第408話 おすそ分け

 ☆希望視点☆


 今日は6月19日の土曜日。 梅雨時期の鬱陶しいお天気の合間の晴れた日である。 近いうちに体育祭もあるこの季節だけど、今日はそんな事は関係無い。

 今日は予てより、ハムちゃんを欲しがっっていた奈々美ちゃん、麻美ちゃん、紗希ちゃん、渚ちゃんにハムちゃんをおすそ分けしてあげる事になっている。


「パフェーごめんね……大事な子供だけど、私この子達を皆一緒に育てていけるほど器用じゃないんだよぅ」

「キュ?」


 パフェはケージ扉の前まで来て鼻をクンカクンカさせている。

 現在、パフェのケージにはメスだけを入れてある。 バニラの入っているケージはオスだけ。

 そうしないと、あっという間に増えるって宏太くんが言っていたのだ。

 オスとメスを一緒に入れるのは繁殖させたい時だけにしてうまくコントロールした方が良いとの事。

 なので、しばらくはオスとメス分けて飼う事にしたのである。


「来年にはチョコのお婿さん探ししたいなぁ」


 兄弟姉妹間での交配は血が濃くなって危険という事なので、どこかでお婿さん探しをしないといけないとの事。 ペットショップで新しい子をお迎えする方法と、知り合いからオスのハムちゃんを預かる方法があるらしい。 方法はその時考えるとしよう。


「希望ちゃーん」


 パフェを手の平にのっけて頭を撫でていると、亜美ちゃんが廊下から呼んできた。


「皆来たよー」

「上がってもらって~」

「はーい」


 どうやらこの子達の新しい飼い主さん達が来たようだ。 私はオスとメスを1匹ずつ手元に残したいので、まずは私が手元に置いておきたい子を選ぶとこからだね。


 ガチャ……


「やっほー希望姉!」

「来たわよ」

「ハムちゃん!」

「今回は分けてもらえるという事で、どうもおおきにです」

「あはは、どぞどぞ」


 皆に部屋に入ってもらい、ケージを部屋の真ん中に置いてあげる。


「はわー……どの子も可愛い……」

「癒されるわねー……」


 紗希ちゃんは目をキラキラさせてるし、奈々美ちゃんは「ほわほわー」となっている。 やっぱり可愛いものを見るとそうなるよね。


「えっと、皆1匹ずつでいいんだよね?」

「うん。 私とお姉ちゃんは別々で飼うから」

「了解だよぅ。 じゃあ、まずは私が手元に残しておきたい子を選んでいいかな?」

「もちろんよ」


 ということで、私はまずメスの方のケージを覗き込む。

 んー……。 どの子も微妙に模様が違うんだよね。 個性ってやつかな。

 私は指を入れてみて、子ハムたちの反応を見てみる。

 すると、一目散に寄ってくる子が1匹。


「はぅ、この子すぐに来たね……よし、メスはこの子だよぅ。 今日から君はチョコちゃんだ」


 亜美ちゃんが命名者である。 ちなみにオスの方はクッキー君になる予定である。


「オスの子はー……」


 オスの方のケージを見ると、元気に滑車で回っている子に目が行った。


「この滑車で回ってる子にするよ。 名前はクッキー君」

「チョコクッキー……亜美ね」

「あはは、うん。 そうだよぅ」


 ひとまずチョコとクッキーをケージから出して、小さな飼育ケースに移動させて残りの子達の中から皆に選んでもらう事にする。


「んー」

「どの子も可愛くて魅力的だー」


 紗希ちゃんと麻美ちゃんは両方のケージを覗き込んで「んー」と唸っている。

 どの子も兄弟姉妹なのに性格が違って面白いから、迷うのは当然だね。

 そんな中で麻美ちゃんが手を入れると、1匹元気な子がテケテケと近寄ってきて匂いを嗅ぎはじめる。

 中々好奇心旺盛な子のようである。


「おおー……この子私に興味あるみたいだー! 私この子にする!」

「いいよぅ」


 麻美ちゃんはその子に決めたようである。 麻美ちゃんに似て元気に走り回ってる女の子だ。

 麻美ちゃんは自分の持ってきたケージにハムちゃんを移動させる。

 匂いの付いた床材も一握り程入れてあげる。


「ありがとうー。 あとで名前つけてあげなきゃ」

「私はこの子にしたわ!」


 紗希ちゃんはオスのハムちゃんを選んだようだ。 この子はちょっとイケメン君だ。 面食いの紗希ちゃんらしいね。

 奈々美ちゃんも渚ちゃんもそれぞれ残った子達を選んで、満足した様子。

 皆でこれから近くのペットショップへ赴き、飼育の準備を始めることになった。



 ◆◇◆◇◆◇



 ペットショップに一番近い渚ちゃんの部屋に、一旦ハムちゃん達を置いてからペットショップへと移動した。

 先週見学にいたペットショップに比べると狭いペットショップではあるけど、飼育に必要なものは大体揃う。

 私も、ハムスターのエサや床材などの者はこの店で買っているよぅ。


「あら、いつものお姉さん」

「あ、こんにちはです」


 私が最初の頃に色々とお世話になって、その後もお世話になっている店員さんが声を掛けてきた。

 通っているうちに仲良くなったのだ。


「赤ちゃんハムはどう?」

「元気ですよぅ。 友人達に譲ることになったんです」

「そうなの。 後ろの人達が?」


 と、私の後ろに立つ4人を見てそう訊いてくる。

 私は「そうです」と応える。


「今日は皆のハムちゃんの飼育準備に来たんです」

「アドバイスお願いしますー!」


 誰にでも同じテンションで話かけられる麻美ちゃんが店員さんに話しかけている。

 店員さんも麻美ちゃんのテンションに押されることなく「任せてください!」と胸を叩いている。

 気が合いそうだ。

 皆でハムちゃんのエサはどれが良いのかとか、ケージに入れるおもちゃはどれが良いだと盛り上がりながら買い物を続けている。


 たっぷり時間を使って飼育グッズを買い込み、皆で渚ちゃんの部屋で戻ってきた。

 それぞれの子を新しいケージに入れたり、床材を敷いたりしていく。


「はー……今日から君はうちの子だ」

「雪村先輩ありがとうございます。 大切にします」

「うん。 お願いね たまにうちの子も会わせに来るよぅ」

「さて、名前決めないとね」


 奈々美ちゃんが「んー」と考え込むポーズを見せて名前を考えている。 それに倣って、他の皆も唸り始める。

 名前は大事だもんね。 私のとこはお菓子の名前になっちゃってるけど。


「うーん! この子は丸いかマルちゃんだ!」


 最初に名前を付けたのは麻美ちゃんだった。 丸いから……。 たしかに良く丸まっているのを見かけるね。

「うちのはゴン太にしよ」


 紗希ちゃんも名前を決めたらしい。 イケメン君を選んだ割に名前はどうなんだろう? でも飼い主が気に入ってるならそれでいいのかもしれない。

 奈々美ちゃんは「キキ」、渚ちゃんは「メリル」と名付けた。 な、渚ちゃんのネーミングセンスは独特なものがあるようだ。 たしか実家のワンちゃんには「アテナ」みたいな名前がついてたよね。


「よし、じゃあまた集合することを約束して、今日のところは解散しましょうか」

「そうね」

「ほらー、皆とお別れの挨拶しなー」


 皆のケージをくっつけて、兄弟姉妹の別れを済ませる。 って言っても、近所だしいつでも会わせられるけどね。


「じゃあ、またね」

「はい」


 渚ちゃんとは別れて、それぞれの帰途につく。

 帰ったらケージの掃除をしてあげなくちゃ。

 

 

 

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