第418話 紗希と裕樹
☆紗希視点☆
今日は7月10日の土曜日。
皆で西條家別宅兼集会所になっている元亜美ちゃんの家で受験勉強真っ最中。
今日は裕樹も来ている。 受験勉強をするという事で外出を許可されているのよね。
「そういえば、柏原君はどこ受けるの?」
「一応、白山が第一志望だけど」
「おお、私や奈央ちゃんと一緒だねぇ」
「そうね。 学部は違うんでしょうけど」
「僕は外国語科かな」
「なるほど。 グローバルな世の中だからねぇ」
という事である。 つまり、京都へ行く私とは遠距離恋愛になるわけ。
「でも一応だしね」
「じゃあ志望校変えるかもしれないって事?」
「まだ考え中」
「でもこの辺だと白山が一番ランク高いよな?」
「そうだね」
裕樹のご両親はとにかく学歴第一で考えている節がある。 もう少し裕樹を自由にしてあげてくれてもいいと思うんだけど。 そしたら私とももうちょっとデートしたり出来るのに。
「大変だねー柏原」
「ははは……もう慣れたよ」
「でもなぁ。 他にやりたい事とか行きたい大学あるなら親に話さねぇと駄目だぞ」
「まぁ、外国語を学びたいって言うのはあるからね。 そこは良いんだけど」
という事らしい。 本人が決める事だから、私からは特に何も言えないわ。
「まあとにかく、皆志望校目指して頑張りましょ」
「おー!」
カリカリカリ……
皆がシャーペンを走らせる音だけがする。
私も苦手科目の英語を頑張るわよ。
幸い、亜美ちゃんも裕樹も英語は得意だから色々教えてもらえるのよね。
助かるわー。
◆◇◆◇◆◇
しっかり勉強をして、終わる頃には夕方間近になっていた。
皆解散して、裕樹と歩きながら帰る。
「さっき、志望校変えるかもって言ったよね」
「言ってたわねー。 でも、この辺なら白山しかなくない?」
「京都外大……」
裕樹はボソッとそう言った。
「京都外大?」
「うん。 京都にもあるんだよ外国語が学べる大学が」
「京都……」
私が受ける大学も京都の芸術大学だ。 もしかして、私と同じ京都の大学を?
「まだ親には話してないんだけど、紗希が京都へ行くなら僕も……」
どうやら、私が京都の大学へ行くと言った時から考えていたらしい。 私としても同じ京都なら会いやすくて嬉しいけど。
「私と一緒に京都行きたいだけとかだったら、私は賛成しないわよ?」
「う……そ、それも少しはあるけど」
「やっぱり……私もそれは嬉しいし魅力的な話ではあるけどさ」
「……でも、外国語を学ぶなら白山より京都かなって思うところもあるんだ」
「ふぅん……まぁ、決めるのは裕樹だから私は何も言えないけど」
「うん……」
ここで甘やかすのもよくないでしょう。 しっかり自分で考えて決めてほしい。 本当に自分で考えてそれで今京都へ行きたいっていうなら私は反対はしないし、むしろ喜ぶ。
「紗希は厳しいなぁ」
「普通でしょ?」
私は自分がやりたい事をやるために京都へ行くのだ。 裕樹と離れることも仕方ないと考えて。
裕樹と一緒にいたいからと言って、自分の夢を捨てるなんてことは選択肢に無かった。
裕樹にもそうであってほしいと思う。
◆◇◆◇◆◇
翌日──
今日も今日とて皆で受験勉強。
「へぇ、柏原君がねぇ」
昨日の話を皆にもしてみる。
亜美ちゃんは「愛だねぇ」なんて言ってるけど……。
「まぁ、決めるのはあいつだからね」
「嬉しいくせに」
奈央はニヤニヤとしながら言った。
まったく……。
「あんただって北上君が日本に帰ってきて同じ大学受験するの嬉しいくせに」
「うぐ……」
「あははは、でも紗希ちゃんも柏原君も凄いね。 京都だなんて」
「そうだなぁ」
「私は別にそんなに凄くないでしょ」
「いやいや。 やりたい事の為に遠くの大学行くってのは凄いんじゃないか?」
うーん、そうなのかしら?
「知り合いのお姉さんにオススメされただけなのよね。 そこの卒業生で、色々教えてくれたし」
「へぇ、そうなの」
「えぇ。 色々お世話になっててね。 実は大学卒業後もそのお姉さんの下で見習いとして働かせてもらう事になってるのよ」
「何? もう就職まで決まってんの?」
「ちゃんと手順は踏むけどね」
私がお世話になっているデザイナーのお姉さんである。 若いのに自分のアトリエを持っていて、私が将来デザイナーになりたいって言ったら色々教えてくれた良い人だ。
「まあ何はともあれ、まず大学受からないと始まらないわ」
「そうだね」
「はぅ、頑張ろう」
「希望ちゃんは人見知り克服も頑張らないとねぇ」
「はははは」
賑やかに受験勉強は進む。 皆、わからないことは得意な人に聞いたりできてかなり捗る。 特に亜美ちゃんと奈央は何でも教えてくれて助かる。
ちなみに佐々木君は受験関係ないので、この場にはいない。 その代わり、資格を取るための勉強を頑張っているとの事。
勉強を一段落させて皆で休憩をしながらスマホをチラッと見てみると、裕樹からメールが届いていた。
「……ふぅむ」
「どしたのよ紗希?」
「うん。 裕樹からメールが来たんだけどね。 京都外大受けたいってご両親に話したみたいだけど、ちょっと難色示されてるみたいね」
「どうして? そんなのは彼が自分で決める事でしょ? ご両親の言う事なんて二の次で良いじゃない」
「私もそう思うけどね。 あいつは親の言いなりみたいなとこあるし……今回は自分から言い出しただけでも進歩したんじゃないかしら?」
「なるほどなぁ」
「柏原君の意思が尊重されるといいねぇ」
「うんうん」
まぁ、そうなってくれれば私も安心だし、京都でデートも出来るしで万々歳なんだけど。
今回は私から助け舟を出したりするつもりはない。 裕樹一人でご両親を説得してくれることを願うばかりよ。
「彼も大変だなぁ」
「そうだねぇ。 虹高もあんまり気乗りはしてなかったみたいだよ? 皆と月ノ木行きたかったって言ってた」
と、亜美ちゃん、 いつそんな話をしたのかしら……と思ったけど、多分去年の夏休みに4組でデートした時ね。 あの時シャッフルして観覧車に乗った時、亜美ちゃんと裕樹が一緒になってたし。
「紗希ちゃんと別れろって言われた時も結構大変だったもんな」
「あぁ、あったわね……あの時も何とか成績落とさずに事なきを得たけど、本当に危なかったわ」
「あの時、成績落ちちゃってたら本当に言いなりになって別れるつもりだったのかしらね」
「多分ね……」
もう少し自分の意思を持ってくれてもいいと思っていたし、今回の事は応援してるわ。
私はどうなっても受け止める。
「なんだか紗希冷めてないか?」
「え? そんなことないと思うけど……? 私は本当にあいつの意思に任せてるだけよ」
「これが今井君だったら」
「それはもう、私も協力して一緒に京都まで逃避行よ」
「紗希ちゃんっ!」
亜美ちゃんがすごい反応を見せる。
「冗談じゃん冗談」
◆◇◆◇◆◇
家に帰ってきて、軽くシャワーを浴びながら色々と考える。
裕樹と京都の大学に行けることになったら、京都で一緒に小さな部屋を借りて住んだりとかできるかしら? 裕樹、上手くご両親を説得できるかしらね?
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