第365話 ファイナルラウンド
☆夕也視点☆
夜、部屋へやって来た希望を招き入れると、紗希ちゃんも一緒に入ってきた。
それは別に良いのだが、招き入れた2人が「Wアタック」と叫んだかと思うと、俺をソファーに押し倒してきた。
全く意味が分からないのだが。
「ゆ、夕也くんごめんなさいっ」
「な、なんだ一体?! 2人とも離れるてくれ!」
「嫌だよぅ!」
「何を言って……」
「きゃはは。 今井君諦めたまえ。 希望ちゃんは真剣だよ」
「……」
希望と紗希ちゃん2人ぐらいなら、頑張れば引き剥がせるんだが……。
なんだ、希望の表情……本当に真剣な顔してやがる……。
「わ、わかった。 話を聞こう。 だから離れて……」
しかし希望は、首を大きく横に振りそれを拒否。
さらには、俺に抱きついてきて離さないと意思表示してくる。
「さ、紗希ちゃん。 君だけでも離れてくれないかね……」
「嫌ー」
や、やはり聞かんか……。
亜美が言ってたのをすっかり忘れてたが、紗希ちゃんは俺を夜這いする策略を企てていたんだったな。
これはやられた……。
「さあ希望ちゃん! やるよ!」
「うん」
その後、俺は2人に為すがままにされてしまうのであった。
◆◇◆◇◆◇
「今井君……ゴチ! 最高だったわよん!」
「お婿にいけなくなった……」
「……」
やりたい放題やって満足そうな紗希ちゃんと、まだ何か言いたそうな希望。
「さて……私は満足したし、部屋戻るね。 希望ちゃんガンバ」
「うん」
紗希ちゃんは、ささっと服を着て部屋を出て行ってしまった。
さて……落ち着いたところでだ。
「……希望。 これは何だ?」
「……」
☆希望視点☆
紗希ちゃんと2人して、夕也くんを襲ったのは良いんだけど、さすがに夕也くんは怒っている様子。
もしかして、裏目だったのかもしれない。
「ご、ごめんなさいっ!」
とにかく平謝りする。 夕也くんは困った様な表情で私を見つめて。
「ごめんったってなぁ……何だったのか説明してくれないか?」
「やっぱり、まだ諦めたくなくて……」
「うん?」
「……夕也くんの1番を……諦めたくないの!」
私の今の気持ちを夕也くんに伝える。
亜美ちゃんを選んだ夕也くんは、こんな事を言われても困ると思う。
だけど、やっぱり私の10年以上育んできたこの気持ちを、捨てる事はできない。
「夕也くんを愛してるの!」
「……希望」
私のその言葉を聞いて、やはりというか困った様な表情をする夕也くん。
「私、もうチャンスが来るのを待つのをやめる。 積極的にいこうって決めた」
「それがこの夜這いってわけか……」
夕也くんは、額に手を当てて溜息を一つついた。
「紗希ちゃんは何だったんだ?」
「……協力者? 何か2人で襲う話になって……」
たしかに何だったんだろう? 別に紗希ちゃんが一緒になって夕也くんを襲う必要はなかったんじゃ?
「はぁ……まあ、過ぎた事は良いが……」
夕也くんは一度言葉を切る。
「……希望の気持ちはわかった。 希望が俺なんかをまだ好きでいてくれているのは、正直言って嬉しい。 あんな別れ方をしちまって、悪かったと思ってる」
「夕也くんは悪くないよ……夕也くんは自分の気持ちに正直な答えを出したんだもん。 私が足りなかっただけ」
そう、私が足りなかっただけなんだ。
もっと、もっと私がしっかりしていれば。 もっと夕也くんに気持ちをぶつけていれば、結果は違ったかもしれない。
私が甘かったから、夕也くんを取られたんだ。
だから……。
「私、もう亜美ちゃんにも夕也くんにも遠慮しないよ」
「希望?」
「私、亜美ちゃんから夕也くんを奪い返す!」
◆◇◆◇◆◇
翌朝一─
私はメールで亜美ちゃんを呼び出して、2人で近くを散歩しようと誘った。
「んーっ! 空気が美味しいねぇ」
「あはは、そうだね」
少し歩いた先にある川辺にやってきた私達は、近くのベンチに腰掛ける。
「んで? わざわざ2人で散歩しようなんて、どうかしたの?」
と、亜美ちゃんが訊いてきた。 やっぱり、何だかんだ言ってもお姉ちゃんだ。
あっさり見抜かれていた。
「うん……亜美ちゃんに宣戦布告しよと思って」
「……宣戦布告?」
隣に座る亜美ちゃんが、首を傾げる。
私は真剣な顔で亜美ちゃんを見つめて、夕也くんにもした話を亜美ちゃんにする。
「私、やっぱり夕也くんの事を諦めたくないの。 だから、本気で亜美ちゃんから奪い返しにいくよ」
「え……」
「本気だよ。 もう今までみたいに甘くはいかないからねっ!」
「あ、あぅ……希望ちゃんどしたの?」
「私は夕也くんの1番が良い。 それだけだよ」
亜美ちゃんは、私の宣戦布告を聞いて複雑そうは顔をしていた。
☆亜美視点☆
希望ちゃんから、夕ちゃんを奪い返すと宣戦布告を受けた私は、何とも言えない恐怖を感じていた。
希望ちゃんの表情が本気だからである。
今まで何だかんだ言っても、3人で居られれば良い、2番目で良いと……そう言っていたから、そのポジションに落ち着くつもりなんだと思っていた。
でも、そうじゃないらしい。
やっぱり、夕ちゃんの1番になりたいんだね。
希望ちゃんの真剣な表情を見ればわかる。
これから先、少しでも気を抜いて甘いところを見せれば、間違いなく奪い返される。
私も気を引き締めなければならないだろう。
「……臨むところだよ」
「……」
視線を逸らさずに、お互いを見つめ合う。
私と希望ちゃんの夕ちゃん争奪戦。 今度こそファイナルラウンドだ。
「これから先は私も甘くないよ? まず、月一回のデートは、もう許さない」
「……仕方ないね。 じゃあ、これからは好き勝手に誘わせてもらうよぅ」
バチバチ……
希望ちゃんが、今までとは明らかに違う。
負けられないよ。 夕ちゃんの1番は私なんだから。
「でもね、亜美ちゃん」
「ん?」
「ケンカだけはしないようにしようね?」
そう言った希望ちゃんは、いつもの表情になっていた。
「うん。 約束」
2人で小指を結び、指切りをする。
私も希望ちゃんも、今まで以上に本気で夕ちゃんを取り合う事になるだろう。
それでも仲良しでいたい。
「夕ちゃんには?」
「昨日伝えてあるよ。 それと同時に襲わせてもらいましたー」
「あーっ! ずるいよ希望ちゃん! フライング!」
どうやら、今回の希望ちゃんは相当手強いようだよ。
本当に気が抜けなさそうだ。
「ははは、さて、別荘に戻ろ? 朝ご飯準備しなきゃ」
希望ちゃんはベンチから立ち上がって、いつもの表情で言った。
「うん」
◆◇◆◇◆◇
「へぇ」
「希望姉、何か強い」
キッチンで朝ご飯の準備をしながら、希望ちゃんが皆に話した。
奈々ちゃんは「面白そうね。 私は亜美に協力するわよ」と、力になってくれる約束を交わした。
希望ちゃんには紗希ちゃんがつくようだ。
んー、去年の争奪戦と似た構図だねぇ。
麻美ちゃんはどっちも頑張れというスタンスらしい。
渚ちゃんは、夕ちゃんを応援するとの事。
健気である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます