第422話 2人の時は

 ☆亜美視点☆


「さーて滑るよぉ」


 夕ちゃんとのデートで日帰り温泉にやって来た私。 お昼のお蕎麦を食べた後はスケート場へやってきたのである。

 場内は観光客の人が一杯で、私達と同じように夏の暑さを避けて遊ぼうと言う人達が集まっているのかもしれない。


「はい夕ちゃんの服とか手袋だよ」

「サンキュー」


 スケート対策に軽めの防寒具なども持ってきているのでそれを着用し、いざリンクへ。


「おお、懐かしいねぇ」


 最後にアイススケートなんてやったのはいつだろうか? 小学校の遠足以来とか?


「とりあえずゆっくり回ろうぜ」


 私も夕ちゃんも久しぶりだけど、滑るのに問題はなかった。

 手とか繋いだりして、リンクをゆっくり回る。


「恋人っぽい!」

「ははは、普段はあんまり甘えて来たりしないからなお前」

「希望ちゃんの目が怖くなるんだもん」


 ちょっと目の前でイチャつこうとすると、すぐにジト目になるんだよね。

 大体、私は夕ちゃんの彼女なんだからどこでイチャついても良いと思うんだよね。


「だから、こうやって2人の時は目一杯イチャつくよ」

「なるほどな……希望も中々タフだな」


 夕ちゃんと私が付き合い出して軽く1年以上経つけど、まだ夕ちゃんを諦めずにチャンスを窺っているらしい。

 タフというか、本当に夕ちゃんが好きなんだろう。


「大変だね。 この際、本当にずっと3人でラブラブしながら生きていく?」

「あのなぁ……」


 さすがに現実的ではないか。


「そういや亜美は本当に奈央ちゃんの秘書と小説家をやる気なのか?」

「まだ決まりじゃないよ。 小説家のお仕事だって慣れたわけじゃないし、まだまだ決められないよ」

「そうか。 まだ大学4年間もあるしな」

「そゆこと。 結論出すにはまだ早いってね」

「なるほどな……」

「夕ちゃんは? 大学どこの学部にするの?」

「機械工学か電子工学かで悩むな」

「へぇ。 夕ちゃんそういうの好きだっけ?」

「そういうわけじゃないが、将来役に立つような職業に就ければなぁと思ってな」

「なるほどねぇ」


 夕ちゃんは現実的に将来を考えているようだ。

 これというやりたい事も見つからないのかな。


「私の事幸せにしてくれるなら、多少稼ぎがなくても大目に見るよ」


 冗談っぽく言ってやると、夕ちゃんは「ははは、なら気分が楽だな」と、笑いながら返すのであった。


 少し滑った後、休憩しながら他のお客さんが滑っているのを眺める。


「あんな小さな子供なのに上手だねぇ」

「だなぁ」

「小学校の遠足の時の希望ちゃん覚えてる?」

「あぁ、怖がって全然リンクに入って来なかったな」

「そうそう。 んで、勇気を出して入って来てみたら第一歩目で転けちゃって」

「芸術的な転け方だったな、あれは」


 その後、私や奈々ちゃんも一緒になって練習に付き合ってあげた結果、元々高い運動神経のおかげですぐに滑れるようになったけど。


「ああいう鈍臭いとこあるよなぁ」

「そだねぇ。 姉として目が離せないよ」


 とはいえ、最近はかなり大人になってきたし、これからどんどん私の手を離れていくんだろうね。


「さてっ、もう一滑りしよ!」

「あいよ」



 ◆◇◆◇◆◇



 満足するまでスケートを楽しんだ私と夕ちゃんは、涼しいスケート場から外へ出て次の目的地を目指す。


「次は何だ?」

「次はね、お団子屋さんだよ」

「団子? また食いもんか」

「あはは、これがまた美味しいんだよ」


 それに、ただの団子屋さんではなくて……。


「ここだよ」

「足湯団子屋?」

「そそ! 足湯に浸かりながらゆっくりお団子がいただけるんだよ」

「なるほどなー。 温泉街ならではだな」


 2人でお団子とお茶を頼み、早速足湯に浸かる。 スケート靴を履いて疲れた足を癒してくれるよ。


「夕ちゃんー♪」


 と、周りに他のお客さんもいないし少し甘える。

 夕ちゃんはいつもの調子で「またか」と笑った。

 少しイチャついていると、団子屋のおばさんが「あらあら若いねー」と茶化しながらお団子とお茶を運んで来てくれた。


「ごゆっくりどうぞ」

「はい」

「まったく……恥ずかしいわ」

「あはは、いただきます」


 私は早速よもぎ団子を口に運ぶ。


「んむんむ……よもぎの苦味がまたお茶に合うんだよねぇ。 んぐんぐ」

「マジで年寄り臭いぞ」

「失礼なぁ……女子高生だよ」

「そうかそうか」

「そんな事言う夕ちゃんにはこうだよ! はむっ!」


 夕ちゃんのお皿に乗っているみたらし団子を奪い口に入れる。

 甘ーい。


「おい! 俺のみたらし団子を!」

「まだ2玉残ってるじゃん。 はい」


 残っているみたらし団子を返してあげる。

 2人でのんびりとした時間を過ごす。

 こういうのも悪くないなぁ。

 また年寄り臭いって言われそうだけどね。



 ◆◇◆◇◆◇



 お団子も食べて小腹も膨れた所で、お土産屋さんを見ながら目的である温泉へと向かう。

 

「あ、希望ちゃんにこれ買って帰ってあげよ」

「そいつはバカねこか」

「そうそう! 温泉バージョンだって。 紗希ちゃんにも買おう」


 ちなみにボケねこが正式な名前だった事はすっかり忘れていて、後から希望ちゃんに怒られたよ。

 他の皆にも一通りお土産を買って、ちょうど良い時間に目的地に到着。

 我ながら完璧な時間管理だよ。


「ここか?」

「うん。 あ、予約していた清水亜美ですが」

「はい、確認します」


 待っていると「確認が取れました」と鍵を渡される。

 ここでは温泉を小分けされた湯船な分配し、各部屋ごとに小さな温泉を作った個室温泉なのだそうだ。

 一部屋は大体4人から5人が入れる広さになっているとの事。

 鍵の番号を確認して、それに対応した扉を開けると、そこは脱衣所になっていた。


「変わった構造だなぁ」

「そだね。 家族連れに配慮された温泉って感じだよね」

「そんな感じだな」


 私は早速脱衣を始めて入浴準備に取り掛かる。

 夕ちゃんは、そんな私を見て即座に視線を逸らした。


「んー? どうしたの?」

「俺の目の前で良くまあ躊躇なく……」

「何で? いつも見てるでしょ?」


 もう何回見られたかわかんないぐらいだけど、何を今更言ってるんだろうか?


「そういう時とは違うだろ……」

「んー……そっかな? まあ良いや。 先入ってるよ」

「おう」


 夕ちゃんを脱衣所に置いて、先に脱衣所を出る。

 扉を開けるとそこには立派な檜風呂に並々の温泉が。

 広さも家族用という事で、2人なら十分過ぎる広さがある。

 さすがに外は人通りもあるという事で、露天にはなっていない。

 ゆっくりするには良さそうな温泉だよ。

 遅れて夕ちゃんも入って来たので、軽く掛け湯して湯船に浸かる。

 ちょっと熱いぐらいお湯で、程よく体の疲れを癒してくれそうだ。


「ふぁー……極楽だねぇ」

「年寄り臭いぞ」

「またそんなこと言ってぇ……私、そんな年寄り臭いかな?」

「今日はな」


 普段は大丈夫ならまあいっか。


「今度は希望ちゃんも一緒に来たいね」

「そうだな」


 出来たら、奈々ちゃんや宏ちゃん、麻美ちゃんも呼んで、昔からの幼馴染同士裸の付き合いなんてのも良いかもしれない。

 きっと楽しいだろうね。


「ま、2人の時ぐらいは皆の事も忘れて……」


 夕ちゃんにそっと寄り添って、肩をくっつける。

 そのまま夕ちゃんの顔に自分の顔を近付けていきキスをする。



「えへへ。 希望ちゃんの前でやったら怒るもんね」

「たしかになぁ」


 せっかくなので、今のうちに目一杯イチャついておくことにするのであった。


 尚、帰宅後は希望ちゃんが夕ちゃんを捕まえて、来週に予定しているデートの話をする為に独占されたのでした。

 

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