第373話 大学はどこへ?
☆亜美視点☆
4月12日月曜日のHR。
配られたプリントには進路希望調査と書かれている。
「……」
さすがにここに小説家とは書きづらいので、志望する大学を記入するわけだけど。
第二志望はここからでも通える七星大。 奈々ちゃんや夕ちゃんはここが第一志望らしい。
んで、私の第一志望なんだけど……。
HR終了後──
「奈央ちゃん。 奈央ちゃんは第一志望何処?」
「え、私ですか? 白山大の経済学ですけど?」
「白山大っと」
第一志望の欄にそう記入した。 奈央ちゃんはそんな私の様子を見て首傾げる。
「え? 亜美ちゃんも白山?」
「うん。 奈央ちゃんと同じ所で、経済を学ぼうと……」
「どうしてですの? 亜美ちゃんはもう、小説家の道があるんじゃありませんの?」
「そうなんだけどね。 ほら、奈央ちゃん去年私に言ったじゃない? 私の専属秘書にって」
「い、言いましたが……小説家と両立するつもりですの?」
奈央ちゃんは、私の方を見て訊いてきた。
難しい事だとは思う。 だけど、色々考えて出した答えは「どっちもやりたい」であった。
小説は書いていて楽しかったし、やりがいを感じた。
奈央ちゃんの秘書については、単純に奈央ちゃんの力になりたいと思ったから。
何せ、ずっと世話になりっぱなしだからね。 恩返しじゃないけど、奈央ちゃんが巨大グループの総帥という重圧に押しつぶされそうな時、友人として支えになれるようになりたいと思っている。
「出来るように、私も頑張るよ」
「……まったく、貴女って人はどこまで化け物なのかしら」
「あはは、化け物ぐらいにならなきゃ二足の草鞋で大成できないよ」
「ついに自ら人間をやめる宣言しましたわね……」
とにかく、私のやりたい事は決まった。
上手く出来るかはわからないけど、私は私の力の限りやってみようと思う。
「まあ、もしそうなったらその時2人で考えていきましょう。 部活、行きますわよ」
奈央ちゃんが、さっと話を切り上げて立ち上がる。
私もそれに続いて立ち上がり、部活へ行く準備を始めた。
「何だか2人して仲良く話してたけど、どうしたのよ?」
先に準備を終えた奈々ちゃんが、鞄片手に近付いてきた。
「ちょっと進路の相談をしてたんだよ」
「進路の相談ねぇ……あまり無茶はしないでね亜美。 あんたはたしかに超人めいてるけど、人間なんだから。 無茶すれば身体壊すわよ」
「ありがと奈々ちゃん。 無茶だと思ったら諦めるよ」
奈々ちゃんは「なら良いけど」と、納得した様子で先に教室を出て行った。
私と奈央ちゃんも、その後を追うように、小走りに体育館へ向かうのだった。
◆◇◆◇◆◇
「マリア! 踏み切りが弱い!」
「はい!」
「渚! 相手コートよく見る!」
「はい!」
奈々ちゃんがOHの子達の練習を見てくれている。 特に渚ちゃんとマリアちゃんには多大な期待を寄せているようだ。
「精が出るねぇ」
「まあね。 私達がこうやって教えてあげられるのも、後5ヶ月だし」
「……そか。 もうそれだけしかないんだね」
小学生5年から始めて、ずっとやってきたバレーボールもあとちょっとで終わりか。
大学では続けるつもりはないし……ワールドカップバレーに日本代表のオファーでもない限りは、本当に終わりだね。
「なーにちょっと寂しそうにしてんのよ」
「あはは……」
「別に、バレーボール出来なくなるわけじゃないでしょ? やろうと思えば、ボールとコートさえあればいつでも出来るわよ」
奈々ちゃんは、後輩達の練習を見ながら話を続ける。
「私ね、バレーボール続けてみようかなって、最近思ってるのよ」
「え? 大学でってこと?」
「それもだし、Vリーグも」
「Vリーグ?!」
「まあ、まだ決めたわけじゃないわよ? ただ、今のところはやりたい事も見つからないしさ。 何か他の目標が見つかれば、そっち行くんだけどね」
と、奈々ちゃんは言った。
私達の中で、未だに明確にやりたい事を見つけられていない奈々ちゃん。 焦ってはいないみたいだけど、それでも何かしなくちゃいけないと考えているのかもしれない。
「まあ、宏太が私を貰ってくれたら、専業主婦でもパートでも何でもやるけどさ」
「あはは。 それは心配無いよ」
「だと良いけどね。 あ、舞! 打点意識して跳ぶ!」
「はい!」
先の事はどうなるかわからない。 奈々ちゃんはその事をよくわかっているみたいだ。
宏ちゃんとの将来。 考えていないわけじゃないけど、それが実現しない可能性もしっかり考えているみたいである。
「……私は考えたくないなぁ」
夕ちゃんと結ばれない未来なんて。
◆◇◆◇◆◇
入浴を終えて、寝る前にパソコンを起動する。
まずは仕事のメールチェックである。
仕事用に、音羽奏として使用するメールアドレスを作ったので、小説関係のメールは全てそこに届くようになっている。
「修正加筆は特に無さそうだねぇ。 前書き、後書きの追加要望が来てるねぇ……あとは、表紙絵を描いてもらう人を今週中に決めて下さい」
添付ファイルを開くと、イラストレーターさん数名の名前とそれぞれの代表的な作品が貼り付けてあった。
「……うーん。 これは何か違う気がするし……作品雰囲気的にはこの人かなぁ」
私の作品とマッチしそうなイラストレーターさんをチョイス。
返信メールに、表紙絵をこんな感じでお願いしますというような要望も付けておく。
「これでよし! なんか、仕事してるって感じだねぇ。 書籍化も着々と進んでいるし、楽しみだねぇ」
皆も将来に向けて本格的に動き出している。
特に、希望ちゃん、紗希ちゃんはもう受験勉強や、デザインの勉強を始めているらしい。
私も大学を決めたし、勉強していかなきゃ。
白山大学。 ちょっと距離はあるけど、ここから通える大学である。 偏差値は高く、優秀な政治家さんなんかも輩出している名門。
さすが奈央ちゃんだね。 選ぶ大学も一流だ。
コンコン……
不意に控えめなノックが聞こえてくる。
「どうぞー」
どうせ希望ちゃんだろう。
「亜美ちゃん。 ちょっと教えて欲しい問題があるんだけど……」
「んー、どれどれ」
希望ちゃんが持って来たのは、希望ちゃんが志望する大学の数学の過去問。
受験勉強頑張ってるね。
「んと、これはね。 この形じゃ計算出来ないから、一旦これをこうして……」
「はぅ、そっか。 じゃあ、これをこうして……おー、解けそうだよぅ。 ありがとう亜美ちゃん」
「いえいえ」
希望ちゃんは、ペコリと頭を下げて自室へ戻っていった。
「私も負けてられないね。 今度、白山大学の過去問買ってこよっと」
夕ちゃんは七星大学だよね。 本当のとこ、私も夕ちゃんと同じ大学へ行きたいなーっていう気持ちもある。 一応第二志望にはしたけども……。
「ちょっと夕ちゃんの部屋に行こうかなぁ」
まだ寝てないよね。
思い立ったがすぐ行動。 早速夕ちゃんの部屋に向かうことにした。
部屋を出て夕ちゃんの部屋の前にきた私は、ドアをノックする。
すぐに返事が聞こえてきた。
ガチャ……
「おう、どうしたよ」
「ちょっとお話ししたいなぁと思って」
「話? まあ、入れよ」
「うん」
夕ちゃんに招き入れてもらい、夕ちゃんの部屋へ。
「話ってなんだ?」
「ずばり将来の事だよ」
「将来? また突然だな」
「ほら、進路希望調査あったし。 夕ちゃんはやっぱり七星大学?」
「まあそうだな。 俺の頭で行けて近場だし。 あとは学部をどうするかだが……」
「あそこなら電子工学とかもあったよね」
「電子工学か……ま、色々考えてみるさ」
「うんうん」
「亜美はどこにするんだ?」
「私は白山大を第一にしたよ」
「さすがだな。 一流じゃねぇか」
「あはは。 お互い頑張ろうね」
「そうだな」
「それとさ……私との将来とかぁ……考えてくれてたりは……」
それとなく話題を変えてみると……。
「まだそこまでは……」
「あ、あはは、だよね。 まだ早いよね」
うーん、残念……。
その後は他愛ない話をして、その日はそのまま夕ちゃんの部屋で寝てしまったのであった。
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