第400話 最強VS最硬
☆亜美視点☆
私・奈々ちゃんペアと、希望ちゃん・麻美ちゃんペアのビーチバレーの試合は続く。
開始直後の攻防で周りにいたギャラリーが騒ぎ出し集まってきた。
「あの子達どっかで見たことない?」
「たしかに……」
と、中には私達の事に見覚えのありそうな人達もいるようだ。
現在1-1で、サーブ権が私達にやって来る。
私がサーブするよ。
「風上だから、自分が思ってるよりサーブが伸びるんだよね……」
インドアとは違って色々な条件によってボールの動きに変化があるから、私のスナイプサーブも上手くいかない。
なんとなくで希望ちゃんの守備範囲に落とせればいい。
「よっ」
少し軌道は変わってしまったが希望ちゃんの方へ飛んでいく。
「甘ーい!」
「うわわ?!」
希望ちゃんに拾わせるつもりで打ったサーブに、麻美ちゃんが飛び込んできた。
「ほっ! 希望姉狙いがわかってるなら、私がそこに飛び込むまでだー」
むう、なるほど。 完全に私達の作戦を逆手に取っているようだ。
「麻美ちゃん!」
希望ちゃんのアンダーハンドトスが上がり、麻美ちゃんがスパイクする。
ピッ!
「ごめん亜美」
「いやいや」
「にしても、麻美の奴は本当に厄介ね」
「あはは。 いきなり私達の狙いを看破してきたね。 こりゃ小細工は通用しなさそうだよ」
楽に勝とうとした結果、逆に苦労させられる展開になってしまった。 ここからは普通に流れのままプレーをしようという結論に至った。
「おお、希望ちゃんのサーブだよ」
希望ちゃんは、基本的には後衛に下がった時点で他の選手と交替するので、サーブを打つ事はないのである。
「えい!」
希望ちゃんはアンダーサーブで打ってきた。 やっぱ慣れないオーバーハンドサーブは打ってこないよね。
「オーライ!」
ここは余裕を持って奈々ちゃんが拾う。 よし、これを私がトスして奈々ちゃんが打つ完璧な流れ。
「奈々ちゃん!」
私のトスに合わせて奈々ちゃんが助走を開始。 我らが月ノ木最強の矛の攻撃だ。
「いっけぇ!」
「っ!」
スパァン!
「のわっ?!」
麻美ちゃんもブロックに跳んだけど、全く止められる気配はない。
が──
「はぃ!」
「うげっ?!」
またもや希望ちゃんの好プレーで拾われてしまう。
奈々ちゃんが最強の矛なら希望ちゃんは私達月ノ木最硬の盾。
そういえば、練習試合とかじゃない本気の勝負の場でこの2人がぶつかったのってみた事ないかも。
「ナイス希望姉!」
すかさず麻美ちゃんが落下点に移動して構える。
すぐに希望ちゃんも立ち上がると、助走の構えを見せた。
どっちだろう?
一瞬迷った隙を突いて麻美ちゃんが跳ぶ。
「くっ」
私も慌てて跳ぶも、少し遅れたのが仇となり僅かに届かない。
「うぇい!」
ガッツポーズを見せる麻美ちゃん。
「やるわねーあの2人」
「うん。 完全に翻弄されてるよ」
攻撃での揺さぶり方は勿論の事、やはり何と言ってもあの防御力。
ブロックによる巧みなコースの誘導と、希望ちゃんのレシーブ力。
「点を取るのも大変だよ」
「まったくね。 ま、頑張ってパワーで押してくわよ」
「らじゃだよ」
◆◇◆◇◆◇
両ペア自慢の攻撃力と防御力をぶつけ合う試合となって、試合も中盤戦。
決定力に欠ける相手ペアとの差が少しずつではあるが出始めてきた。
現在15ー13で2点リード。
「てりゃっ!」
私は、この試合何度目かのスパイクを放つ。
だいぶ砂の感覚にも慣れてきたところだ。
「はっ!」
しかしここに来て希望ちゃんの動きも良くなってきた。 どんなボールにも食らい付いてくるよ。
「奈々ちゃん! 麻美ちゃんのツーを警戒だよ」
「わかってる」
ここまで、何だかんだで麻美ちゃんのツーアタックにやられてきている。
さすがにこれ以上は決めさせないよ。
麻美ちゃんの動きを注視する。
まだ跳ばない……?
「亜美! 希望が走ってるわ!」
「うわわ?!」
今度は希望ちゃんが走って跳んでいた。
まったく、人の読みの上を行くのが上手いねぇ。
「遅いよー! いけっ希望姉!」
「はぅっ!」
今までに一度たりとも見たことのなかった、希望ちゃんによるAクイック。
私はブロックに跳ぶのも忘れてその姿を見ていた。
パァン!
ピッ!
「ナイス希望姉! 打てるじゃん!」
「えへへ」
初めて打ったにしては綺麗なフォームのスパイクだった。
「さては希望ちゃん、隠れて練習してるね?」
「あ、あはは……うん、実はちょっと。 だって見てると気持ち良さそうだし」
ということらしい。
まさかの希望ちゃんが攻撃に参加するという展開に、私達はペースを乱される。
そして終盤になり追いつかれた私達。
「あぅ、思ってた以上に強いねぇ」
「まったくね。 私のパワースパイクも結構止められるし」
伊達に我がチームの守備の要を張ってないね。
現在は23点同士で並んでいる。 次取った方がマッチポイントだ。
サーブは麻美ちゃん。
「奈々ちゃん、ここ取るよ」
「当たり前よ」
私達をここまで本気にさせるとは、恐るべし鉄壁ペア。
「ほいっ!」
麻美ちゃんのサーブが私に飛んでくる。
奈々ちゃんのパワーのあるスパイクより、私のヘナチョコスパイクの方が拾いやすいってことなのだろう。
「ショックだよ!」
「どきなさい亜美!」
そこへ奈々ちゃんが走り込んできた。
無理矢理拾って、自分がスパイクを打てるようにするつもりのようだ。
「っしょ!」
間一髪で奈々ちゃんが間に合い、レセプションする。
すぐに私がボールの落下点に入って、高めにアンダーハンドトスを上げる。
「良い高さよ」
「お姉ちゃんお手柔らかに!」
ブロックに立つ麻美ちゃんが、そう声に出すも。
「だまらっしゃい!」
聞く耳持たずと言った感じで、奈々ちゃんは高く跳び上がり、腰を大きく横に捻る。
「あわわわ、お姉ちゃん本気じゃん!」
このフォームは、奈々ちゃんの最大火力の必殺スパイクだ。
麻美ちゃんも顔を青くしながらブロックに跳ぶ。
「喰らいなさい麻美っ!」
「ひぇーっ」
スパァン!
奈々ちゃんの打ち込んだスパイクは、麻美ちゃんには当たらずに、希望ちゃんの目の前に着弾した。
な、なんか砂浜にめり込んでるんだけど……。
「よーし! はー気持ちいい」
「は、はぅ……凄い威力……」
今のを見た希望ちゃんと麻美ちゃんは、顔を引きつらせながら奈々ちゃんを見つめるのであった。
その後も、何とか食らい付いてくる2人だったけど、タイブレークの末に何とか勝ちを拾うことが出来た。
「もうちょっとだったのになー!」
「うん。 惜しかったね……」
「いやいや、正直もうちょっと楽勝かと思ってたわよ?」
「そうだよね。 まさかこんなに苦戦するなんて……改めて2人の凄さを痛感したよ」
次やったら負けるかもしれないよ。
と、お互いの健闘を讃えあっていると、奈央ちゃん紗希ちゃんペアがやって来た。
「中々良い試合でしたわねー」
「本当本当! 希望ちゃんも麻美もやるじゃーん!」
「あはは……でも、初めてスパイク打ったりして楽しかったよぅ」
「そっかそっか」
楽しかったなら良かったよ。 さて、このまま勝ち進んで優勝しちゃおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます