第380話 希望の進化

 ☆亜美視点☆


 練習試合は滞りなく進んでいる。

 現在8-9で都姫リードの状態である。


「ここ切るよー」

「うぃー」


 ここで都姫サイドは宮下さんのサーブが回ってくる。 こちらは希望ちゃんが下がって麻美ちゃんが出てきた場面。 防御型の陣形だ。


「ほい!」


 宮下さんのサーブが勢いよく飛んでくるが、それを私がレセプションする。

 今回はちょっと乱れてしまった。


「奈央ちゃんごめん」

「大丈夫ですわよ」


 多少乱れてもお構いなしに走り込んでいて、綺麗なトスをOHアウトサイドヒッターに供給する奈央ちゃん。

 ここは奈々ちゃんにトスを上げて、それをきっちり決める。


「おっけーおっけー」


 うちのエースは今日も絶好調だ。 

 それにしても、まだ序盤戦とはいえ今日も接戦になっているねぇ。

 どちらのチームも火力が異常に高いチームなせいで、どちらの攻撃も止められないからである。

 もちろん、守備力にだって自信はある。 希望ちゃんだって国内ではトップクラスのリベロだし、麻美ちゃんや遥ちゃんだってハイレベルなMBミドルブロッカーだ。 あちらにも新田さんという、強力なLがいる。

 それらの壁をものともしない、両チームのOHアウトサイドヒッターがやはり異常なのだ。


「ほれ美智香ー」

「ほいよ!」


 スパァン!


「奈々美!」

「あいよ!」


 スパァン!


 といった感じで、両エースがとにかく止められない。 これにはMB、Lのプレーヤー達のプライドも傷だらけである。


「ぐぅーっ……止めらんねー」

「信じられないテクニックだよ宮下先輩ー」


 遥ちゃんと麻美ちゃんは悔しいを通り越して、ある種の感動さえ覚えているようである。

 止められないというのに顔は笑っている。

 さらにプレーは進み、ここで麻美ちゃんと希望ちゃんが交替。 奈央ちゃんのサーブに戻ってきた。


「さーて、止めるよっ」


 と、希望ちゃんが息巻いている。

 やっぱりここまで面白いようにやられているから、何としても止めたいんだろうねぇ。


「奈央ちゃんいっちゃってー」

「はいはい」


 奈央ちゃんがジャンプしてドライブサーブを放つ。 それをあっさりと拾う新田さん。

 希望ちゃん並……とまではいかずとも、かなり安定感のある守備をする。


「エース!」

「ほいほい!」

「せーの!」


 宮下さんに上がったトスを、紗希ちゃんと遥ちゃんでブロックに跳び、打てるコースを限定する。

 ここではクロスを空けて、そちらへ打たせる算段である。


「おりゃ!」


 スパァン!


 でも、宮下さんはそういう駆け引きに応じず、細かいテクニックで紗希ちゃんの手の平にボールを当てて、ブロックアウトを取る。


「いやー! 上手い!」

「どうもー」


 公式戦じゃないからなのか、どちらも和気藹々である。 負けても良いというわけではないけど、何が何でも勝たなければいけないとうわけでもないからであろう。


「こっちも決めるよ」

「おうー」


 ここでサーブは川道さんに回ってくる。 ビッグサーバーというわけではないけど、そこそこ球威のあるサーブを打ってくる選手だ。

 そのサーブが、こちらへ飛んでくる。 奈央ちゃんの前である。


「はい!」


 奈央ちゃんがレセプションを上げる。 奈央ちゃんがトスを上げられない状況になったので、私がトスのセットアップに入ろうとすると。


「亜美ちゃん、任せて!」

「え?」


 私を静止して動く影があった。 希望ちゃんである。

 希望ちゃんが走り込んでいきアタックラインの前で踏み切ってジャンプをする。

 一瞬びっくりしたけど、トスが苦手なあの希望ちゃんがトスを上げようとしている。

 それを見て、遥ちゃんが助走に入る。 奈々ちゃんはセミのタイミングで助走するつもりのようだ。


「えいっ!」


 希望ちゃんが、横っ飛びのジャンピングトスを上げる。


「はぅっ?! ご、ごめん!」


 奈々ちゃんのセカンドテンポに合わせるつもりのトスだったのだろうけど、位置も高さもめちゃくちゃである。

 奈々ちゃんは慌てて助走のタイミングをずらして何とか合わせようとする。

 要求した位置よりかなりライト側へ流れたトスを、無理矢理ブロード攻撃へ切り替える。


「っあ!」


 かなり無茶なスパイクだったため、威力もコースも中途半端。 これはあっさりと新田さんに拾われてしまう。

 そして、カウンターで宮下さんに決められてしまう。


「は、はぅ……ごめん奈々美ちゃん」

「ばーか、謝ってんじゃないわよ」


 と、希望ちゃんにデコピンをして咎める奈々ちゃん。


「ナイスチャレンジだよ希望ちゃん」

「そーそー。 これから練習してこー」

「そうだよ」


 希望ちゃんの果敢なチャレンジを皆で褒める。 何せ今までトスが苦手で練習してこなかったからだ。

 しかしそんな希望ちゃんが、トスを試みたのだ。 褒めずにいられない。

 それに、希望ちゃんがトスを上げられるようになれば、私も攻撃に集中できる時間が増える。 チームにとってプラスだ。

 今回希望ちゃんがトスを試みた理由はおそらく、相手のLである新田さんをライバル心を燃やしたからだろう。

 なんだかんだ言って、国内No1Lと呼ばれるようになった希望ちゃんだけど、その背後に1つ年下の新田さんというライバルが現れた。 新田さんは守備能力もさることながら、希望ちゃんには無いトスの技術もある。 そんな新田さんに負けまいとして、自ら進化しようとしたのだ。


「新田さんに感謝だねぇ……希望ちゃんはまだ進化するよ」


 試合はここでブレイクされてしまい、リードを許してしまう。

 ただ、まだ1ブレイク。 十分追いつけるけど、これは練習試合。 ここは希望ちゃんの成長の為に1日費やすのも悪くないかもしれない。

 ただ……それじゃあ都姫女子に悪いよねぇ。 やるからには本気でお相手しないと。 希望ちゃんのトスの特訓は後からでも出来る。


「希望ちゃん、これからトスの練習一杯しようね」

「うん」


 さて……。


「今度は決めるよ!]


 引き続き都姫の川道さんのサーブである。 今回は希望ちゃんが拾う。

 こうなると私達の攻撃の流れは止まらない。

 遥ちゃんがCクイックの助走を開始するとともに奈央ちゃんがセットアップ。 その奈央ちゃんがトスを上げると同時に私と奈々ちゃんで助走に入る。

 そしてそのわずか後で、紗希ちゃんがバックアタックの助走に入る。

 コンビネーションプレイ炸裂である。

 ボールは紗希ちゃんへの高いトス。


「ほいさー!!」


 紗希ちゃんのバックアタックが、相手コートに炸裂する。

 私もバックアタックを打つことはあるけど、高さこそ出せるものの紗希ちゃん程の威力のあるボールは打てない。 だから、私にはバックアタックは向いていないと思っている。


「私にも、もうちょっとパワーがあれば……」


 私も希望ちゃんを見習って進化しなきゃいけないね……。 月ノ木学園がもっと強くなるためにはねぇ。


「さて、ブレイクし返すよー」

「おうー」


 ここで私のサーブが回ってくる。 何度か新田さんを試すようなサーブを打っては見たが、もうその必要もないね。 彼女の実力はもう十分に分かった。

 ここからは勝つためのサーブを打ってくよ。

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