功した。


「ナイスディグ!」


 すぐに紗希ちゃんがアンダーハンドで繋いでくれた。

 その打ちにくそうなボールを、奈々美ちゃんが何とか返してくれようとするも、ブロックに阻まれる。


「ごめんっ! せっかく繋いでくれたのに……」

「仕方ないよ。 今のは打ちにくかっただろうし」

「切り替えて切り替えて」


 紗希ちゃんが軽い感じでそう言って、ポジションに戻る。

 その次の攻防を何とか制して8ー6で1回目のテクニカルタイムアウトを迎える。


「1ブレイクリードだけど、新田さんの動きも良いから取り返される危険は常にあるよ」

「そうね。 ブロックも上手いし結構キツイわ」

「希望ちゃんは練習の成果が出せて良かったよ」

「うん」


 亜美ちゃんも褒めてくれたよぅ。

 せっかく出来るようになったのに、これが最後の試合だっていうのが少し残念。

 短いタイムアウトを終えると、皆はコートへ向かう。

 私はまた麻美ちゃんと交替だからベンチで待機だよ。


「雪村先輩、やりましたね!」

「ありがとぅ!」


 渚ちゃんも練習に付き合ってくれていたし、自分の事のように喜んでくれる。

 本当に練習してきて良かったよ。


「ナイス麻美ー!」

「うぇーい!」


 少し渚ちゃんと話していると、コートの方からそんな声が聞こえてきた。

 そちらに目をやると、ガッツポーズを見せる麻美ちゃんと、苦笑いを浮かべている宮下さんの姿があった。


「え? 何があったんや?」

「麻美が宮下さんをドシャットしたのよ」

「はぅー!」


 脳内シミュレーションをしていたのが上手くいったということなのかな?

 どうにせよ、宮下さんをドシャットするっていうのはかなり凄い事だよぅ。

 やっぱり麻美ちゃんも天才なんじゃ?

 

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