第358話 別荘到着

 ☆亜美視点☆


 高速に入りサービスエリアでの休憩を終えたバスは、再度高速道路の走行を開始した。

 サービスエリアでの休憩中も、希望ちゃんはぐっすり眠っていた。


「あとどれぐらいで着くのよ?」


 走り出したところで奈々ちゃんが奈央ちゃんに訊いた。

 あと1時間ほど走るそうだ。 まだ少しあるんだね。

 サービスエリアでの休憩以降、寝ている人が増えているねぇ。 私も着くまで寝ようかな……。

 そう決めて、目を閉じて軽く眠りについた。

 


 ◆◇◆◇◆◇



「亜美ー、起きなさいよー」

「んん……着いた?」

「もうすぐ着くって奈央が言ってたわよ」

「うん……んんーっ……ふぅ」

「すー……」


 希望ちゃんはまだ寝てるね。 奈々ちゃんが希望ちゃんも起こし始めた。

 希望ちゃんは2人用の座席に1人で座っているのだけど、窓際の方にはハムスター……バニラとパフェのゲージが置いてある。

 世話をしてくれる人がいないので、一緒に連れてきたのだ。


「んん……おふぁよぉ」

「おはよ」


 希望ちゃんも大きく伸びて体を起こしている。 次に奈々ちゃんは紗希ちゃんを起こしに行く。


「紗希ー」

「んにゅー……」


 紗希ちゃんは目を擦りながら、ぽけぽけとした声を上げる。


「にゅ~……あさー? おはようございまーす……んゆー」


 紗希ちゃんは寝起きがあんまり良くないんだっけ。 完全に寝ぼけて奈々ちゃんの手に齧り付こうとしている。

 奈々ちゃんは慌てて手を引っ込めてそれを避けている。

 

「全くこの子は……」


 しばらくぽけぽけしていた紗希ちゃんだったけど、次第に目が冴えてきたのか5分ほどでいつも通りに戻っていた。 あれ、可愛いからもうちょっと見てたかったなぁ。


「さぁ、そろそろ別荘地に着くわよ」


 奈央ちゃんが振り向いて、全員に語り掛ける。 よくよく周りを見ると、どうやらこの辺りは観光地らしい。 これなら色々とデート楽しめそうだねぇ


「ほへー、綺麗な湖もあるわねぇー」

「夏なら泳いだりも出来るんだけど、この時期はまだちょっと寒いわね」

「残念」


 さらに少し入ると、視界の遠くの方にピンク色に染まった一帯が目に飛び込んできた。


「おおお! あれは?!」


 麻美ちゃんもそこに目が向いたようで、声を上げている。


「ふふふー。 明日はあそこでお花見をするのよ。 他のお客さんもいるから、騒ぐのはほどほどにしてもらうけど」

「おお……」

「すげーな。 思ってた以上だ」

「うんうん。 明日が楽しみだね」


 そしてバスは、別荘地の一角にある駐車場に停車した。


「着いたわよー!」


 バスでの移動が終了して、バスから降りる私達。

 奈央ちゃんが先導して、別荘へ案内してくれる。

 駐車場から3分程歩いたところで、とても立派な建物の前に到着した。 やっぱり凄い別荘だよ。

 奈央ちゃんがカギを開けて中に入っていくので、私達もそれに続いて入っていく。


「外から見てわかってたけど、やっぱ広いわねー」


 私達は、別荘内に入ってまず広い部屋に通された。 ここで夕食や朝食を食べるという事らしい。

 皆が集まる部屋だね。

 さらに、浴場やトイレなどの設備やキッチンなども案内してくれた。

 今日と明日の夕食はこのキッチンで作って食べることになるよ。


「んじゃ、部屋の鍵はこれね」


 バッとテーブルの上に鍵をバラまく奈央ちゃん。

 私達は適当に鍵を手に取り、番号を確認する。 私の鍵には7番と書かれていた。

 7番の部屋ね。

 私達は一旦解散して部屋へ向かう。


「7号室は……あったあった」

「あ、隣は亜美の部屋なのね」

「おお、奈々ちゃんだ。 よろしくね」

「ええ、よろしく」


 どうやら私の部屋は一番奥の部屋なので、お隣さんは奈々ちゃんだけである。

 更にその向こうには紗希ちゃんの部屋がある。 お向かいに14号室があるけど、そこは誰も入らないらしい。 なんて寂しい部屋を引き当ててしまったのか。

 言っても仕方ないのでとりあえず部屋の中に入る。


「うわわ……わかってはいたけど広くて快適そうな部屋だねぇ」


 相変わらず高そうな絨毯にベッド、柔らかそうな布団にエアコンも完備。

 テレビもあるし内線電話もあるよ。

 至れり尽くせりだね。 窓の外からは、先程遠くに見えていた桜並木が眼前に広がっていた。

 窓を開けると、ツンッした桜の甘酸っぱい香りが漂ってくる。


「良い所だねぇ……」


 やっぱり旅行は好きだなぁ。 奈央ちゃんと友達になってなかったら、こんな素敵な旅行を何回もするなんてなかっただろう。


「そうだ。 奈央ちゃんから周辺マップ貰わないと」


 早速辺りを散策したい欲求に駆られている私は、奈央ちゃんの部屋へ向かう。

 たしか奈央ちゃんは1号室だったはずだ。


 コンコン……


「はいはーい」


 ガチャ……


「亜美ちゃん?」

「お外に出たいんだけど、周辺マップちょうだいー」

「あー、そうだった! 配るとか言って忘れてたわ。 ちょっと待っててね」


 奈央ちゃんは一度部屋の中へ戻って、すぐに何かを持ってきた。


「はいこれ! 私、皆に配って来るわ」

「あ、夕ちゃんの部屋までついてくよぉ」


 夕ちゃんがどの部屋かまだ知らないから、このまま奈央ちゃんについて夕ちゃんの部屋を探すことにした。

 スマホで聞けば早いんだけど、こうなったらもうついでだ。

 私は奈央ちゃんについて、皆の部屋を回る。 そうして3つ目の部屋、3号室に夕ちゃんがいた。

 むぅ、両隣が渚ちゃんと麻美ちゃんの部屋なんだねぇ……警戒だよっ。


「はいこれ、この辺のマップね。 今日はもう自由行動だから好きにしてちょうだい。 ただし、夕飯は皆でここで食べるから、外食はして来ない方が良いわよ」

「おう、サンキュー」

「夕ちゃん」

「ん、亜美か」

「散策にいこ~」


 私は早速夕ちゃんを誘う。 どうせここにいても暇だろうしね。


「そうだなぁ。 じゃあ行くか」

「やった」

「さっきも言ったけど、夕飯の準備とかもあるから夕方までには帰ってきてね」

「うん、わかったよ。 夕ちゃん行こう」

「あいよ」


 という事で、夕ちゃんを引き連れて別荘を後にした。



 ◆◇◆◇◆◇



 周辺マップを見ながら観光地をデートして、別荘に戻ってきたのが17時頃。

 ショッピングや土産物屋、近くに見えた湖などを見ながらイチャイチャチュッチュッとデートを満喫したのだった。

 皆もそれぞれお出掛していたようで、麻美ちゃん渚ちゃん希望ちゃんの3人とは、土産物屋さんで偶然会って少し話をした。

 その後一緒に回ろうかと提案してみたけど、私と夕ちゃんに気を遣ったのか断られた。

 別荘に戻ってきた私は、キッチンで夕食の準備を始める。

 何せ10人分の食事を用意するのだ。 料理ができる女子勢は人海戦術で調理に取り掛かる。

 食材は冷蔵庫に前もって用意してくれていた物を使う。

 今日は人数も多いので、いっぺんに用意できるクリームシチューとなった。


「てややー」

「亜美、それ言わないと野菜切れないの?」

「切れるよー」

「あはは、亜美ちゃん急いだりする時は、意味もなくそれ言うよね」

「何か手が早くなった気がするんだよ」


 実際には変わってないけど。 私達は、キッチンで賑やかに騒ぎながら夕食のクリームシチューの準備を進めるのだった。



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