第407話 ペットショップ見学
☆宏太視点☆
今日は西條の計らいで、職場見学をさせてもらえる事になった。 俺が今日見学させてもらうのはペットショップ。 スタッフから色々話も聞けそうだ。
「でも、佐々木君が動物関係のお仕事にねー。 可愛いとこあるわね」
と、西條はクスクスと笑いながら言った。 たしかに似合わないかもしれないなとは自分でも思う。
ただ、昔から動物の事が好きで図鑑とか眺めたりしていた。 皆にはそんなところを見せたことはないけどな。
「まぁ、好きなんだよ」
「宏ちゃん、本当に詳しいもんね」
「パフェの妊娠の時は助かったよぅ」
「まあ、どんな人間でも取柄ってあるもんよね」
「だな」
小さなころからの付き合いである幼馴染達もそれぞれの反応を見せる。 取柄か。 好きなことが生かせる職場なら最高なんだが。
「でもペットショップのスタッフってどんなことしてはるんやろ?」
「あんま意識して見たことないよねー?」
「そだねぇ」
その辺も今日色々聞いてみたいところではあるな。
◆◇◆◇◆◇
電車を降りて少し歩くと、西條が紹介してくれたペットショップに辿り着いた。
その辺のペットショップとはまた違った立派な店だな……。 それに中もかなり広そうだ。
「こっちですわ」
スッとお嬢様モードにスイッチした西條は、スタッフオンリーの区画に入っていく。
一瞬戸惑ったがそれについていくと、スタッフ用の部屋がいくつか並んでいた。
休憩室やら何やらあるようだ。 そして俺達が連れて来られたのは一番奥の部屋。 おそらくはこの店舗の店長の部屋だろう。
西條は扉の前で立ち止まり、ノックをする。
すぐに扉が開いて、店長であろう男性が姿を見せると、これまたすぐさま首を垂れる。
「お待ちしておりましたお嬢様!」
「そんなにかしこまらなくても良いですよ。 顔を上げてください」
「はい!」
さすがにかしこまるなというのは無理があるだろう。
目の前にいるのは西條グループ総帥の娘なんだからな。
「見学でございましたよね?」
「はい。 こちらの男性に職場の見学をさせてあげたいのですが」
と、俺の方を手で指し示すと、店長さんであろう男性がこちらを見る。
「お嬢様の彼氏様でございますか?」
「貴方、今の一言でクビが半分飛びかけましたわよ?」
「ひぇっ?!」
そんな嫌か? なんか俺に対しても失礼だと思ったが今更か。
「友人ですわ。 就職活動中で、動物に携わる職業に興味があるらしいの」
「ほう……なるほど。 わかりました。 後の方々は……?」
「私の友人で、ただの付き添いですわ」
「はぁ……では早速見学なさいますか?」
俺の方を向き直りそう聞いてくるので、俺は頷いて応えた。
「よろしくお願いします!」
◆◇◆◇◆◇
早速見学させてもらう事になった俺達が最初に連れて来られたのは、トリミング室のようだ。
可愛らしいワンコロが、台の上で綺麗にトリミングされている。
「うちでは、お客様の愛犬のトリミングなども行っております。 予約制ですがリピーターも多く大変好評ですよ。 トリマーの資格等は?」
「いえ……まだ何も」
「なるほど。 愛玩動物飼養管理の方もですかね? うちでは、働きながらでも資格取得が出来るようにサポートしておりますので、資格の有無で就職の際不利になったりはしないのでご安心ください」
これは有難い限りである。 今から慌てて資格を取る必要が無いというのは助かる。
「はぅーっ、ワンちゃん可愛いよぅ……」
「可愛いねぇ」
付き添いの方々はもう店内を適当にウロウロしてれば良いんじゃなかろうか?
「ははは、次の場所へ移動します」
◆◇◆◇◆◇
次に連れて来られたのは、静かな一室。
受付の様な窓と奥へ続く扉があるが、一体何をする所だ?
「ここは獣医施設です」
「じ、獣医施設? えっと……ペットショップですよね?」
「んー……それはこの店舗の設計に携わったお嬢様に聞くのが早いかと」
「西條?」
「この店舗は、基本的にはペットショップとなっていますが、実質はペット関連総合専門店なんですの。 ペットに関するあらゆる施設やサービスを取り扱っていますのよ」
西條がそう説明すると、俺を含めた全員が口をあんぐりと開けて無言になる。
やる事なす事が一々スケールデカ過ぎだってーの……。
「こほん……こちらでは我が店舗専属の獣医師が4名態勢で診ております。 獣医師免許があれば貴方もここで働けますよ」
「は、はぁ……」
しっかりと看護スタッフもいるらしい。
ただ、俺に獣医が務まるかと聞かれると、少し自信は無いな。
「次行きましょうか」
「はい」
◆◇◆◇◆◇
次の場所は見れば誰でもわかる施設であった。
「カフェですか?」
「はい。 こちらはドッグカフェ、あちらが猫カフェになっております」
獣医施設を見た後だから、もう何とも思わなくなってしまったが、ペットショップ内にカフェがあるのも結構変わっている。
「こちらはまあ、説明いりませんかね? 普通のドッグカフェ等と変わりませんし。 これと言った資格や知識が無くても、軽食さえ作れれば誰でも働けますよ」
「なるほど……」
軽食ぐらいなら作れるが、どっちかっていうと知識を生かしたり、動物の世話なんかをする仕事が良いな。
「次はペットショップコーナーに行きましょうか」
「お、やった!」
「こら麻美。 はしゃがないの」
なんだかなぁ……。
◆◇◆◇◆◇
次にやって来たのはペットショップコーナー。
各動物毎にエリア分けされており、犬猫、小動物類、昆虫や熱帯魚、海水魚まで網羅されている。
「すげぇ」
こんなペットショップは見た事ないぜ。
とにかく広い上に、色々な動物が一堂に会している夢のような空間だ。
各動物毎に専属のスタッフなんかも付いているようだ。
「こちらのスタッフは、愛玩動物に関する幅広い知識が要求されます。 うちでは各動物に、それぞれの生態等に詳しい専属のスタッフがついております」
「おぉ……」
こういうのをやりてーなぁ。
「他にもお客様へのペットを飼育する際のアドバイス等も行っていますよ」
「なるほど」
「ふふ……佐々木君、顔がキラキラしてますわね」
「本当だ!」
やべ、めっちゃテンション上がっちまってたな。
「さて、他にも飼料研究開発室や、動物の調教施設等もありますが見て行かれますか?」
「是非」
せっかく見に来たのだから、見られる場所は全て見て行きたい。
皆も興味があるのか、無言でついてくるのだった。
◆◇◆◇◆◇
見学を終えた俺達は、近くの喫茶店へ入り休憩をすることにした。
俺はかなり満足している。
「佐々木君、どうだった?」
「あぁ、参考になった。 サンキューな」
「そう。 それは良かったわ。 どう? 就職試験受けてみる?」
と、西條が首を傾げて聞いてくる。
あの後、西條はペットショップの雇用条件などをまとめた書類を俺に渡してくれた。
話を聞いたところ、資格の有無は不利にはならない上、働きながらでも資格を取らせてもらえるとの事。
自分の能力に合った職場に就ける事等、魅力的な職場だと感じた。
給与も、普通のペットショップスタッフに比べて多めに出るらしい。
これは西條グループの力なのだろうか?
「正直に言って、あの店で働いてみたいと思った」
「おお……宏ちゃん前向き」
「来た甲斐があったわね」
「そう。 今年度の就職試験は9月半ばよ。 履歴書とか必要な物をリストアップしとくから、準備しておいてね」
「何から何まで助かる。 惚れちまいそうだぜ」
「え? 嫌だけど?」
「……知ってた」
「あはははー! 宏太兄ぃフラれたー!」
「佐々木先輩……強く生きてください」
後輩にまでイジられる始末である。
何はともあれ、目標が出来た。
これからは、学校の勉強に加えて動物についての勉強もしていかなきゃならねぇ。
「佐々木君、頑張って。 後は貴方次第よ」
「あぁ。 やってやらぁ」
やる気が出て来たぜ。
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