第367話 天才プレーヤー
☆亜美視点☆
今日は4月9日の金曜日。
明日は私の誕生日である。 誕生日パーティーは奈央ちゃんの新しい別宅……つまり元清水家で夕ちゃんの誕生日と合同でやる事になっている。
まあ、皆が集まってお菓子やらを食べながら駄弁るだけだけど。
「部活~部活~」
今日も今日とて授業を終えた私達は、部活へと向かう。
更衣室で着替えながら、皆とお話し中の事。
「今日から1年生合流よね?」
「うん。 何人ぐらい入部してくるかな?」
「さすがに見学に来た数があれだとねー」
パッと見て30人はいたと思う。
大所帯になってしまった月ノ木。
今、学校側に申請中だけど広い体育館が欲しいよ。
「見学の時、1人中々良さそうなのいましたわよね?」
「あーいたいた」
「金髪で青い目の子だよな? ハーフかなんかかね?」
そうそう。 結構高さのあるジャンプとパワーのあるスパイクを打っていた。
かなり有望そうな子だったねぇ。
着替え終えた私達は、体育館へと移動する。
中に入ると、やっぱりたくさん新入部員がいた。
中には先程話にも上がった子もいる。
よしよし。
「集合!」
とりあえず1年生を集合させて、1年生を私達2、3年の向かいに立たせ、まずは私達から自己紹介をする。
とはいっても人数が多いからレギュラーだけ。
こちら側の挨拶を終えて、新入部員の自己紹介をしてもらう流れになった。
「月ノ木中バレー部出身、冴木春海です! キャプテンで
私達の後輩だった子だね。 中学生の頃に1年だけ面倒を見たことがあるのを覚えている。
この間の練習を見た時は、かなり良いトスを上げていた。 期待の新人である。
「長野の白百合中学から来ました、廣瀬マリアです。
件の子はマリアちゃんっていうんだね。
ふむふむ、長野県から来たのかー。 ありがたいねぇ。
身長は紗希ちゃんと同じくらいかなぁ? 期待の新人その2だよ。
その後も自己紹介をしてもらい、全員が終えたところで色々説明に入る。
「えー、まず。 練習用の体育館ですが、今、広い体育館を使わせてもらえるように申請しています。 実績は充分あるから、多分承認されると思います。 しばらくは狭いけど我慢してね」
「はい!」
「次に、夏までの簡単なスケジュールを説明します。 来月には早速インターハイ地区予選があります。 なので、今月末にはレギュラー入れ替えをやります」
「前も言ったけど、うちは実力主義だから1年生でもチャンスあるからね」
「はい!」
「8月にはインターハイ本戦の他にも新人戦があるから、1年生はそこも目標にしてね」
「はい!」
「じゃあ、練習始めるよ。 まず軽く体操してから、外周5周!」
「はい!」
ささ、私達も体ほぐして走るよー。
◆◇◆◇◆◇
後方を走りながら1年生の動きをチェック。
「マリアちゃん速いね。 基礎体力もしっかりしてそう」
「そうね。 有名プレーヤーだったのかしら?」
私達は、下の世代についてはあまり詳しく知らない。 麻美ちゃんや渚ちゃんは知ってるかな?
「他の子も軒並み平均以上だなぁ。 こりゃこの世代強いかも」
遥ちゃんから見てもそう思うらしい。
2年生もうかうかしてられないね。 後で檄を飛ばしておこう。
うむ。 1年生の基礎体力は大体把握出来たし、そろそろ前に行こうかな。
「奈々ちゃん、遥ちゃん。 そろそろ前に行くよー」
「はいよー」
と、私に付き合ってくれていた2人と一緒にペースを上げる。
「せ、先輩達凄い……」
「無理しなくて良いから、自分のペースでね」
「はい!」
皆、素直で良い子だなぁ。
お、マリアちゃんは2年生グループについていけてるね。
「マリアちゃん、凄いね」
「……」
「期待してるよぉ。 頑張ってねー」
と、声を掛けてから加速して前に出る。
奈々ちゃんと遥ちゃんも、余裕でついてくるねぇ。
「……うわわ、マリアちゃんもついてきた」
「へぇ、やるわねー」
「こりゃ凄いのが入ってきたもんだ」
「……」
とはいうものの、少しオーバーペース気味なのか表情が辛そうだ。
無理させない方が良さそうだね。
「マリアちゃん、あまり無理してついてこないほうが良いよ? マイペースマイペース」
「先輩は余裕でそうすね……?」
「ん?」
「やっぱり世界一のプレーヤーともなると、こんなペースで走っても余裕ですか?」
ど、どうしたんだろう? ちょっと機嫌が悪そうだよ?
「こら、貴女……」
「あ、良いよ奈々ちゃん」
「清水先輩。 体育館に戻ったら、私と勝負して下さい」
そんなことより表情が凄く苦しそうだけど、大丈夫かな?
まあ勝負は別に良いけど……。
「じゃあ、ランニングで私に先着出来たら勝負してあげよう」
「本当ですか?」
「約束するよ」
「はあ……ついていく身にもなりなさいよね」
「まったくだよ」
奈々ちゃんと遥ちゃんが溜息をつきながら愚痴っている。
別についてこなくても良いんだけど……。
んじゃまあ……。
「マリアちゃん、ついてこれたらどうぞ」
「無理はしない様にね。 あれについてくの、私達でもキツいんだから」
私と奈々ちゃん、遥ちゃんは更に加速してマリアちゃんを引き離す。
最初は無理についてこようとしていたが、すぐに限界を迎えてペースを落としていた。
「ま、あんなもんでしょ。 1年生にしちゃ大したもんよ」
「期待通りってやつだね」
「でも、勝負だなんてどうしたんだろうねぇ……」
結局、外周のランニングでは私が先着。 勝負の話は保留となった。
体育館へ戻って来たバレー部は、ポジション別に分かれて練習を開始。 アウトサイドヒッターの面倒は奈々ちゃんと紗希ちゃんに、セッターは奈央ちゃん、リベロは希望ちゃんと私、ミドルブロッカーは遥ちゃんが見てくれている。
「……」
また視線を感じる。 初日にも感じたこの視線の正体はなるほど……マリアちゃんの視線だったんだね。
何か私を目の敵にしてるけど、私何かしたかな?
「あの子、ずっと亜美ちゃんを見てるよぅ?」
「うん……敵視される心当たり無いんだけぁ……」
結局、最後までそんな調子なのであった。
◆◇◆◇◆◇
部活を終えて、家に帰って来た私はパソコンで彼女の事が何かわからないかと考え、検索をかけてみることにした。
「廣瀬マリア 中学 バレーっと」
中学生バレーボールプレーヤーの情報なんかが引っかかるなんて期待は、あんまりしていなかたったんだけど、ちゃんと検索が出てきた。
「おー……去年の全中で優勝した学校のエースだったんだね」
なるほどなるほど、レベルが高いはずだ。
「んと……清水亜美卒業後の中学バレーボール界に現れた天才プレーヤー。 全てが高レベルでまとまっており、高校に上がってからもそのプレーに注目。 界隈では、同じオールラウンダーの清水亜美と比較される事も多い。 2人が直接対決する機会があるとすれば、夏のインターハイしかないだろう。 清水、月島、宮下、藍沢の世界経験組に割って入れるか、今後に注目だ」
なるほど、これか。
どうやら、去年時点では実質的に中学No1プレーヤーだったようだ。
しかし、比較対象として常に私がついて回ってきた結果、私に対してある種の対抗意識が生まれたのかもしれない。
インターハイでは直接対決出来るかわからないから、わざわざ月ノ木に入学してきたって事か。
「ふうむ……しばらくは様子を見てみようか」
とにかく貴重な戦力だ。
機嫌を取りつつ、うまく扱っていこう。
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