第406話 西條奈央の職業斡旋所?
☆宏太視点☆
6月中旬の土曜日である。
西條に良い就職先を紹介してもらうのに話を聞きたいという事なので、今井家の隣家である西條家別宅へとやってきている。
俺達友人グループの集会所として西條が買い取ったこの家。 最近は専ら受験勉強会の場として使われている。
俺は受験無いからたまにしか顔を出さないが。
「んで、何でお前らが来るんだ?」
何故かついて来た奈々美、亜美ちゃん、希望、夕也のいつメン。
紹介してもらうのは俺だけだが。
「まあ、後学のためにね?」
「俺達もいつかは就活するしなぁ」
「私はしないけど気になって」
「わ、私はなんとなく」
奈々美と夕也はまあわかったが、亜美ちゃんと希望は興味があるからみたいな理由か。
まあ、構わないが……。
少し待っていると、西條がやってきてソファーに座る。
やっぱりというか、4人が何故いるのかを訊いてきたが、4人はさっきと同じ言葉を繰り返すだけであった。
「はぁ、まあ良いわ」
と、話を切って早速本題に入る。
「悪いな、何か」
「何で? 紹介するって言い出したのは私だから気にしなくて良いわよ?」
と、西條はそう言って話を進め始めた。
「えーと、まず佐々木君の要望を聞きましょう。 どういう所が良い?」
何処からかノートパソコンを取り出して、何やらカタカタと操作し始める。
とりあえず色々話してみるか。
「まず第一に実家から通える距離だな」
「ふむふむ……」
カタカタカタカタ……
「福利厚生はしっかりしてるとこが良い」
「佐々木君、案外基本的なとこ抑えてるのねぇ」
「当たり前だろ」
「私、宏ちゃんの事だから適当なのかと……」
皆は俺を何だと思ってるんだろう。
もしかしたら一生働く事になるかもしれない職場だぞ。 真剣に考えてるに決まっている。
「大雑把な職種とか、何か希望はある?」
職種の希望か……。 ダメ元で言ってみるか。
「そのな……動物に関わった仕事をしたいんだが……」
というと、西條は顔を上げてきょとんとした顔でこちらを見つめる。
やっぱり意外だっただろうか? 月ノ木学園の求人にはそう言った類のものは来ていなかった。
コンビニ店長だとか本屋のスタッフだとか、宅配の配送者だとかそんなんばかりである。
「ふむ……佐々木君、生物の成績は良いものね」
カタカタ……
「うんうん。 生き物にも詳しいし、宏太くんはそういうの向いてると思うよぅ」
「宏ちゃん、動物関係のお仕事は避けてるのかと思った」
「私も」
と、亜美ちゃんと奈々美はそう言った。 避けていたというより本当に求人が無かっただけなんだが。
それに動物に関わる仕事っても色々あるから、どんなものがあるかよくわかっていなかったりしたのもある。
「となると……そこそこ絞り込めるわね。 佐々木君、ちょっとこっち来て」
と、西條に呼ばれたので立ち上がってそちらへ移動すると、ソファの半分を空けるように体をずらし「座れ」と合図してくる。
いやいや、ド密着になるんだが……。
「ん? どうしたの? 早く座りなさいよ」
「あ、いや……」
「奈央ちゃん。 宏ちゃんは奈央ちゃんとくっついて座るのに抵抗があるみたいだよ?」
「……はい? 別に私は構わないんだけど」
どうやら俺の事は男としては見ていないようである。 その辺の石ころみたいに思われているのだろうか。
そう思ったら俺もどうでもよくなってしまい、西條の隣に腰を下ろす。
「でも奈央ちゃんの初恋相手って宏太なんだろ?」
「昔の話よ」
という事らしい……。
「見て。 西條グループの傘下で動物関係の職場で、ここから通える職場をピックアップしてみたわ」
「おう……すげぇ」
トリマーやら獣医、トレーナーから何から何まで網羅されている。 西條グループすげぇ、本当になんでもやってるんだな……。 その中でも俺が目を付けたのが……。
「ペットショップのスタッフか……」
「ペットシッターね。 ペットショップでペットの世話をするスタッフよ。 トリマーとかの資格も欲しいし動物に対して広い知識も必要ね。 愛玩動物飼養管理士の資格もあると良いわ」
なるほど……資格があるとやっぱり有利になるのか。
何もしてこなかった俺には中々苦しいかもしれん……。
「……トリマーの資格も愛玩動物飼養管理士の資格も今なら通信教育で勉強できて、そこから認定試験を受けることもできるわよ」
「そうなのか」
「……ふむ。 なんなら明日にでも職場見学に行く? うちの傘下のペットショップだから連絡しておけばいつでも見学できるわよ? 現地スタッフの話を聞いて参考にしてみるのもいいかもしれないわよ?」
「おお、それが出来るなら是非お願いしたいんだが」
やはり実際に目で見て話を聞いた方が判断しやすい。
「OK、じゃあちょっと連絡してみるわね」
西條はそう言ってスマホを取り出し、早速連絡を入れる。 行動が早いな。
迷いが無いんだよなこの子。
「あ、もしもし。 西條グループ総帥の娘の西條奈央ですが……」
「うわわ……お相手さんに凄いプレッシャーかかりそう……」
「急な話で申し訳ないのですが明日なのですが、そちらに見学へ行ってもよろしいでしょうか? えぇ、えぇ……友人に職場見学をさせてあげたいのですが……えぇ、ありがとうございます。 では、明日の昼過ぎそちらに顔を出させていただきますわ、はい、それでは」
どうやら話は簡単についたようだ。
「というわけで、明日のお昼以降に見学へ行くわよ」
「サンキュー。 恩に着るぜ」
「べ、別にそんな恩に感じなくても……」
少し顔を赤くして照れるような仕草を見せる西條。 ふむ、こうやって間近に見るとやはり美人なんだな。 普段はあまり気にしてはいなかったが。
「おほん。 もう離れても良いんじゃないかしら?」
と、わざとらしく咳払いをしてそういうのは奈々美である。 ふむ、どうやらヤキモチを焼いているらしい。
「ふふふ、佐々木君? 殴られないうちに離れた方が良いわよー」
「そ、そうだな」
奈々美の打撃はちょっと加減しても痛いんだよなぁ……。 どんなバカ力してるんだか。
俺はソファーから立ち上がり、最初に座っていたソファーへ移動する。
「ということで、後は明日って感じかしらね。 明日見学予定のペットショップへは電車で行くから、駅前で待ち合わせしましょ」
「おう」
「らじゃだよ!」
「わくわくだよぅ」
「OK」
「駅前だな」
何故か4人とも、当然のようについてくるつもりのようだ。 遊びに行くんじゃねぇってのに……。
その日はそのまま解散となり、それぞれ自宅へ戻るのだった。
◆◇◆◇◆◇
翌日──
俺達は予定通りに駅前に集合した。 何故か麻美と渚ちゃんもついてきて人数が増えている。
おいおい……完全に遊びに行く感覚じゃねぇかこいつら。 将来俺の職場になるかもしれないんだぞ? 迷惑かけなきゃいいが。
「それでは行きましょうか。 電車で20分程行ったところですわ」
「ふむ。 通勤時間的にも良い感じだな」
まずは合格点だな。 俺達は電車に乗り込み、見学予定のペットショップへと向かうのだった。
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