第379話 副砲

 ☆亜美視点☆


 さて、私達月ノ木学園は現在、都姫女子学園バレーボール部との練習試合中である。

 現在、試合開始直後の攻防が終わり1ー1。

 私のサーブが回ってきている。

 勝ちに拘らずに色々試せる練習試合。 今日は現時点での都姫女子の戦力分析を重視するよ。


「っは!」


 まずは新田さんに向けてサーブを放つ。 微妙にカーブ回転を掛けて着弾点をずらすような軌道のサーブだ。


「オーライ!」


 声を出して構える新田さん。 しかしその位置だと微妙に変化したボールは拾えないよ。

 そう思ってみていたが、新田さんはしっかりと横に移動して着弾点についた。


「良く見えてるね」


 このサーブもあっさり拾われてしまう。

 そこから相手のセッターへとボールが送られる。

 宮下さんと田辺さんが同時にセミクイック気味の助走を開始。


「紗希!」

「あいよあいよー」


 遥ちゃんの声に反応して、紗希ちゃんが宮下さんのブロックにつく。 奈々ちゃんは1人で田辺さんについているけど、1枚では不安なので私がストレートをフォローできる位置に入る。


「すんごい連携ね!」

「せーの!」


 トスが上がると同時に、宮下さんが感心するように言いながら跳ぶ。 トスは宮下さんへ。

 紗希ちゃんと遥ちゃんも、タイミングばっちりでブロックに跳んでいる。


「ストレート空いてるよ!」


 パァン!


 わずかに空いたストレートのコースを的確に抜いてくる宮下さん。

 相変わらずの空中での視野の広さと、テクニックだ。


「簡単に抜いてくれるわねぇ」

「はぅ。 今のは私がフォローするべきだったよぅ」

「しゃーないわよ。 田辺さんのクロスも警戒してたし」


 まだこの時点では何とも言えないけど、春高の時は宮下さん一辺倒で最後には自滅した都姫女子。

 その弱点を補う為に、他のOHアウトサイドヒッターもレベルアップしてきている可能性は非常に高い。 最初にMBミドルブロッカーの足立さんを使ってきたのも

そういうことだろう。

 私達レベルのチームにどれだけ通用するか、都姫は都姫でそれを試しに来ているのだ。


「茜ちゃんナイサー」


 お相手さんはローテーションしてサーバーは足立さん。 ジャンプフローターの嫌なサーブをこちらへ打ってきたが、遥ちゃんが上手く処理。


「ナイスナイス」


 奈央ちゃんが走り込んでボールの落下点に入る。

 それを見て、まず遥ちゃんがDクイックの助走に入ってジャンプ。 コミットブロック1枚を釣っている。 奈央ちゃんがボールに触れた瞬間に奈々ちゃんが助走を開始。 セカンドテンポである。

 そして、奈央ちゃんがトスを上げてから少しして、ようやく紗希ちゃんが助走を開始。 サードテンポだ。 コンビネーションバレーの形。 上手く奈々ちゃんがブロックを引き付けたおかげで、うちの副砲である紗希ちゃんがフリーでオープン攻撃に。

 遥ちゃんについていたブロックが急いで走ってブロックを試みるが、コートの逆サイドの為間に合わない。


「うおー、メテオスパーイク!」


 技名を叫びながら、高い打点からの急角度打ち下ろしスパイクを見舞う紗希ちゃん。

 ブロックも一歩間に合わず、完璧に決める。


「さすがー」

「ナイス紗希ちゃん」


 コート中央に集まってハイタッチを交わしていく。


「いやー、良いコンビネーションだこと」

「西條さんも冷静にこっちの動き読んでトス上げるんだもんたまんないわ」


 都姫サイドも苦笑しながら言う。 私達6人は、中学1年の頃からこのメンバーで戦ってきた仲。

 息の合ったコンビネーションならどこにだって負けない自信がある。


「にしても、そちらさんの準エースさんも人間やめ始めてきたわね」

「人間だけど?!」


 紗希ちゃんが私みたいな扱いを受けて、私みたいな返しをしている。 良いよ良いよー。


「さぁ、ここ止めるわよー」


 サーバーとなった奈々ちゃんが、皆に声を掛ける。

 ここで希望ちゃんが下がって麻美ちゃんがコートに入ってくる。 前衛ブロッカー2枚のタイミングである。 


「サービスエースでも良いよぉ」


 と、奈々ちゃんに返す。 奈々ちゃんは「出来ればねぇ」とだけ言ってサーブに入る。

 強烈な音共に、豪快なパワーサーブが相手コートへ飛んでいく。

 都姫サイドも永瀬さんがなんとかそのサーブをレセプションする。


「うはぁ怖っ……」


 あまりの威力に、顔を青ざめさせる永瀬さん。 わかるよぉ……奈々ちゃんのサーブ本当に強烈で怖いんだよねぇ。

 少し乱れたボールになっているため、相手がバタついている。 これは二段トスになりそうである。


「落ち着いてボール見て!」


 奈央ちゃんが声を掛ける。

 大体の場合において、アタックラインから後ろのトス──二段トスと呼ばれるものは、乱れた陣形を立て直す時間や、アタッカーのタイミングを取りやすくするために高いトスを上げて時間を稼ぐ傾向にある。 トスの上がる位置を見てからブロックをつければ、比較的攻撃を止めやすいプレーになる。

 そのボールを処理するのは、大半においてOHの仕事になる。 それも、きっちりとブロックにつかれた状態で決められる力のあるエースが多い。

 のだけど……。


「ナベちゃん!」


 トスはエース宮下さんではなく、既に助走に入っていた田辺さんに送られる。

 その位置から低いトスを上げる?!


「裏かかれた!」


 無人のネット際上から悠々とクイックを決められてしまう。

 やっぱり都姫サイドも色々試してるんだ。


「今年度のうちは、私一辺倒で崩れたりしないよ。 副砲ナベちゃんがいるからね!」

「はずいからやめて美智香……」


 田辺さんは顔を赤くして言う。 結構可愛い。

 にしても、副砲か。 宮下さんに隠れててわからないけど、田辺さんも全国区の強豪でレギュラーを張るOHだ。 当然そのレベルも全国レベル。 今までは宮下さん頼みだっただけに、完全油断していた。


「副砲なら私も負けてないぞー!」


 と、うちの副砲紗希ちゃんも燃えている。 私も一応OHではあるんだけど、どちらかというとユーティティプレーヤーとして立ち回ることの方が多い。 攻撃面での参加もそれなりにはあるんだけどね。

 巷じゃ私がエースなんじゃないかとか言われてるけどとんでもない。 うちのエースは奈々ちゃんと紗希ちゃんだ。


「攻撃の枚数増えて厄介になったわね、都姫女子」

「単純火力ならうちとどっこいどっこいですわね」


 宮下さんに加えて、コンビネーションで点を取れる選手が増えたことで何倍も強くなった都姫。

 ここで練習試合出来て良かった。 何も知らずにインターハイでぶつかってたら、危なかったところだよ。


「さーいくわよー」


 宮下さんのサーブ。 威力とコントロール兼ね備えた強力なビッグサーバーである。


「そい!」


 これまた強烈なサーブが飛んでくる。 私がそれをレセプション。

 良い位置に上げたよぉ。


「さすがですわ」


 セットアップに入るとのを見て、紗希ちゃんと遥ちゃんの2人が助走に入る。

 ここから放たれる私達の攻撃は大阪の黛姉妹のお株を奪う、同時高速連携。


「来るよ!」


 即座に反応してコミットブロックが2枚ついてくる。 それをしっかりと見て取った奈央ちゃんが、トスを上げた先は。


「奈々美ー」

「はいはい!」


 後衛から助走を開始してアタックライン手前で踏み切る奈々ちゃん。 ブロックを釣ってからの後出しバックアタックだ。


 パァン!


「うっし! 今日も絶好調!」


 着地した奈々ちゃんはガッツポーズを見せた。

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