第419話 家出騒動

 ☆紗希視点☆


 あれから裕樹の方は音沙汰が無い。 多分だけど、ご両親の説得に相当苦戦しているんだと思う。

 裕樹のご両親は本当に頭が固いのね。 私ならグレてるわ。


「紗希ちゃん、その後どう?」

「その後って?」

「柏原君」


 亜美ちゃんもなんだかんだで気になっているみたいだけど、亜美ちゃんが気にする事かしら?

 世話焼きというかなんというか。


「今のとこ音沙汰無し」

「そっかぁ」


 亜美ちゃんはそう言うと「大変だねぇ、彼も」と言いながら席へ戻っていくのだった。

 それだけ聞きに来たのね。

 にしても、大丈夫かしら裕樹……変なことになってなきゃいいけど。


「……心配ね。 ちょっとメールしてみようかしら」


 スマホを取り出してメールを打とうとすると、珍しい人からメールが飛んできた。


「舞ちゃんから?」


 舞ちゃんというのは裕樹の幼馴染の女の子で、その昔は冴えない裕樹に惚れていた。

 今は私と裕樹の事を応援してくれているけど、激しい取り合いをしていた時期もあった。

 そんな舞ちゃんからメールなんて珍しい。


「……え?」


 そこには驚くようなことが書かれていた。



 ◆◇◆◇◆◇



「えぇ?! 家に帰って来てないって?!」

「そうみたい……」


 変なことになっていたのだった。

 どうやら、昨日学校へ行くと言って家を出てから、連絡も無く丸一日家に帰っていないらしい。

 多分誰にも連絡してないのだろう。 私や舞ちゃんにも連絡してないくらいだものね。


「で? 心当たりとかないわけ?」


 友人達も心配してくれているようで、亜美ちゃんからは今日の部活休んだ方が良いよと言われた。

 と言われても、心当たりもない私が出来る事もなく……。


「ううん。 部活は出る。 大会前で大事な時期だし」


 私も心配ではあるけど、ここはご両親にお任せするほかない。

 舞ちゃんも同じ方針のようで、お互いに裕樹の無事を祈る事しかできないのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



「紗希ちゃんっ」

「……」


 トントントン……


「あ、ごめん」


 希望ちゃんのトス練習に付き合っているんだけど、私に合わせて上げてくれたトスに跳びつきもしないでボーッとしてしまっていた。


「紗希ちゃん……心配なら帰った方が良いよぅ」

「ううん。 私に出来る事は無いから」

「でも」

「紗希ちゃん。 練習に集中しないならいてもいなくても一緒だよ。 練習しないなら帰ってね」


 と、今度は亜美ちゃんから厳しい事を言われてしまう。 キャプテンとしてここで甘い顔を見せるわけにはいかないものね。


「ごめん。 集中する」

「それならいいけど……」


 と言って、亜美ちゃんは持ち場に戻る。 多分亜美ちゃんなりの優しさなんだろう。

 私が帰れるような流れに持っていくつもりだったんだろう。 ありがたい事よね。


 その後は裕樹の事は一旦置いておいて練習に集中した。

 練習後にロッカーでスマホを確認してみるものの、やっぱり裕樹からの連絡は無い。

 そんな中、舞ちゃんから1通だけ来ていたメールを開くと、信じられないようなことが書かれていた。


「えぇっ!?」

「え、どうしたのよ紗希?」

「何かわかったの?」

「ううん……でも」


 メールにはこう書かれていた。


「裕君のご両親は神崎さんが裕君を軟禁してるんじゃないかって疑ってるみたいです。 私はそれは違うと何とか説明してみたんですが、どうも信じてくれたかどうかわからない感じです。 警察なんかにも相談すると言っていたので色々大変なことになるかも。 気を付けてください」


 校門前で皆にメールの内容を話すと……。


「何それ……めちゃくちゃじゃない」

「これはひどいわね……」


 大事になってきた今回の裕樹の家出騒動。 私は構わないけど、私の家族にまで迷惑がかかっちゃう。

 早く裕樹を見つけて帰るように言わないと。


「これはのんびりしてる暇ないな」

「神崎、俺達も手伝うぜ。 何処でもいい、思い当たる場所とかないのか?」


 皆、部活の後で疲れてるのに裕樹探しを手伝ってくれるという。

 ここは私も甘えるしかない。 私一人ではもう手に負えなさそうだ。


「んと……あいつが行きそうな場所っていうと……」


 いくつか候補を挙げて、グループに分かれて探索を開始。

 とはいえ、時間も時間なので探せて1ヶ所ずつが限界だろう。 見つけられなければ駅前に集合して解散することになった。


 私は奈央と遥の3人で行動を開始。 目的地は図書館。

 1人で集中して勉強したい時は図書館へ行くって言ってたからである。

 この時間だと図書館自体は閉まっているけど、宿直の職員さんならまだいるかもしれない。

 とにかく急いで向かう。


 図書館に着くと、奈央が電話で職員さんを呼び出してくれた。 こんなところも西條グループの息がかかってるのね。 助かるわ。


「ええ……お願いします。 今から開けてくれるって」

「ナイス奈央」

「助かるわ」


 しばらく待っていると、宿直の職員さんなのかわからないけど、自動ドアの鍵を開けてくれた。

 中に入り、防犯カメラの映像を確認させてもらう。


「昨日の朝から今日の夕方までの分でいいんだね?」

「はい」


 ということで、カメラの映像を早回しで見せてもらいながら、映っている人の容姿を確認していく……。

 すると──


「止めてください!」


 昨日の11時頃に、それらしい人物が映り込んでいた。 背格好なんかは裕樹によく似ている。


「んんんー!」

「これは似てますわねぇ」

「だね」

「ふむ。 彼ならよく覚えているよ。 昨日閉館ギリギリまでいたからね」

「何か言ってました?」

「うーん……この辺でネットカフェ? みたいなものがある場所知らないか聞かれたねぇ。 この辺には無いから隣町か市内に行くしかないよって伝えたけど」

「ネカフェ……隣町にあったわね」

「あそこならお金払えば数日は籠ってられるからな」

「行きますわよ。 ありがとうございました」

「気を付けてな」


 職員さんにお礼をして、皆に連絡を入れる。

 見つかりそうだから、皆はもう帰っても良いよって連絡したんだけど、駅前に行くと皆が集まっていた。 本当に皆は……。


「紗希ちゃん、見つかりそうって?」

「昨日は図書館に身を隠してて、昨日ネットカフェの場所を聞かれたって職員さんが言ってたの」

「なるほどな」

「じゃあ隣町か……」

「多分そうじゃないかしら」

「んじゃ隣町だな。 行こうぜ」

「え? 皆も来るの?」


 そう訊くと、皆は「何を今更」みたいな顔をして振り向いたのだった。

 しょうがない友人達である。

 電車の中で舞ちゃんにも連絡して、必ず見つけて連れて帰るのでご両親の説得をお願いする旨を伝える。


「裕樹のバカ……こんなに大事にしちゃって、見つけたら叱ってやらなくちゃ」

「そだねぇ……」


 電車に乗り、隣町へと移動する。 皆も遅くなりそうという事で親御さんへ連絡してまでついてきてくれている。


「でも、よっぽど京都に大学へ行きたいんだろうな。 とてもこんな大それたことが出来る奴だとは思わないぞ」

「私もそう思う……こんな風にご両親に反抗したのは初めて見るもの」


 ご両親が警察を動かす前に何としても連れ帰らないと……。 足止め頼むわよ舞ちゃん。



 

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