第417話 雨の七夕

 ☆渚視点☆


 今日は7月7日の七夕。

 外は少し曇っているようだが、ギリギリ雨は降らないだろうと天気予報で言っていた。

 言ってたんやけどなぁ。


 ザァー……


「どしゃ降りやないか」


 部活終了後に外を見て愕然とした。

 私、傘持って来てへんって。


「あれ? どしたの渚ちゃん?」

「あー清水先輩。 傘持って来てへんのですよ……」

「なるほどなるほど。 天気予報じゃ今日は保つって言ってたもんねぇ」


 と言いながら、清水先輩はちゃっかりと傘を持っていた。

 しゃーない……濡れて帰るしかあらへんか。


「じゃあ、私は濡れて帰りますんで」

「あ、ちょっと待って。 傘入って行きなよ」


 清水先輩は笑顔でそう言うのだった。


 私はお言葉に甘えて、清水先輩の傘に入れてもらう事にした。


「そう言えば、今井先輩と雪村先輩は?」

「先に帰ってるよ。 私はちょっと遅れるから先に帰したの」


 清水先輩はキャプテンやから、たまに遅くなる事があるらしい。 備品の確認やらそんなんやろか?


「あ、私こっちなんで……ありがとうございました」

「え? うちに来なよー。 晩ご飯一緒に食べよ? 七夕だし賑やかにさ」


 清水先輩はこういうとこがある。 賑やかなんが好きみたいや。


「じゃあ、せっかくやし呼ばれときます」

「うんうん、どうぞどうぞ」


 結局、先輩に誘われるまま今井先輩の家へと向かう事に。

 私も1人で食べるより他の人と食べたいしな。



 ◆◇◆◇◆◇



「ただいまだよぉー」

「おじゃまします」

「ん? 渚ちゃんか。 いらっしゃい」

「えへへ、連れて来ちゃった」


 と、舌を出して茶目っ気を出す清水先輩。

 何しても可愛い人やな。

 清水先輩はそのまま服を着替えに部屋へ戻り、そのまま夕飯の支度へ。

 せっかくやから私もなんか手伝うか。


「私も手伝いますよ」

「ん? お客さんはゆっくりしてて良いよ? あ、そっかぁ! 夕ちゃんに料理食べてもらいたいんだねぇ。 しょうがないなぁ」


 先輩は勝手に自己完結してしまい、私が手伝う事をOKした。

 ほんまに人の世話を焼くのが好きな人なんやなぁ。


「今日はスパサラだから、そっちお願いできる?」

「わかりました」

「希望ちゃんは野菜切っておいてねぇ。 私は、もう一品おかず作っちゃうから」

「はーい」


 という事で分担作業開始。

 雪村先輩はご機嫌に鼻歌なんか歌いながら野菜を切っていた。


「雪村先輩、なんかええことあったんですか?」

「ん? うん。 27日に夕也くんとデートするんだよぅ。 誕生日だからね」

「今井先輩とデート? ええんですか清水先輩?」

「ええんだよぉ」


 ええらしい。 どうやら清水先輩から提案したらしい。 ようわからん人やで。

 でも今井先輩とデートかぁ……羨ましいなぁ。

 って、告ってもいいひんのに何考えてるんやろな。



 ◆◇◆◇◆◇



 夕飯が出来て皆でダイニングに集まる。 清水先輩はあの短時間で鶏の照り焼きを作っていた。

 ほんま何者なんやろこの人。 にしても美味い……私もまだまだやなぁ。


「で、今日は渚ちゃんどうしたんだ?」

「んむんむ……傘持ってきてなかったみたいだから一緒に帰ってきたんだよ」

「んで強引に連れてきたと」

「強引じゃないもん」

「そうですそうです。 私も二つ返事でOKしましたし」

「そうか。 帰る時は言ってくれよな。 マンションまで送ってくよ」

「あ、毎度おおきにです」


 今井先輩の家に晩ご飯を貰いに来ると、帰りは必ずマンションまで送ってくれはるんや。

 役得役得。


「送り狼になっちゃだめだよ?」

「ならねぇよ。 渚ちゃんもお断りだよなぁ?」

「え? あ、はぁ……そ、そうですね」


 清水先輩はニヤニヤしながら「ふぅん」とか言ってはる。 ほんまこの人は……。

 自分は今井先輩の彼女やから余裕があるんかわからんけど、なんでこう他の女子と今井先輩を2人したりするんやろか? ほんまに今井先輩の事好きなんやろか?

 まあ好きなんやろうけど、なんかようわからんなぁ。


 晩ご飯を食べて少しゆっくりしてから帰ることにした。

 今井先輩に声を掛けて2人で家を出る。


「じゃ、また明日ね」

「おやすみだよぅ」

「はい」


 清水先輩と雪村先輩に挨拶をしてドアを開けると、やはり雨が降り続いている。

 まだ梅雨やからなぁ。


「この傘、お袋のだから使っていいぞ」

「あ、おおきにです」


 先輩から傘を受け取って歩き始め、少し会話を交わす。


「清水先輩ってようわからないですよね?」

「ん? そうだな。 俺でもよくわからん時がある」


 い、今井先輩でもわからん時があるんか……。 ほんま謎。


「まあでも、あいつは昔からあんな感じだぞ。 いっつも人の事ばっかり世話焼いてんだ。 それで結構不利益になったりもしてるんだけど」

「あ、やっぱりそうなんですね」

「ありゃもう性格だし治らねぇな」

「あはは……そなんですね。 世話焼きなとこもお姉ちゃんによう似てはるわ」

「ほう、お姉さんもなのか」

「まあ。 あそこまでやないですけど」

「そういえば、去年修学旅行の時もわざわざ合流してきて、観光地案内とかしてたな……」

「ははは……」


 あの人は……。


「しかし、なんで亜美は渚ちゃんまで俺とくっつけようとしたりするんだろうな? 迷惑だろう?」

「へっ? あ、いえいえ! 別に迷惑やなんて思ってないですよ!?」


 ここは全力で否定しとこう。 正直こういう時間は私にとってもかなり貴重やからな。


「そうか?」

「ええ、まあ」


 まだ告白するとかそういう勇気はまだ出ぇへんけど、一緒にいる時間は大事にしたいからなぁ。


「それにしても、せっかくの七夕やのに生憎の天気ですね」

「んだなぁ」

「星も見えへんし……」

「亜美なんかは織姫と彦星が会えないよぉとか言ってたぞ」

「ははは。 可愛いとこあるんですね」

「あいつはそういう奴だ」


 なんか想像がつく。 そういう事凄く大事に思ってそうやもんなあの人。

 しかし、織姫か……。 私には彦星様おるんやろか?

 それが今井先輩やったら、どんなに良いか。


 そんな話をしていると、あっという間にマンションの前に到着してしまっていた。

 ほんまあっという間やな。


「よし、送り届け完了だな。 ほいじゃまた明日」


 先輩は私に貸していた傘を受け取ると、くるっと踵を返してきた道を戻ろうとする。

 もう少し……。


「あの、コーヒーでも飲んでいきませんか?」

「ん? でもなぁ」

「いつも送ってくれるお礼って事で」

「ふむ……じゃあ1杯もらうかな」


 少し勇気を出して先輩を引き留めた。 別に何しようってわけやないけど、もう少し一緒にいたかったというかなんというか。

 何でこんな好きになってもうたんやろ? ただの一目惚れやったんやけどなぁ。


 家に先輩を上げてコーヒーを淹れる。 言うてもインスタントやけど。


「ミルクとシュガー入れはります?」

「ん? おう。 頼む」


 2人分のコーヒーを用意して、テーブルに置いて座る。


「ん……ふぅ。 美味い」

「そんな大袈裟な。 ただのインスタントやないですか」

「まぁ、そうなんだが」

「そういえば先輩は七星大学っちゅうとこ受験するんでしたっけ?」

「おう。 この辺の成績並みな奴は大体そこ狙いだろうなぁ。 奈々美もだし来年は麻美ちゃんもそこ考えてるみたいだ」

「ふうん……」


 七星大学か……高校卒業したら京都に帰って京都の大学へ行くって約束で、千葉の高校に行くことを許してもらったしなぁ……。

 大学までこっちの大学受けたいなんて言うたら、両親もさすがに怒るやろうなぁ。


「どうかしたのか?」

「え? いえ別になんでもありません。 大学どうしようかなーとか考えてただけです」

「帰るんだろ?」

「そういう約束ですんで」

「麻美ちゃんも亜美も寂しがりそうだなぁ」

「あはは……麻美はあんまり気にせぇへんと思いますよ」

「いやいや。 あれで渚ちゃんの事好きだぞ」

「そやろか……」


 あんまりそうは感じひんけど……。 でも、うーん……今度ちょっと両親に相談してみよかな。


 その後、今井先輩と少し話した後で先輩は家に戻っていった。


「七星大学かぁ……」  

 


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