第355話 皆の進路

 ☆亜美視点☆


 春休み中の今日、暇をしていた夕ちゃん、希望ちゃんと一緒にぶらりと学校へやって来たのだけど、バレー部とバスケ部の体育館では、バレー部1年生の大半と、紗希ちゃん遥ちゃんが練習していた。

 私も少し練習に混ざった後、思い付きで夕ちゃんと1on1で勝負することにした。

 最初のオフェンスは、夕ちゃんの虚を突いた攻撃で1ポイント先取することに成功。

 でもその後が続かず、結局は夕ちゃんに3-5で負けてしまったのだった。

 真剣にやってもやっぱりバスケじゃ勝てないねぇ。


「お疲れぃ」


 夕ちゃんに頭をポンポンと叩かれる。 むぅ悔しい……。


「でも、やっぱお前すげぇよ。 男子バスケ部の俺と渡り合える女子バレー部員なんて、まずいないんだからよ」

「そうかもしれないけどさぁ……」


 普段からバスケ漬けの夕ちゃん相手に勝てないのは仕方ないか……。


「でも、ほんま凄かったですよ。 清水先輩、女バスでも全国行けたんちゃいますか?」

「行けたも何もないぞ? こいつと奈々美と奈央ちゃんの3人は、女バスの全国優勝校と3onで勝負して勝ってるからな」


 たしか以前ストバスのコートで勝負したことあったね。

 去年の夏休みだったかな?


「本当に亜美ちゃんはハイスペックよねー」

「改造人間か何かなんだよきっと」


 希望ちゃんにまでそんなことを言われてしまう。 もうツッコむのも疲れるからスルーだよ。


「ほれほれ、休憩は十分したでしょー! 練習練習ー」


 私と夕ちゃんの勝負を観戦していた1年生達を練習に戻らせる。

 て、部活じゃなくて自主練なんだから、私が仕切らなくても良いか。

 しかし1年生達は「はい」と律義に返事をして、練習に戻っていった。


「あ、そうだそうだ。 奈央がこの春休みに皆で旅行行く計画立ててるって聞いた?」


 紗希ちゃんが思い出したように言い出した。

 そんな話はまだ聞いていないんだけどなぁ。 希望ちゃんも聞いてないようなので、紗希ちゃんしか知らない情報なのかもしれない。


「そっかー。 4月2日から4日でお花見旅行だって言ってたわ」

「お花見旅行?」

「まあ旅行先で花見をしようってことみたいね。 例によってあの子の別荘の近くに良いポイントがあるみたいよ」

「本当に便利だね、奈央は」

「あははは……」


 何をするにも西條グループの力をフル活用している奈央ちゃん。 私達も色々助けられたりしているので、とてもありがたい。

 何か恩返しでもできればなぁ。


「じゃあ、その日は一応空けておかないとね」

「そうだねっ」


 皆で旅行は久しぶりかな。 楽しみだねぇ。


「よし、暇も潰せたしぼちぼち帰るかね」


 夕ちゃんはそう言って立ち上がる。 うーん、もう2時間は経ってるのか。

 案外潰せたねぇ。


「ほいじゃーさ、緑風でゆっくりしないー?」


 という素敵な提案をしてくれたのは紗希ちゃん。 勿論私は大賛成である。私が行くとなると希望ちゃんもついてくると言い出す。

 夕ちゃんは少し迷った後で、ガールズトークには入り辛いという理由からパスしてきた。

 うーん気にしなくていいのに……。


「じゃあ、夕ちゃんまたあとでね。 家で一杯イチャつこうねぇ」

「おーいいなぁ!」

「亜美ちゃん……」


 夕ちゃんに投げキッスを送って、校門で別れる。

 私達はそのまま緑風へ向かう。


「フルーツパフェー」

「亜美ちゃんは本当にあれ好きねー」

「うん。 子供の頃からずっと緑風のパフェで育ったからね」

「もしかして、あのパフェが亜美ちゃん超人化の秘密なんじゃ……」


 と、遥ちゃんがとんでもない憶測をし始めた。 それに希望ちゃんもノッていく。


「なるほどぅ! 有力な線だね」

「そんなわけないじゃない……たかがデザートで」

「でも、亜美ちゃんって本当どうなってるのかしらねー?」

「知らないよ……」


 というか、私はいつも普通にやってるつもりなんだけどな……。


「まーでも、いいじゃない? 何でも出来ちゃうなんて悩む事じゃないし、むしろ誇っていい事でしょー?」

「んー……そうだよねぇ」

「うんうん」

「皆、化け物だなんだって言うけどさ、本当に凄いって思ってるんだよ」


 と、皆がフォローしてくれる。


「ありがとう。 私も別に悩んでるわけじゃないんだけどねぇ」

「うんうん。 悩むなんて馬鹿らしいよー」


 と、紗希ちゃんが笑い飛ばしてくれる。

 話しながら緑風へやって来た私達は、それぞれ注文を済ませてトークを再開。


「そだそだ。 遥ちゃんあれからどうなの?」

「何がだい?」

「あの人とだよ」

「あ、それ気になるー」

「はぅはぅ」


 勿論というか恋バナへと持っていく。 話題は今ホットな遥ちゃんとスポーツジムの例の彼。

 この春から大学生にあるということで、年上彼氏という羨ましい恋人である。


「あれから2週間近く経つじゃない?」

「そうだけど、ジム以外では会ってないよ?」

「えー……ジムで会うだけって……」


 全然色っぽい話も聞けなかった。 まあ遥ちゃんとあの人ならそう言うのが普通になっちゃうのかな? あの人も恋愛的なものには不慣れって感じみたいだし……。


「不器用カップルねー」

「本当だよねー」

「私でももうちょっと頑張れるよぅ」

「そ、そう言われてもさー……」


 最初の内は仕方ないのかもしれない。 でももう少し仲が進展しても良いんだよねぇ。

 お互い色々似たところもあるみたいだし、絶対上手くいくんだけど。


「……そだ! 今度の旅行に誘っちゃいなよ!」

「おー! ナイスアイデア亜美ちゃん!」

「う、うぇ?! そんな急に誘って迷惑じゃないか?」

「聞いてみるだけ聞いてみなよぅ」

「う、うん……聞いてはみるけどさ」

「来れるといいね」

「ま、まあ、そうだね」

「裕樹はどうかしらねぇ……あいつ、また親から勉強勉強言われてて、中々遊ぶ時間貰えないみたいなのよねー」

「あー、大変だよねぇ柏原君」


 以前話した時も苦労していると零していた。 大学も良い所へ行きなさいなんて、親に言われたくはないものだ。 柏原君には柏原君でやりたいこともあるはずなのだ。 自分の行きたい大学だってきっとあるに違いない。


「良い大学出れば将来が約束されるわけじゃないのにねぇ」

「そーそー……。 あ、そうだ。 皆は進学先決めたの?」


 と、紗希ちゃんが今度は大学の話を振ってきた。


「んー、実は私考え中なんだよねぇ」

「考え中?」

「うん。 ほら、去年のクリスマスの時にさ、奈央ちゃんが『私の専属秘書に』みたいな話してきたじゃない? だから奈央ちゃんと同じとこ行こうかなって」

「え? 亜美ちゃんは小説家志望じゃないの? ていうか、もう本格的にプロとして活動始めるんじゃ?」

「うん。 それはそうなんだけど、別に常に書いてるわけじゃないと思うんだよね。 秘書業の合間にでも書ければいいような気がして」

「んー。 でもあの奈央の秘書でしょ? 二足の草鞋を履くにはちょっと厳しいんじゃない?」

「やっぱりそうかなぁ……」

「秘書始めちゃったらやめるにやめられなくなるし、よく考えた方が良いわよー」

「う、うん」


 やっぱりそんなに甘くはないかな……。


「希望ちゃんはどうなんだい?」

「私はもう決めてるよぅ。 電車で通える青葉丘教育大学だね」

「おおー具体的ー」


 希望ちゃんはもう、具体的に将来を見据えている。 凄いなぁって、素直にそう思う。

 って、私ももう小説家の卵なんだっけ。 しっかりしなきゃね。


「遥は?」

「私は神山先輩と同じとこ。 羽山大だよ」

「あそこは体育大学だっけ?」

「そうだね。 スポーツ学とかを学びたいんだ」

「いいねー。 遥ちゃんらしい」

「うんうん」


 彼氏と同じとこって言うのも、キャンパスライフを楽しむのに大事だよねー。


「そういう紗希は?」

「私ねー……京都の芸術大学を考えてるんだー。 そこならデザインの勉強に力入れてて、私のやりたい事の力になりそうだから」

「きょ、京都?!」

「うん。 ここを離れることになるけどねー。 卒業したら戻っては来るけどさー」

「そっかー……気軽には遊べなくなるねー」


 遠くの大学に行っちゃう人もいるんだね……。 それは仕方のない事ではあるけど寂しくなるなー……。


「皆、志望校に行けるようにがんばろー」

「おー!」


 受験生になった私達は、将来の事をしっかり考える時期になった。

 もう、半分大人だね。

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