第437話 最後の試合
☆亜美視点☆
インターハイ決勝戦当日。
ロッカールームに集まった私達レギュラーは、ユニフォームに着替えながら作戦会議をしていた。
「まあ作戦って言っても、結局はいつも通りやるしかないのよね。 宮下さんを如何に止められるかってのは大事だけど」
「それと同時に、私達が如何に決定率を出せるかも大事よ? 立華戦のあの2年生リベロ見たでしょ?」
紗希ちゃんの言う通りで、新田さんをどうするかも重要な試合になってくる。
エース宮下さんに、スーパーリベロ新田さんという布陣は、京都立華を寄せ付けずに下した事からも、相当厄介なはずである。
「だけど、うちにだってスーパーエースとスーパーリベロが揃ってますわよー」
「頑張るよぅ」
「任せなさい」
「今日は私も目一杯跳ぶよ」
高校大会最後だし、悔いの残らないようにプレーする。
「ベンチメンバーも、いつでも出れる様に構えておく事」
「はい!」
ベンチメンバーは渚ちゃんを始めに2年生メンバーと、マリアちゃんが入っている。
スポット参戦の可能性もある。
「本当なら2年生をもっとスタメン起用したいんだけどねぇ……」
「ま、相手が相手だししょうがないさ」
「そうね。 麻美は2年生代表だし頑張りなさいよ?」
「わかってる……えーと……こういう時はこうだから……」
麻美ちゃんはさっきからぶつぶつとあーだこーだと呟いている。
珍しい光景だけど、曰く脳内シミュレーションしているとの事。
私もよくやるけど、あんな風になってるのかな?
「よし! じゃ行こうか!」
着替えも終わり準備万端。 私達はコートへ向かって移動する。
ベンチへとやって来ると、応援団の皆が応援を初めてくれた。
気合いが入るというものである。
「イケイケ月ノ木!」
「ありがたいわね」
「ですわねー。 これは負けられませんわ」
応援団の人達に深々と礼をして感謝を伝える。
そうこうしていると、都姫女子も中へ入ってきたようで、あちらからも応援が聞こえてきた。
「来たわね」
「おう。 決勝のお相手さんだ」
試合開始まであと少し。 やる事はやったし、後はリラックスして臨むだけ。
一度深呼吸してから、観客席をぐるっと眺める。
両校の応援を始め、大会に参加して志し半ばで敗退した学校の選手達もちらほら見える。
中には弥生ちゃんとキャミィさんの姿も見られた。
最後の大会で勝負が出来ないなんて、思ってもみなかったよ。
体をほぐしていると、主審から合図が出たのでコートに入る。
スタメンは3年生の6人。 間違いなく現状の月ノ木最強メンバーである。
「こんにちは。 今日はよろしくお願いします」
相手キャプテンの風見さんに挨拶をすると、あちらも丁寧に返してくれた。
「昨日はうちのバカが迷惑かけてなかった?」
「バカじゃないわよ!」
「あはは、大丈夫でしたよ」
「なら良いけど……」
「ははは……」
都姫女子バレーボール部員の中では宮下さんはかなり問題児なのかな?
「じゃあ、今日はお互い全力で」
「うん」
キャプテン同士で握手を交わして、互いの健闘を祈る。
お互いに自陣コート内で円陣を組んで、最後の気合い注入。
「絶対勝つよ! 月ノ木ー!」
「ファイッ!」
円陣を崩して、それぞれのスターティングポジションにつく。
私達のスターティングオーダーはいつも通り。
奈々美 遥 私
紗希 希望 奈央
の形。
対する都姫女子は
宮下 足立 風見
田辺 新田 永瀬
と、私達と似たオーダー。
これはまた両エースの点の取り合いになりそうである。
「奈央ちゃん。 サーブ頼むよ」
「ミスらないようにだけ頑張るわ」
決勝戦最初のサーブは奈央ちゃん。
主審の笛を待ちながら、奈央ちゃんはボールを突いている。
ピッ!
合図が鳴り、ボールを突く音が止む。
後頭部に手を添えて、奈央ちゃんのサーブを待つ。
パァン!
インパクト音と共に、決勝戦が始まった。
開幕、奈央ちゃんの強烈なドライブサーブ、通称パワフルサーブは、前衛後衛の隙間の絶妙な位置へと飛んでいく。
お見合いを誘発しやすい落下点だけど。
「拾います!」
そうならないように、新田さんが声を出して走り込んでいた。
反応早い。
しっかりとサーブの処理を行いボールを上げると、すぐさま永瀬さんがセットアップ。
レフトに走り込む足立さんと、ライトに来る宮下さん。
足立さんはクイックのようで、奈々ちゃんがそれに反応しコミットブロックに跳んでいる。
私と遥ちゃんで、ライト攻撃の宮下さんを警戒。
トスの方向を見てリードブロックに……。
「美智香!」
跳ぶ!
タイミング完璧で、高さも充分な私と遥ちゃんの2枚ブロック。
「っあ!」
パァン!
「ワンチッ!」
宮下さんお得意のブロックアウトプレーを狙って打ってこられる。
「はぅ!」
それを読んだのかは定かじゃないけど、希望ちゃんがダイビングレシーブでギリギリ拾い上げる。
「ナイス!」
低いボールになったが、奈央ちゃんがアンダーハンドで何とか繋いでくれた。
状況があまり良く無かったため、仕方なく高いボールになった。
それに、エース奈々ちゃんが跳び付く。
ブロック3枚、致し方ない。
「邪魔よ!」
そんな事はお構いなしに腕を振り抜く奈々ちゃん。
パァンッ!
これまた強烈なスパイクを打ち込み、ブロックの腕を弾き飛ばす。
何てバカ威力……。
ボールはそのままコート外へ飛んでいく。
ピッ!
「ナイキー奈々ちゃん!」
「良い出だしね!」
開幕早々のエースの打ち合いを制して先制。
「希望ちゃんナイスだったね」
「多分ブロックアウト狙って来ると思ったから」
という事らしい。
一点読みを通したって事だね。
更に奈央ちゃんのサーブ。
今回は新田さんの真正面に飛んでいき、これをあっさり拾われる。
「速いの来るよ!」
足立さんに加えて、宮下さんもファーストテンポで助走に入っている。
左右で分かれていやらしい攻撃だ。
仕方なくコミットブロックに跳び、宮下さん、足立さんを止めに掛かる。
「ナベー!」
が、ここは後衛を使われてしまう。
時間差のバックアタックを素通しである。
「はぅ!」
しかし、希望ちゃんがまたもや好レシーブを見せる。
「真正面だったか!」
希望ちゃんが上げたトスに、奈央ちゃんが即座に反応してセットアップ。
私も少し助走距離を取り攻撃準備に入る。
他には遥ちゃんがAクイック、奈々ちゃんがセミ攻撃。
奈央ちゃんがトス先に選ぶのは……。
「はい!」
遥ちゃんのAクイック……じゃなくて、その後ろから突っ込んでくるもう1人へのトス。
「お返しよ!」
紗希ちゃんによる時間差のバックアタックだ。
「っ!」
しかし、今度は新田さんがそれを拾ってみせる。
やっぱり簡単には抜けないみたいだ。
再度永瀬さんがセットアップし、高いトスを上げる。
「はっ!」
パァン!
今度は宮下さんにブロックを抜かれて決められる。
流れは良かっただけに、悔しい失点となった。
新田さんの守りがやっぱり厄介だねぇ。
守備範囲の狭さを突いて何とか決めていかないといけないようだ。
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