第423話 変わらない気持ち

 ☆希望視点☆


 今日は7月27日。 私の誕生日です。

 夏休みに入っている事もあり、今日は夕也くんと朝からデートをする事になっています。

 亜美ちゃん直々に許しが出たので、気兼ねなく出かける事が出来る。


「行って来ます!」

「行ってらっしゃい」

「晩飯までには戻る」

「はいはいー」


 亜美ちゃんに一言声を掛けてからデートを開始。

 今日は2人で市内にあるショッピングモールでお買い物したり、映画を見たり、ボケねこショップへ行ったりする予定だよ。

 夕也くん、ボケねこショップにはあまり乗気じゃないみたいだけど。


「今日は夕也くんにボケねこの良さを一杯教えてあげよぅ!」

「勘弁してくれ……」

「ボケーねこのー」


 と、わから私は聞く耳も持たずにずんずん進む。

 目指すは駅である。


「あ、そうだ。 一つ訊いていい?」

「なんじゃらほい?」


 ちょっと気になっていた事を、いい機会だから訊いてしまおう。


「最近、亜美ちゃんの目を盗んでデートに誘ってくれるじゃない? どうして?」


 そう訊ねると、夕也くんは少し困った表情を見せて言葉に詰まった。

 なんとなく予想はついている。


「亜美ちゃんがそうしろって言ってるんじゃない?」

「いやー、どうだろうなー」


 あからさまに目が泳ぐ夕也くん。 何というかわかりやすい。

 でもやっぱりそうなんだ。 私にはダメだって言ったのに回りくどいなぁ。


「聞かなかった事にするよぅ」

「そうしろそうしろ」


 亜美ちゃんは何だかんだ言って私にはまだ甘いようだ。

 長年そうやって私に気を遣って生きてきたんだから、多少仕方がない部分はあるのかな?


 駅へやってきた私達は、通い慣れた市内へ向かう為に電車に乗り込む。

 夏休みに入ったという事で、子供連れの家族が何組か旅行にでも向かうのか、荷物を持って電車に揺られていた。


「夏休みが終わったら、受験まで勉強だね」

「んだな。 宏太なんかは一足先に就職試験があるみたいだが」

「うんうん。 9月って言ってたね。 頑張ってほしいよぅ」


 宏太くんはペットショップで働きたいという事で、今は一生懸命に頑張っている。

 宏太くんがペットショップで働くようになったら、私もそのペットショップの常連さんになって色々サービスしてもらおう。


「希望の方はどうだ?」

「はぅ? 私は勉強頑張ってるよ? 毎晩3人で勉強してるじゃない」

「人見知りとかその辺だよ」

「はぅ……」


 私の最大の弱点である人見知り。

 年上の人は言わずもがなで、同年代の人とも普通にお話しできるようになるには多少時間がかかる。 そして私の人見知りは、小さな子供相手にさえ発動する。

 幼稚園の先生を目指すなら、絶対に克服しないといけない弱点だ。


「そんなんで大学生活送れるのか? 亜美も俺も、奈々美や宏太も……皆も近くに居ないんだぞ?」

「そ、そうなんだよね」


 私が受ける大学は、親しい友人が誰もいないのだ。 完全に1人なのである。

 新しい友人とか作れるだろうか? 今から不安が一杯だ。

 亜美ちゃんもそんな私が心配なのか、人見知り克服の為に色々と力を貸してくれている。

 それに応えて早く克服しないとね。


「まあ、俺も協力するさ。 あの希望が、自分のやりたい事を見つけて頑張ってるって喜んでるのは、亜美だけじゃなくて俺もだしな」


 と、夕也くんは優しく微笑むのだった。

 私は今まで、亜美ちゃんや夕也くんの後ろについて行く事しか出来ない弱虫だったけど、ようやく自分の道を自分だけで歩いていく事が出来ている。

 亜美ちゃんもそんな私を嬉しそうに見守ってくれている事は、良く知っている。

 本当に感謝感謝だよぅ。


 ちょっと話していると、電車は目的地に到着。 もはや見慣れた風景だけどデートともなればそんなことは気にならないものである。


「さて、最初はどこ行くよ? アホねこショップか?」

「ボケねこ」

「……で、どうすんだ」


 夕也くんは本当にボケねこの名前を覚えてくれないよぅ。

 亜美ちゃんや他の皆もだけど。 紗希ちゃんと2人で間違いを訂正するのも疲れるよぅ。


「うーんと、まずはショッピングモールかな。 ボケねこさんはその後だよぅ」

「ほいよ。 ショッピングモールだな」

「うんっ。 よぅし行こうー」


 夕也くんの手をを取ってショッピングモールへと移動を開始した。


「付き合っていた頃も何度かデートで行ったこともあるね」

「そうだな。 色々買ったりもしたなぁ」

「うんうん。 服とか買ってもらったね」


 今でもよく着ているぐらい大事にしている洋服だよぅ。


「今日は何か買ってやるぞ。 お前の誕生日だからな」

「やったー!」


 何を買ってもらおうかなー。 とりあえず見て回ってから考えようかな。

 とにかく2人でショッピングモールへとやって来た。

 まずは女の子として外せない宝石店へ。


「キラキラピカピカー」

「皆好きだよなぁ……こういうの」

「なんでだろうね」


 あまり考えたことないけど、宝石見てると安らぐんだよね。

 やっぱり女の子は綺麗なものに憧れたりするものなんだろうか。


「さすがにこの辺の物は買えねぇなぁ」

「あ、あはは……さすがに高価な物はねだったりしないよぅ」


 それぐらいの事は私もわきまえているつもりである。 宝石は本当に見てるだけでいい。


「ふーむ……指輪とかも凄く高いね」

「んだなぁ」

「こんなのを好きな人から貰えたら嬉しいだろうなぁ……」

「……そうか」


 夕也くんはちょっと困ったような顔をしながら、そう返したのだった。

 夕也くんから貰えたらきっとすごく嬉しいだろう。 それが叶う可能性が一体どれくらい残されているだろうか? もしかしたらもうゼロかもしれないけど、諦めたくはない。

 私の気持ちは、付き合ってた頃から……いや、初めて夕也くんを好きになった小学生の時からずっと変わっていない。

 いつまでも隣にいたい、一番で居たいとずっと思っている。


「……今でも諦めてないんだよ」

「知ってるよ。 俺だって気持ちは変わってないさ。 お前を幸せにしてやりたいと思ってる。 どんな形になるかはわからないけど」

「夕也くん……えへへ、ありがとう。 出来れば最高の形で幸せににしてほしいよぅ」

「あはは、中々厳しいこと言うなぁ」

「ははは、大変だね。 亜美ちゃんの事もあるし」

「そうなんだよ。 2人ともお手柔らかに頼むぜ」

「知らないよぅ」


 まだまだ、夕也くんの一番を諦めない私は、ヘラヘラと笑いながらそう返す。

 夕也くんにはまだまだ苦労かけちゃうけど、これは私をフッた罰だと思って諦めてほしい。


「よぅし、次行くよぅ」

「おうおう。 何処へでもお供しますよ」

「次は洋服屋さんー」


 夕也くんを引っ張りまわしてショッピングモールを練り歩く私。

 夕也くんも、何だかんだ楽しそうに一緒にいてくれるし私は楽しいよ。

 今日は誕生日だし、もうちょっと大胆に攻めてみてもいいかもしれない。 私だっていつまでも待ってるだけでいるわけにはいかないし、自分からチャンスを作るぐらいの事をしていかないと逆転なんてできそうにないからね。

 今日は頑張るよぅ。 覚悟だよ夕也くん!

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