第420話 自分の道

 ☆紗希視点☆


 家出騒動で行方をくらませている裕樹を探して、隣町のネットカフェへと向かう。


「さて、とっ捕まえて引きずって帰るわよ」

「紗希も落ち着きなさいな……」


 と、奈央が諭してくれるけど今回ばかりは私もさすがに怒っている。

 私はまだしも、私の両親にまで迷惑がかかるところなのだから。 舞ちゃん、上手く裕樹のご両親を止めてくれてると良いけど。


「でも家出して隣町のネカフェに籠るって、可愛らしいよねぇ」

「まぁ、それは言えてるわね」


 あいつ度胸があるのかないのかよくわかんないわね。

 ようやく皆でネカフェ前までやって来たわけだけど、大勢で入っても迷惑なので最低限の人数で入ることにした。


「ちなみにこの店は西條グループは……」

「残念ながら関係ないわ」

「そう……」


 どうやらこのお店では奈央を頼ることは出来なさそうである。 じゃあ私1人の方が良いわね。


「私1人で入るわ」

「まあ、それが良いかもしれないな」

「あんまり怒ってあげちゃダメだよ?」

「善処するわ」


 皆が心配する中、私だけでネカフェの中へと入っていく。

 カウンターに立つ店員さんに話をしてみるも……。


「お客様のプライバシーに関わるので、教えるわけには」


 どうやら簡単にはいかないようね。 仕方ない……。


「……た、大変なんです! その友人のご家族が事故に遭って救急車で!」


 とりあえず嘘でもなんでもついて会わせてもらわないと話にならない。

 嘘をついてつきまくってようやく……。


「……はぁ、わかりました。 お客様の名前で呼び出しをさせていただいても?」

「は、はい! 助かります!」


 私は自分の名前を伝えて裕樹を呼び出してもらう事に。 この店にいなさいよ裕樹。


「神崎紗希様からお呼び出しです……」


 店員さんが私の名前で呼び出しをかけてくれる。 これで裕樹がいてくれれば出てきてもらえるはず。

 が、しばらく待っても出てくる気配はない。 居ないのかしら? それとも聞こえてて出てこないのかしら?


「あいつ……どういう状況かわかってんのかしら」


 私はイライラし始めて電話を掛ける。

 が、電源を切ってるのか何なのか知らないけど繋がりもしない。


「あのバカ……」


 居てもたってもいられなくなった私は、無理矢理カウンターに乗り込んでマイクを奪う。


「お、お客様困ります」

「一大事なの!」

「あ、はい」


 店員さんを黙らせて私はボタンを押し放送をかける。


「あーあー。 こほん……お騒がせして申し訳ありませんが、少しの間我慢の程お願いします。 裕樹! 私よ、紗希よ! 良いからさっさと出てきなさい! さもないと、もうあんたとは金輪際会わないわよ!」


 ……。

 …………。


 しばらく待つと観念したのか、それとも金輪際会わないというのが効いたのか知らないけど、裕樹が姿を現した。

 

「紗希……」

「話は良いからさっさと帰るわよ! 大変なことになってるんだから!」


 私は裕樹の手を掴んで強引に引っ張って店を出た。


「あ、出てきたよ」

「皆お待たせ! 急いで戻りましょ」

「そうね」

「走るよぅ!」


 皆も一刻を争う状況だという事がわかっている為、急いでくれている。


「どうして紗希がそんなに慌ててるのさ?」

「あんたねぇ! あんたの両親は私があんたを軟禁してるって疑ってんのよ!」

「え……」

「警察沙汰にするって言ってるの! 私に迷惑かかるだけなら良いけど、私の親にまで迷惑かかるようなことしないで」

「そ、そんなことに……」

「わかったらさっさと走る!」


 裕樹を急かして駅へと走っていくのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 駅で皆は解散して、私は裕樹を連れて柏原家へと向かう。


「紗希が一緒に行ったらややこしくなるんじゃ?」

「何とかするしかないでしょ! 誰のせいでこんなことになってると思ってんのよ」

「ご、ごめん」

「謝るくらいなら家出とかしないでよ」


 こんこんと説教しながら裕樹の家を目指す私達。

 すると、裕樹の家の前では舞ちゃんが今か今かといった様子で私達を待っていた。


「あ、裕君! 神崎さん!」

「舞ちゃん、ご両親はどう?」

「何とか思い留まってもらえたよ」

「良かった……ほら裕樹! さっさと帰って説明する!」

「わ、わかったよ」


 私と舞ちゃんも裕樹の後について柏原家の中へと入っていく。 何とか穏便に済んでくれればいいんだけど。



 ──。



「神崎さん……ごめんなさいね、疑ったりして」

「いえ」

「裕樹。 一体どういうつもりなの?」

「……」


 リビングへ呼ばれた私達は、ソファーに並んで座って話を始めた。

 私は、裕樹を頑張って探して、家まで引きずって連れ帰ってきた事を説明して、疑いの方はなんとか晴れた。

 そしてそれを聞いたおば様は、次に裕樹に説明を求める。 おば様のお怒りもごもっともである。


「僕は京都の大学を受けたいんだ」

「外国語科なら白山にもあるでしょう?」

「それは……」


 私からは特に口を出すつもりはない。 多分ややこしくなるだろうし。


「ランク的にも白山の方が」

「ランクとかそういうのはもう良いんだ……僕は僕のやりたいようにやる」


 おお、裕樹がついにご両親に対して自分の意思を伝えた。

 成長したわね。


「裕樹……」

「自分の道は自分が決める」

「……」


 今まで反抗したことのないであろう裕樹が反抗してきたことによって、少し困惑の顔を見せるご両親。

 裕樹頑張るのよ。


「裕君……」

「……ふぅ……わかりました。 もう私達からは何も言いません。 やりたいようにやりなさい」

「!」


 どうやらおば様は折れたようだ。 裕樹の主張が通ったということになる。


「良かったわね裕樹」

「うん……」

「ただし、自分から言った以上は必ず合格する事。 落ちたりしても私は知りません」

「わかってる」

「ふぅ……裕君、神崎さんやお友達に迷惑かけちゃダメよ?」

「う、うん」

「まったく……さて、こんな時間だし私は帰るわね」

「ごめんね紗希……」

「もういいわよ。 一緒に京都のお大学行きましょ」

「うん」

「神崎さん、今回は本当にごめんなさいね。 今度お詫びの品でも……」

「いえいえ! そ、そんな大したことになってないのに……」

「ですけど……」

「本当に大丈夫ですので」


 と、何故かお互い頭をペコペコと下げながらやり取りを交わすのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 翌日──


「というわけ」

「おお、じゃあ、柏原君も京都の大学受けられるようになったんだねぇ」

「よかったじゃん」

「まぁ、そうね。 一緒に合格できればいいけど」

「大丈夫だよぅ。 紗希ちゃんは成績良いし、柏原君も虹高だよ?」

「そうそう」

「まぁ、私は頑張るわよ」


 皆との受験勉強で随分と成績も上がってきてるし、自信もある。 裕樹の方は正直どうなのかわからないけど、あいつの虹高での成績ってどんな感じなのかしらね。

 皆で集まって勉強してる時はかなり出来るように見えるけど。


「また今度、皆で受験勉強しようねぇ」

「えぇ、そうね」


 これからは裕樹も誘いやすくなってるだろうし、一緒に受験勉強会しようって声掛けておかないとね。

 でも京都か……出来れば一緒に部屋借りて一緒に住みたいわねぇ。 最悪でも近くに部屋を借りれれば良いんだけど……冬休み中に一緒に京都へ行くのはいいかしら?

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