第366話 高校3年生

 ☆夕也視点☆


 旅行から帰ってきて数日。

 今日は始業式だ。

 希望が亜美から俺を奪い返すと言い放ってからというもの、連日のように2人は小競り合いを繰り返している。

 ただ、ケンカに発展するような事態にはなっておらず、あくまでも仲良く奪い合うつもりらしい。

 俺の安寧はいつ訪れるのだろうか。


「はぁ……」

「朝から溜息ついちゃって……。 そんなに登校いや?」

「いや、そうじゃなくてな」

「?」


 と、何もわかってなさそうな2人は、顔を見合わせるのであった。


 朝食の後、準備を済ませて家を出る。

 いつもの場所で宏太達とも合流して、学園へと向かう。


「クラス替え……どうなるかな?」

「また言ってるわよこの子」


 毎年クラス替えを気にする亜美。

 一度自分だけ1人になった年があったが、多分あれが相当辛かったんだろうな。


「どうか、皆が同じクラスになれますように〜……」

「あ、あはは……願掛け始めたよぅ」

「亜美ちゃん、願掛けしてももう結果は出てるんだぜ?」

「むっ! 見るまでは有効だよっ! 宏ちゃんだけ逸れますように〜っ!」


 と、新たな願を掛けるのであった。


「私も同級生だったらなー」


 1学年下の麻美ちゃんは、どう足掻いても同じクラスにはなれない。 留年すれば話は別だが。

 6人で学園までの道のりを歩いていくと、桜満開になっている正門前に辿り着いた。

 中庭に貼り出されているであろうクラス発表を確認しにいく。


「あ、皆ー! クラス発表こっちー!」


 向かう途中で俺達に気が付いた紗希ちゃんが、手を振って呼んできた。

 相変わらず元気だな。

 掲示板前までやって来た俺達は早速クラスを確認。


「ふふふー。 凄いよ、今年は」

「んー? 凄い?」


 紗希ちゃんが興奮気味に言うと、亜美は首を傾げながら掲示板に視線を向ける。

 俺は…3-Aか。 他に誰がいるんだろうか?


 1番 藍沢 奈々美

 2番 蒼井 遥

 3番 今井 夕也


 ほう、奈々美と遥ちゃんが一緒か。 退屈せずに済みそうだ。


 6番 神崎 紗希

 8番 清水 亜美


 紗希ちゃんと亜美は2年の頃から引き続き一緒か。

 ん?


「き、奇跡だよぉ」


 亜美は感動の涙を流しながら、そんなことを呟いた。

 まさか……。


 10番 西條 奈央

 11番 佐々木 宏太

 29番 雪村 希望


 ぜ、全員同じクラスだと……?


「はぅーっ!?」

「マジこれ?」

「どんな確率だ?」


 他の面子も、この結果には言葉を失っている。

 亜美は「やった! やった!」と大はしゃぎ。

 紗希ちゃんもそれにノッて一緒にはしゃいでいた。

 まあただ、楽しい1年になりそうなのは間違いない。


 というわけで、ゾロゾロと3ーAへと移動してきた。


「おぉ、月ノ木TOP Tier軍団キタ!」

「このクラスやべー」


 教室に入るや否や、クラスメイトが騒ぎ始める。


「あ、あはは……」

「ささ、姫の席はこちらです」


 と、女子生徒が亜美を席へと導いていく。

 何だこの絵面……。

 まあ、放っておいて自分の席に座るか。


「あ、またお隣さんだねぇ。 凄いねぇ」


 隣は亜美だった。 出席番号が上手い具合に離れてるんだよなぁ。

 んで、1人だけ出席番号が離れている希望だけが、やはり羨ましそうにこちらを見つめているのだった。


「しかし、集まりに集まったなぁ」

「そうだねぇ。 私は嬉しいよ」


 亜美が悲願叶ったようだ。 


「亜美ちゃん。 定期テスト、勝負ですわよ!」

「奈央はまだ言ってんのー? いい加減に諦めたら?」


 紗希ちゃんが、振り向いてケラケラと笑いながらそう言うと、奈央ちゃんは「嫌ですわよ!」と反論する。

 多分、定期テストでは亜美には一生勝てないだろうな。


「全校生徒は体育館へ集まって下さい」


 ゆっくりする間も無く集合がかかる。

 はぁ、始業式面倒だなぁ。



 ◆◇◆◇◆◇



「であるからして……」


 やはり学園長の長い話を聞かされる生徒一同。

 3年生ともなれば、散々聞かされた話をまた聞かされている事になるわけで、もはや誰も聞く耳を持たない。

 俺は前に立つ遥ちゃんの制服のシワを視線でなぞりながら時間を潰す。

 退屈だ。


「以上!」


 何分話していたんだ学園長。

 よくカンペや台本も無しに長々と話せるもんだな。


 解放された俺達は順番に教室へと戻るのだった。


「何であんな長いんだよ……」

「だよねぇ……私、退屈すぎて頭の中で日本国憲法前文から順番に暗唱してたよ」

「亜美ちゃん意識高すぎでしょ?!」


 紗希ちゃんはケラケラ笑っている。

 よく笑う子である。


 さて、担任がやって来てHRが始まる。

 毎年恒例の委員決めである。

 

 今年は二見が違うクラスになってしまった為、委員長が中々決まらなかったが、最後はくじ引きの結果田宮に決まった。

 どうせ帰宅部なんだから文句は言うなよ。

 その後の委員も順調に決まり、HRは終了した。



 ☆亜美視点☆


 HRが終了したので、鞄をさっと手に持って立ち上がる。


「よし、部活行くよ!」


 今日は新入生の部活見学もある。 キャプテンは大変なのである。


「大変なのである!」

「何がよ……」


 隣へやってきた奈々ちゃんが、呆れ顔で言う。


「さあ、行くよ副キャプテン!」

「あーはいはい……」


 奈々ちゃん以下バレー部一同を伴い、バレー部、バスケ部兼用の体育館へ移動する。

 更衣室で着替えて、いざ体育館内へ。


「うへー」

「うわわ?!」


 新入生は一杯いた。 去年の比じゃないくらい見学者が一杯だよ。


「ほれキャプテン!」

「うわわ」


 奈々ちゃんにお尻を叩かれて、新入生の前に出る。


「清水先輩だわ……」

「本物だぁ……」


 ざわざわ……


 私が前に立つだけで新入生達がざわざわしだす。


「さすが、日本の小さな怪物の名は立じゃないわね……」


 紗希ちゃんがクスクス笑いながら茶化してくる。 あとで学園の外周5周だよ。


「えーっと、今日はバレー部の見学へ来てくれてありがとうございます! 私は月ノ木学園バレー部キャプテンの清水亜美です」


 ペコリと頭を下げ挨拶。

 だいぶキャプテンらしくなったんじゃないだろうか?


「うちは実力主義なので、実力次第では1年生でも即レギュラーになれる可能性があります。 皆さん、頑張って下さい。 って、まだ見学だったっけ」

「ははは」


 うむ。 ちょっと和やかなムードになったね。


「私達は、春夏を2年連続で制しています。 今年度も頂点を獲りたいので、皆さんのお力をお貸しください! 以上!」


 パチパチ……


 と、キャプテンとしての挨拶を終えた私。

 そのまま、1年生に練習に参加してもらい、その動きを見てみる。


「中々有望そうなのがいるわね」

「うん」


 奈央ちゃんのお眼鏡にかなう子も散見された。

 期待大である。

 しっかり育てて、私達が引退した後の月ノ木を引っ張っていってくれるようにしなきゃ。

 私達が出られる大会も、残すところ夏のインターハイだけ。 頑張って優勝するよ。


「……」


 ん? 今、少し視線を感じたような気が……気のせいかな?

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