第412話 対抗リレー

 ☆亜美視点☆


 さてさて体育祭も終盤にやってまいりました。 チーム優勝は確実なものになっている我らAチームだけど最後まで手を抜くようなことはしないよ。

 残すところ学年対応リレーとチーム対抗リレーのみとなったわけだけど、その両方に参加する私と奈央ちゃんは大変である。


「学年対抗は私達7人が参加するから余裕よね」

「わかんないけどねぇ」

「皆、頑張って」


 足にはあまり自信がない希望ちゃんはお留守番。 自信がないと言ってもその辺の女子に比べればまだ速い方だけど。

 希望ちゃんが応援してくれて皆やる気も十分だ。


「んじゃ行きますか」

「私もー」

「麻美ちゃんも2年生のリレー出るんだっけ?」

「うぇーい」


 という事で皆で移動を開始する。 さて、今年の学年対抗リレーではアンカーを任されたわけだけど、普通にいけばそれまでに大勢は決してそうな気がするんだよね。

 なので気楽に回ってこようかと思います。


「こほん! あーテステス」


 1年生の部が始まる前に実況席の方から声が聞こえてきた。


「3年生の部の方ですが、誠に勝手ながらハンデを設けさせていただきたいと思います」

「ハ、ハンデ?」


 何だというのだろうか?

 私達走者は顔を見合わせる。


「聞いてないんだけどー!」

「こほん。 それは今決まったとこなので」

「えー!」


 当然文句が出るけど、とりあえずそのハンデとやらがどんなものか聞いてみよう。


「えーと、3年A組には他のチームがスタートした7秒後にスタートしてもらいます」


 タイムのハンデということらしい。 7秒という事は50m前後の差はついているだろう。

 つまり50mの差を埋めて勝たなければいけないという事。 バトンを落としたどころの差ではないねぇ。


「どうする? このハンデで勝負すんの?」

「んー7秒って結構あるわよー?」


 と、参加者10人で相談した結果……。


「もうAチームの優勝も3年の学年優勝も決まってるし」

「そうね。 普通にやってもつまんないですし受けますか」


 という事でハンデ戦を受けることにした私達。 

 放送席の方にOKサインを出して受諾したことを伝える。


「よーし! ではまず1年生の部からスタートだ!」


 と、いう事で学年対抗リレーが始まった。

 1年生の部にはマリアちゃんも出場している。 足も速いようだ。


「にしても、7秒ハンデねぇ。 このメンツだから仕方ないんだろうけど……」


 私、奈央ちゃん、遥ちゃんはそこら辺の陸上部の短距離選手顔負けの記録を持っているし、奈々ちゃん紗希ちゃんだって好タイムを持っている。

 夕ちゃんと宏ちゃんだって凄く速いし。

 7秒というのは実に絶妙なタイムかもしれない。


「お、マリアの出番みたいね」

「おー」


 チラッ……


 マリアちゃんがこちらを向いたので視線が合う。 うわわ、なんか燃えてる……。


「ふふふ、亜美ちゃんを意識してるみたいね」


 まだまだ私の事をライバル視しているみたいだねぇ。

 マリアちゃんがバトンを受け取り走り出す。 とても綺麗なフォームで走るようだ。


「速いわね」

「うん。 本当に凄い子だねぇ」

「いけーマリアー!」


 一応Aチームという事で応援対象にはなるからか、紗希ちゃんが応援している。

 少しずつ後ろとの差を広げていき、危なげなく次の人へバトンタッチする。


「マリアちゃん! お疲れ!」

「どうも……」

「やるじゃない。 運動神経いのねぇ」

「はい。 足にはそこそこ自信ありますね」


 1年生の部はそのまま1年A組が勝利。 そして2年生の部。

 そこには麻美ちゃんが参戦している。 彼女も奈々ちゃんよりちょっとタイムが遅いぐらいで、相当速い部類だ。


「あの子アンカーなのね」

「本当だな。 期待されてんのかね?」

「男子を差し置いてアンカーって亜美ちゃんみたいね」

「私は何でアンカーなの? 夕ちゃんの方が速いよ?」

「知らんがな」


 誰にもわからないらしい。 まぁどうせも良いんだけど……。

 さて、2年生の部はAチームがスタートから少々苦戦中。 3番手で進んでいく。


「あれ大丈夫かしらねぇ」

「まだまだわからないよ」


 5人目あたりで順位の入れ替わりが起こり2番手に浮上。 とはいっても先頭が結構独走状態に入っている。 この差を埋めるのは大変な事だろうけど……。

 しかししかし、8人目に入ったところでトップとの差が縮まり始めた。


「おお、射程圏内だよ」

「後半に速いの集めたのか」

「あそこから捲ったら麻美英雄ね」


 トップと2番手の差は1秒ちょっとまでに縮まりアンカー勝負になった。


「いけー麻美!」

「あはははは!」


 余裕が無くても笑いながら走ってるという事はあれは癖なんだね。

 麻美ちゃんは満面の笑みで走りながら、少しずつトップを追い詰めていき、最後のストレート勝負へもつれ込んだ。


「あははは! あはははー!」


 相変わらず爆笑しながらもそのスピードは衰えることなく、ゴール手前で相手選手を抜いて単独トップに躍り出ると、そのままゴールへと飛び込んだ。


「うぇーい!」


 麻美ちゃんの活躍で2年生もA組が優勝。 それにしても麻美ちゃんが走るのを見るのちょっと怖いかも。


「よくあんな爆笑しながら走れるわね、あの子」

「息切れしないのかしら……」

「不思議な子よねー」

「あはははー」


 帰ってきた麻美ちゃんはまだ笑っていた。



 ◆◇◆◇◆◇



 さてさて、ついに3年生の出番である。

 私達に課せられたハンデは7秒。 普通に考えたら勝負になんかなるわけないんだけど……。


「とりあえず早瀬君と谷崎君と森君は差を詰められるように頑張ってね」

「お、おう」


 とんでもないハンデ戦に巻き込まれた3人には申し訳ないんだけど、頑張ってもらうしかないね。

 スタート位置について合図を待つ早瀬君。


「A組はスタートから7秒待ってください」

「うっす」


 ということで3年生の部スタート。


 他の3チームがスタートして7秒後に私達の組がスタートした。


「こう見ると結構な差だな」

「うん」


 果たしてここから逆転は可能なんだろうか。

 第4走者の奈々ちゃんに回る頃にどれぐらいの差になっているかが勝負である。


「早瀬君ファイトー」

「いいわよー! 差縮んでる縮んでるー!」


 少しずつだけど差が縮まっていく。 いい感じである。


「いけいけー!」


 早瀬君が回ってきて次の谷崎君にバトンが渡る。


「頼むぞ谷やんー!」

「頼むよぉ!」


 バトンを受けた谷崎君が走り出す。 谷崎君も我らがA組男子の中では俊足の部類だ。 陸上部でもある彼には期待できる。

 

「さぁA組の猛追だー! 7秒のハンデがあったが、その差はも6秒ほどに縮んだかー?! そろそろ3位の後姿を捉えるぞー!」

「いけー谷崎ー! もうちょっと差を詰めて来なさーい!」


 奈々ちゃんも頑張って応援している。 谷崎君も声援に応えてスパートを開始。 一気に差を詰めていく。


「3位見えてきたよ!」


 早くも3位を射程圏内に捉えてここで3番走者森君に渡る。

 森君は先程の谷崎君には劣るものの、十分なタイムを持っている。


「頑張れー!」

「さて、次は私ね」

「奈々ちゃんも頑張れー」


 ここからいよいよ私達の出番だよ。 まずは奈々ちゃんがバトンタッチゾーンに入るのだった。

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