第411話 後半開始
☆夕也視点☆
体育祭も午前の部が終了し、俺達は昼休憩に入った。
いつもの中庭のランチスペースで椅子を並べて昼食タイムに入る。
「夕ちゃん、はいお弁当」
「おう、サンキュ」
亜美から弁当箱を受け取りふたを開ける。 相変わらず美味そうだ。
「んぐんぐ……このまま行けばAチーム優勝確実だな」
宏太はすでに弁当を食べ始めながら話しかけてくる。
ここまでほぼ全ての競技で勝ってきていることから、他のチームとの差がとんでもないことになっていた。
「んん……そだねぇ。 やっぱ皆が揃ってるとねぇ」
「バレー部とか言って陸上部より陸上競技強いものね」
「そうだねー」
たしかにその通りなんだよなぁ。 何でこいつらバレーボールやってんだって思う時がある。
特に亜美と奈央ちゃんは異常なスペックをしているからな。
「後半は500mと1500mがあるけど誰が出るんだっけ?」
「500mは紗希と奈々美だったわよね?」
「えぇ」
「そだよー」
この2人なら500mでも余裕そうだなぁ。
「1500mは私と希望ちゃんだよ」
「亜美と希望か」
「希望姉その辺の距離得意だもんねー」
「うん」
亜美は言わずもがな。 ここも問題なく勝ってしまいそうである。
障害物競争は奈央ちゃんと遥ちゃんが出るそうだ。 この子達が出ればどんな競技も勝ってしまいそうである。
「麻美ちゃんと渚ちゃんはあと何に出るんだ?」
「私は障害物と学年対抗、チーム対抗だよー」
「私は500mと学年対抗リレーです」
「なるほどな」
学年対抗とチーム対抗リレーも残ってるんだったな。 それらは体育祭の最後の方だ。
特にチーム対抗リレーは、各チームの俊足自慢が集まる体育祭の華である。
俺と亜美は毎年参加しているが、今年は奈央ちゃんに譲っている。
「にしても、ほんまに先輩方は何やらせても凄いですねぇ。 バレーボールやなくても頂点取れるんやないですか?」
「私は当然だけどね。 西條家令嬢たるもの文武両道、全ての物事において常に頂点に立つ事が出来なければいけないもの」
「亜美ちゃんに負ける癖にー」
「むきーっ! だまらっしゃい!」
紗希ちゃんと奈央ちゃんのやり取りはいつ見ても面白い。 特に奈央ちゃんのこの友人にだけ見せる表情は子供のそれである。 なんとも微笑ましい。
「とりあえず後半もケガに気を付けて頑張るよ!」
亜美の一声に、全員で頷いて応えた。
◆◇◆◇◆◇
後半の最初の種目は毎年恒例の部対抗リレー。
リレーとは名ばかりの、部活宣伝種目だ。
バスケ部は俺と宏太が出る事になっている。
普通のリレーではなく、バスケ部はボールをドリブルしながらの走行。 当然陸上部などのガチな部には勝てるはずもない。
「なんだ、今年はバレー部もいるのか」
「きゃはは、宣伝部長の紗希ちゃんと」
「副部長の麻美ちゃんでーす」
そんな役職があるのかどうかは疑問だが、賑やかし大好きなこの2人が参加するのは頷ける。
足も普通に速いしな。
「バレー部はどうやって走るんだ?」
「ボールをトスしながらよ? 前見て走れないってね」
あー、なるほどな。
「ケガすんなよ」
宏太がバスケットボールを指でぐるぐる回しながら言うと、2人は「らじゃー!」と敬礼するのだった。
本当に元気だなぁ。
部対抗リレーが始まると、奇しくもバレー部と同じ組になってしまった。
他には将棋部と吹奏楽部が同じ組にいる。
文化部もやる気十分だ。
「プペー」
「きゃはは! 吹奏楽部は楽器鳴らしながら走るのね。 苦しそう」
「プァーン」
会話が成立してるのかどうかは怪しいが、傍から見てる分には面白い光景だな。
「では第一走者は位置について下さい」
第一走者は俺と紗希ちゃんだ。 約1名走者ではなくて奏者が混じっているのはシャレか?
「では行きます」
パンッ
スタートの合図とともにドリブルを開始する。
隣の紗希ちゃんは、ボールを上にトスしながら走り出したが、やはり前は見れないようだ。
「プァッ……プァッ…」
息を吐くたびに楽器の音が鳴っていて笑いそうになる。 これ反則だろ。
「7六歩……3四歩……」
こっちは棋譜読みしながら走ってるぞ……。
それボソボソ言ってるけどギャラリーには聞こえないだろ。 やる意味あるのか?
ツッコミどころ満載の部対抗リレー。
俺達の組は、ただ棋譜を読みながら普通に走っていた将棋部がトップでゴール。 続いてバスケットボール部、吹奏楽部、バレーボール部の順位となるのだった。
◆◇◆◇◆◇
「お疲れ様、皆」
「やっぱり負けちゃったわねぇ」
奈々美が紗希ちゃんに声を掛ける。
「そりゃ上見ながらだからね。 無理っしょ」
「あれで真っ直ぐ走れてたのが奇跡に近いぜ?」
前を見ずにボールを上げながら走ってた割には安定していてビックリした。
やっぱりバレーボール上手いんだな。
「いやー、どさくさ紛れに今井君とぶつかる計画だったんだけどなぁ」
「何でだよ……」
「紗希ちゃんっ!」
それを聞いていた亜美が、いつもように眉を吊り上げて怒っている。
「はいはい。 500mと1500mの呼び出し掛かってるわよ」
言い争う亜美と紗希ちゃんを引っ張って行く奈々美。 それについて行く希望。
引っ張られながらも紗希ちゃんを説教している亜美とそれを笑いながら聞いている紗希ちゃん。
何だあの集団は。
500mはトラックを2周半する競技だ。
全速力で駆け抜けるには少々長いが、持久走の様なペースでは遅い。
ペース配分が難しい競技だ。
「紗希はあれ速いんだよなぁ」
遥ちゃんがボソッと呟く。
「そうなのか?」
そう返すと、今度は奈央ちゃんが返事をした。
「ペースもへったくれもないもの。 最初から最後まで全速力よ」
500mを全速力で駆け抜けるのは結構苦しいと思うのだが?
パンッ!
どうやらスタートしたようだ。
第一組には奈々美も紗希ちゃんもいないが渚ちゃんが走っている。
各人スパートポイントまでは、周りの出方を見ながら位置どりをしている。
こういうレースになりがちなのだ。
残り1周半となった辺りで、先行逃げ切りを図ろうとする人が飛び出して、それに釣られて全体のペースが一気に上がる。
そして残り1周となると、各人がスパートを開始。 内を掬う者から大外まくりに出る者まで様々だ。 渚ちゃんも先頭集団の攻防に参加していたが、僅差の三位に敗れていた。
「やっぱり最後の方は見応えあるな」
「そうねー」
俺は中でもこの種目が好きである。
そして、件の紗希ちゃんの出番がやってきた。
パンッ!
スタートを切ると、我関せずといった勢いで飛び出す選手が1人。 紗希ちゃんだ。
「本当に最初から全速力じゃねぇか……」
「あの子、あの距離ぐらいならあのまま駆け抜けちゃうのよね」
どんな肺活量としてるんだよ……。
レースの方は1人だけどんどん抜け出していき、他の選手は紗希ちゃんの自滅だと結論付けて追わない展開となった。
普通ならこうなった場合、前を行く紗希ちゃんは一息入れるものなんだが、その気配は全くない。
1周した辺りで、周りの選手がやばいと思い始めてペースが上がるが、既に大勢は決していた。
紗希ちゃんのペースは衰える事なく、本当に全速力のまま500mを駆け抜けてしまうのだった。
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