第372話 おめでた?!
☆希望視点☆
亜美ちゃんと夕也くんの誕生日会の途中の事である。
私は、バニラとパフェに餌をやる時間になったので、一度家に戻ってきていた。
「バニラ~、パフェ~、ご飯だよぅ」
「キッ!」
「はぅっ?!」
いつも私が手を出すと喜んで乗っかってくるパフェが、今日は威嚇して噛み付いていきた。
「は、はぅ……ど、どうしたのパフェ……私の匂い忘れたのかな……」
ショックである。
今日はたまたま機嫌が悪いだけなんだろう、そう思うことにした。
◆◇◆◇◆◇
餌と水やりを終えた私は、誕生日会に戻ってきた。
「あ、おかえりー! ハムちゃんどう?」
紗希ちゃんが真っ先に聞いてくる。
可愛いもの好き同盟を組んでいるだけあり、私のハムちゃんにもメロメロだ。
「うん。 元気だよ。 パフェは機嫌が悪かったみたいで、指噛まれたけど」
「へぇ……希望のことを噛んだりするのね」
奈々美ちゃんが、意外そうに言う。
私も、覚えている限りで最後に噛まれたのだいぶ前。 多分、飼い始めて1~2週間ぐらいだ。
飼い主の匂い慣れて噛まなくなったんだと思ってたけど……。
「パフェってどっちのことだったかしら?」
奈央ちゃんが首を傾げながら訊いてきたので、女の子の方である事を伝えると……。
「……それ、別の理由で噛みついた可能性があるな」
宏太くんが話に入ってきた。
「別の理由?」
生き物とかの事に色々詳しい宏太くん。 何かわかるんだろうか?
「見てみないと何とも言えないけどな。 誕生日会終わったらちと見せてくれや」
「うん、お願い」
もし、病気やケガなんだとしたら、すぐに病院に連れて行かなきゃ……獣医さんって、ハムスターでも診てくれるのかな?
「でも、希望ちゃんはあの子達の事、凄く可愛がってるよねぇ」
亜美ちゃんは、ジュースをちびちびと飲みながら言う。
「眼に入れても痛く無いよ。 亜美ちゃんだって、よく部屋に来てあの子達を見てるじゃない」
「あはは、癒されるんだよんだよねぇ、あの子達見てると」
「わかるわぁ……私もジョセフとセリーヌが生肉に齧り付いてるのを見ると癒されるもの」
「それは何か違くない?」
奈央ちゃんが、うっとりしているところを、遥ちゃんがツッコむ。
ちなみに、ジョセフとセリーヌというのは奈央ちゃんが飼っているトラさんである。
「ペットってええですよね。 私も実家に犬がいますけど、たまに帰ると飛びついてきよるんですよ。 癒されますわ」
「渚、わんちゃん飼ってるんだ!? 良いなー!」
「それ初耳! 弥生ちゃん何も言ってなかったよ!」
麻美ちゃんと亜美ちゃんが、その話に食い付く。
「お姉ちゃん、人から訊かれへん事は自分から話さへん人やから。 私の事とかもそうやったでしょ?」
「たしかに」
月島さんは、未だに謎の多い友人である。
春高から会ってないけど、元気かな?
「これがうちの犬です。 メスで名前はアテナです」
「ア、アテナ?! 大層な名前付いてるわね」
「ジョセフとセリーヌも似たようなもんでしょうが」
渚ちゃんがテーブルの上にスマホを置くと、皆が顔を突き出して画面を覗く。
「おー! 可愛い! ポメだね!」
「そうそう」
可愛いポメラニアンの女の子だ。
仔犬も産んだ事があるらしく、その内の2匹残して、残りは友人に貰ってもらったらしい。
「ペットかー。 私の家にはカメしかいないからなー。 世話もお父さんしかしてないし」
紗希ちゃんの家には、小さなカメがいる。
手の平サイズだけど、立派な大人らしい。
「ペット欲しいね、お姉ちゃん」
「そうねぇ……」
「奈々美にはペットいるじゃん。 ほれそこに」
と、遥ちゃんが笑いながら指差した先は、もちろん宏太くん。
「誰が愛玩動物だ!」
「そうよ。 こんなの見ても癒されないでしょ」
「こんなので悪かったな!」
「あははは! 宏ちゃん、面白いね」
宏太くんを見て、手を叩きながらケラケラと笑う亜美ちゃん。 結構珍しい光景である。
その後も、ペット談義等で盛り上がり、最後には皆から亜美ちゃんと夕也くんにプレゼントを渡し、誕生日会はお開きとなった。
◆◇◆◇◆◇
私の部屋──
さっき言っていた通り、宏太くんが私の部屋に来てパフェを見てくれている。
少し離れた所から、じっと観察している宏太くん。
パフェの機嫌が悪い理由、何かわかるかな?
「……」
「……」
しばらく黙って見ていると、亜美ちゃんと奈々美ちゃん、麻美ちゃんも気になったのか、私の部屋へやって来た。
「どう?」
「うーん……ずっと黙って見てる」
「本当は何もわからないんじゃないの?」
「いやいや、宏太兄ぃは生き物博士だし」
あ、やっぱりそうなんだ。
「……希望。 こいつらしばらく別々のケージに入れた方が良いな」
「……え?」
「メスの方が神経質になってる。 オスの方を別のケージ移した方が良い」
「ど、どうして? 2匹は仲良しだよ? ケンカとかもしないし……パフェ、どうしちゃったの?」
やっぱり何か病気なのかな?
「……どんな生き物でも、神経質になる時期ってのがあるもんだろ?」
「何よもったいぶって。 希望が不安がってるじゃない」
奈々美ちゃんが、宏太くんに怒っている。
宏太くんは「悪い悪い」と謝罪した後で、パフェの不機嫌の原因を教えてくれた。
「こいつ、子供がお腹の中にいるよ」
……。
…………。
「こ、子供?」
「おう。 遠くからよく見てみな。 神経質になってるからあまり近付くなよ?」
私は宏太くんの隣に移動して、言われるがままにパフェを観察する。
「よく見ると、尻尾の下から白い物が見えるだろ? あれは膣線っていって、あれが出てるとまず間違いなく妊娠してると言っていい」
「……はぅ、本当だ」
宏太くんに言われなきゃ、絶対気付かなかったよ。 凄いなぁ。
「良かったね、何事も無くて」
亜美ちゃんも一安心したようだ。
奈々美ちゃんも麻美ちゃんも、我が事のように喜んでいる。
「さっきも言ったけど、こいつは神経質になってるから、オスとは一旦離してやりな。 で、当然希望も必要以上には構わない事だ」
「メモメモ」
宏太くんが、上手にハムちゃんを出産させるにはどうすればいいかアドバイスしてくれる。
頼もしいよぅ。
「藁を換えたり、ケージの掃除も出産後落ち着くまではやめとけな。 気になるだろうけど我慢してやれ。 オスの方は今まで通りな。 あとも餌を栄養あるものをやると良いらしい。 食欲旺盛になってるしな。 ゆで卵のかけらとか良いって聞くけど、そこは詳しくないから店の人にでも訊いてくれ」
「うんうん。 ありがとう宏太くん! 明日早速ペットショップ行ってくる」
「おう。 上手く繁殖すると良いな」
「うん」
「やるじゃん宏太」
奈々美ちゃんも、少し宏太くんを見直したようだ。 いや、評価が更に上がったと言うべきかな。
「お姉ちゃんが妊娠したら、宏太兄ぃも別の家に逃げないとねー。 神経質になったお姉ちゃんとか、危険極まりぃぃたたたっ」
「何か言ったかしら麻美?」
「……私、家出よかな」
「あははは」
何はともあれ一安心。
出産は大体2〜3週間後との事。 注意して見てなきゃね。
「宏太くん、今日はありがとう。 助かったよぅ」
「役に立って良かったぜ。 また何かわからない事あったら呼んでくれ」
「うん」
宏太くんにお礼をして、玄関まで見送る。
パフェ、元気な子産むと良いな。
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