第424話 楽しいデート
☆希望視点☆
私の誕生日に夕也くんとデート中。
ショッピングモールでは主にウィンドウショッピングを楽しんだ私達は、そろそろ映画の上映時刻となるので映画館へやってきた。
「夕也くんと2人で映画館に来るの久しぶりだね」
「付き合ってた頃は良く来たな」
「うんうん。 色々な映画観たよね」
「ホラーだけは見てないな」
「はぅっ?!」
怖いもの全般が苦手な私には、ホラー映画なんて無理である。
間違いなく恐怖で気絶するに違いないよぅ。
「ほれ、この夏話題のホラー映画やってるぞ?」
「知らないっ! 亜美ちゃんと観に来れば良いじゃない」
と、私は全力で拒否する。
話題だか何だか知らないけど、無理なものは無理なのだ。
夕也くんは意地悪そうな顔で「しょうがない奴だなぁ」と笑う。
「亜美はホラー好きだけど、怖がらないし常に真顔で見てるからなぁ。 つまらんのだよ」
「何か想像がつくよぅ」
家でホラー特集とか見てる時も基本的に真顔で、心霊写真や体験話を聞きながら「これは作り物だねぇ」や「これはマジのやつだよ」等と反応するだけである。
私はいつも耳を塞いで画面を見ないようにしてるけどね。
「ふぅむ。 ホラーじゃないなら何を……観……」
夕也くんは公開中の映画のポスターを見ながら、ある1枚のポスターを見た瞬間に固まってしまった。
気付いてしまったね、夕也くん。
「な、何だこの周りのポスターとのギャップ……」
「さあ! 見に行くよぅ! 劇場版ボケねこ! ボケねこさんの大冒険!!」
大人気キャラクターのボケねこさんは、ついに銀幕デビューを果たしたのだ。
紗希ちゃんは既に観たということ。
私は今日が初だ。
今度また紗希ちゃんと観に来る約束をしている。
「え、映画にまでなったのかこのアホ面……」
「アホ面じゃないよぅ! 人をバカにしたような表情なんだよぅ!」
「あーそうか、そうだったな……」
何故か夕也くんは疲れたような顔をしながら突っ立っていた。
私はそんな夕也くんを引っ張って、チケットを購入して劇場へ向かうのだった。
「楽しみ。 ボーケーねこのー口はー開きっぱなしー♪ 目はいつも上を向いてるー♪」
ついボケねこのテーマも口ずさんじゃうね。
「し、しかし意外にお客さん多いんだな……ボケねこパークもだったが本当に人気キャラなんだな……」
「そうだよ? 大人気キャラクターだよ?」
今や女子の間では大人気のボケねこさん。 小学生から女子大生、果ては若いOLさんまでボケねこの人気は浸透している。
最近では子供がいるお母さんまでハマる人がいるとか。
「さすがボケねこさん!」
「お、おう……」
私や紗希ちゃんは、人気が出る前からずっとファンの古参なんだけど、まさかここまでビッグになるなんて思わなかったよ。
「お、始まるみたいだぞー」
「うんっ」
集中してみるよぅ。
劇場版ボケねこのストーリーは、ねこ達のマドンナ的存在であるヒメねこちゃんが、イタズラ好きのねこさん達である、クロねこ軍団に攫われるところから始まる。
「はぅ……ヒメねこちゃん……」
「……なぁ、ヒメが攫われたっていうのに、なんでボケねこは口を開けてヘラヘラしてるんだ?」
夕也くんが、他のお客さんに配慮して耳元で囁くように訊いてきた。
私は同じようにして答える。
「ボケねこさんは、いつ如何なる時でもあの表情なんだよぅ。 あれがデフォルトで、あの表情から変わる事は無いんだよ」
「……さよですか」
夕也くんは引き攣り笑いを浮かべるのであった。
ちなみに、オコねこさんやメソねこちゃんも、それぞれ怒った顔や泣いた顔から変わる事はない。
オコねこさんは怒りながら笑うし、メソねこちゃんは泣きながら怒るのだ。
映画の方はヒメねこちゃんを取り戻す為に、ボケねこリーダーの下に奪還チームが結成された。
メンバーはボケねこ、オコねこ、デレねこ、メソねこ、イケねこ君の5人。
「あの比較的まともそうなねこは?」
夕也くんがまた小声で訊いてくる。
多分、イケねこ君の事だろう。
「あれはイケねこ君。 マンガだと1人はいるナルシストでキザなイケメン枠のねこさんだよ」
「なるほど……」
顔は凄く美形だけど、ねこはねこである。 2頭身だし。
そのメンバーで、クロねこ軍団の秘密基地へと向かう。 途中、クロねこ軍団の下っ端達であるザコねこ達や罠に苦しみながらも、それらを乗り越えて秘密基地を目指す。
素晴らしい冒険活劇である。
「……眠い」
「寝ちゃだめだよぅ」
こんなに手に汗握る展開なのに、隣に座る夕也くんは欠伸を漏らしながら半分寝ている。
「……頑張ります」
目を擦りながらもスクリーンの方を凝視する夕也くん。
私も集中して映画を見るよ。
ボケねこ達は、5人で力を合わせてクロねこ軍団の秘密基地へとやってきた。
ここまで来るのにかなり疲れているボケねこ達は、それでも秘密基地に入っていく。
「秘密基地すげーな……」
「うんっ」
ちょっとしたお城みたいな外観と内装である。
5人は奥へと進んでいくが、ここでクロねこ四天王が登場。
仲間達は1人ずつそれぞれの四天王達と闘う。
1人になったボケねこは、クロねこ軍団のリーダーとヒメねこの元へ向かう。
「……」
「ボケねこ頑張れー」
小声でボケねこを応援する私。
ボケねこは、いつもの人をバカにしたような表情のまま、クロねこリーダーと激しく闘い、そして……。
「ぐっ……くそーボケねこめぇ! 次こそ必ず! 覚えてろよー!」
ボケねこがクロねこリーダーを倒すと、クロねこリーダーはありきたりな負け台詞を残して逃げていった。
こうして、ヒメねこはボケねこ達の元へと戻ってくるのでした。
「はぅー」
パチパチパチパチ……
私は感動で拍手をしていた。
エンディングのスタッフロール中に、私は号泣。
夕也くんはそんな私を見てハンカチを渡してくれる。 優しいよぅ。
◆◇◆◇◆◇
「素晴らしい映画だったよぅ。 また今度紗希ちゃんと観に来よう」
「お、おう……」
「夕也くんはどうだった?」
「え? ん……正直に言うと、あんまり」
「はぅっ?! そかぁ……夕也くんはボケねこさんあんまり好きじゃない?」
「好きじゃないとかじゃなくてだな、良さがわからないんだよなぁ……女子ウケや子供ウケが良いってのは最近分かってきたんだがどうにも俺には」
「そうかぁ……ごめんね夕也くん」
「いや、お前が楽しかったんならそれでいいぞ。 希望の誕生日だからな。 何にだって付き合うさ」
「夕也くん……えへへ、ありがとう! じゃあ、この流れでボケねこショップへ行くよぅ」
「了解だ」
夕也くんは、嫌な顔一つせず頷いて後をついてきてくれる。
私はボケねこショップで劇場版ボケねこのぬいぐるみを買ってもらって満足し、2人で喫茶店に入って休憩しながら色々な話をした。
夕方には帰路につき、家の近くの公園で少しお喋りをすることに。
「今日はありがとう夕也くん」
「いやいや。 こんなんで良ければいつでもって、亜美次第だけどな」
「あははは……でも亜美ちゃん、なんだかんだ言って私に甘いみたいだし許してくれるんじゃないかな」
「ははは……あいつ、希望に対しては鬼になり切れないみたいだからな」
「そうみたいだね」
ブランコに乗りながら話を続けていたが、私はスッとブランコから降りて夕也くんの正面に立つ。
もう1つ欲しいものがあるのでそれを貰う為である。
「夕也くん、キス貰ってもいい?」
「ん? んー……しょうがねぇな」
「やった」
夕也くんに許可を貰ってから、ゆっくりと唇を重ねる。
亜美ちゃんだけじゃなくて、夕也くんも私には甘いようだ。
「ありがとう。 帰ろっか」
「おう」
誕生日デートを終えて、亜美ちゃんの待つ家へと戻る私達。
楽しいデートだったよぅ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます