第338話 進展あり?

 ☆亜美視点☆


 翌日2月15日の月曜日の部活中の事である。


「はーい、ちょっと休憩だよー」


 一旦練習を中断して休憩タイムに入る。

 春高が終わったばかりにも関わらず、夏の大会の予選の為に毎日練習。

 1年生も凄く頑張ってるし、春には新入生だって入ってくる。

 頑張ってバレー部を盛り上げていくよ。


「ちょっと良いかい?」

「んん? どしたの遥ちゃん?」

「今日部活終わったら、皆で緑風行かない?」

「行くっ!」


 私は即答する。 フルーツパフェ~。


「ところで皆でって?」

「2年の6人かな? 麻美と渚はまあ、呼んでも良いけど……」


 んん? 何で2人はどっちでも良いんだろうか? 誘えば良いのに。


「じゃあ、終わったら緑風って事で!」

「あ、うん」


 何だか良く分からないけど、緑風に行くのは大賛成である。



 ◆◇◆◇◆◇



 部活の終了後、着替え終えた私達は緑風へと向かう。

 夕ちゃんと宏ちゃんには、謝って先に帰ってもらった。

 別に呼んでも良かったと思うんだけど……。

 結局6人で行く事になった。


「でも、遥が私達を誘うなんて……こりゃ何か裏があるわねー?」


 紗希ちゃんの言う通り、遥ちゃんが皆を誘って緑風へっていうのは珍しい事だ。

 そういえば昨日はバレンタイン……あの後、遥ちゃんはたしかジムに……。


 ピコーン!


 さてはさては、あの噂の人……神山さんだっけ? あの人と何かあったね?

 これは楽しいガールズトークが期待できるかもしれないよ。


 さて、緑風へとやって来た私達は、それぞれ注文を済ませてから、じーっと遥ちゃんを見つめて待っていた。

 どうやら、皆も気付いたらしい。


「……あんたら鋭くない?」


 やっぱり予想通りだったらしい。


「んで、何があったのよ?」


 遥ちゃんの様子を見て、奈々ちゃんが切り出した。

 遥ちゃんは、少しだけ間を空けた後で話を始める。


「……実はさ、昨日あの後ジムでさ、神山先輩にチョコレート渡したんだけど」

「うんうん」


 私は続きが気になって、ついつい前のめりになってしまう。


「と、友チョコのつもりで渡したから、お返しとか要らないって言ったんだけど……」

「何で友チョコとか言っちゃうかなー!」

「そうだよ!」


 私と紗希ちゃんで、遥ちゃんに説教を始めようとしたけど、まだ話に続きがあるようなので、説教は後回しに。


「で、どうしたのよ?」

「お返ししたいから、ホワイトデーは空けといてって……その……どっか遊びに行こうって……」

「それはデートのお誘いだよ!」

「やったわね! これで3度目のデートじゃん!」

「おめでとぅ!」


 と、私達は祝福ムードなんだけど、遥ちゃんはどうして良いやらわからないらしい。

 困ったものだね。


「で? デートって次は何? プロレス? 柔道?」

「いや……映画観て夕食だそうで……」

「遥、そのままホテルまで行くのよ」

「ホ、ホテ……」


 奈々ちゃん、それはさすがにやりすぎだよ……。

 ん? そういえば噂の彼ってたしか受験生……しかも今日って。


「その人、今日大学の入試だったんじゃ? 前日にジムに来てたの?」

「そうみたいだね。 体動かしてたほうがリラックス出来るとか……」


 な、なるほど……受かってると良いねぇ……。


「で、私はどうすれば良いだろう?」

「は? どうすればって、デートOKまだしてないわけ?」

「よ、予定がまだわからないからって、ま、待ってもらってる」

「はぁ……」


 遥ちゃん以外の全員が、大きな溜息をつく。


「遥ちゃん……今すぐ連絡して、ホワイトデーは大丈夫ですって言うんだよ!」

「予定なんか無いでしょ? ほら、さっさと電話」

「あ、あんた達なぁ……」

「しのごの言わない!」


 私達に散々言われて、渋々連絡を取る遥ちゃん。 内心嬉しい癖に、どうしてこう消極的になるかなぁ。


「あ、はい。 大丈夫です、予定空けておきます……はい……あ、試験お疲れ様でした。 はい、それではまた」


 よしよし。


「来月が楽しみねー?」

「また可愛くイメージチェンジしてあげないと」

「こ、これ以上はやめてくれー」

「あはは、頑張って遥ちゃん。 私達は応援してるよぅ」


 希望ちゃんが言う通り、私達は皆、遥ちゃんの恋を応援している。

 むしろ本人があまりにも後ろ向き過ぎて、やきもきしているぐらいだ。

 あちらさんからアプローチしてくれないものかなぁ。


「にしても、バレンタインのお返しがデートなんて、もう脈ありすぎでしょ?」

「ど、どうだろう……他意はなくて、本当にただのお返しってだけかもしれないし……」

「だぁぁっ! んなわけないでしょ!」


 あまりの焦ったさに、奈々ちゃんが声を上げる。 かく言う私も、同じ気分である。


「ただのお返しならホワイトデーにクッキー渡してはいお終いで済む話でしょ? デートでお返しなんてのは、一定以上の感情があるからに決まってんじゃないのよ」

「うぅ……でもぉ」

「でもも何もない! さっさと関係進めちゃいなさい!」


 奈々ちゃんはかなりヒートアップしているようだ。 以前から個人的に相談に乗ったりしていたらしいし、やっぱり早く上手くいって欲しいのかな?


「他人事だと思ってさー……」

「他人事じゃないわよー」


 遥ちゃんの言葉にそう返す紗希ちゃん。


「あんた、彼氏欲しいってずっと言ってたじゃん。 なのにせっかく良い人がいるのに、全然前に進む気配ないし……私達はこれでも、友達として応援してんのよー?」

「そうよ。 別に面白がってるわけじゃないんだから」

「う……ごめん……」


 遥ちゃん……。


「来月、頑張んなさいよ? 私達はあんたの味方だから、どうなっても応援するわよ」


 奈央ちゃんの言葉を聞いて、遥ちゃんも覚悟を決めたようで「わかった……」と小さく頷いた。

 進展すると良いね、遥ちゃん。



 ◆◇◆◇◆◇



 緑風から出て、反対方向の遥ちゃん達と別れる私達。


「奈々ちゃんの苦労も報われると良いねぇ?」

「まあ、苦労って程のものじゃないわよ? あの子の相談って『彼氏欲しい、どうすれば出来る?』みたいなもんだったし……」

「あはは……遥ちゃん……」

「でもでも、かなり脈ありだよねっ?」

「聞く限りではだけどね。 実際、天然でそういうことしちゃう男もいるから、何とも言えないわよ」

「あー……夕也くんがそうだ……」

「そうだねぇ……すぐ女の子を勘違いさせるもんねぇ」

「そういうタイプじゃない事を祈るしかないわね」


 まだまだ、遥ちゃんの恋はどうなるかわからなさそうである。

 でも上手くいったら年上の彼氏さんかぁ。

 大学生になるかもしれないんだね。 ちょっと素敵だよ。


「ふふふ、1ヶ月かけて遥を女らしく改造してやるわよ……」


 奈々ちゃんは、何か怖い顔をしてそんな事を言い出した。

 やっぱりちょっとは面白がってるんじゃなかろうか?

 でも、私もちょっと遥ちゃん改造計画に参加してみたいなぁ……素材は良いし、今も一時期に比べれば女子っぽくなってるし、もう一息だと思うんだよね。

 あ、楽しくなってきた……。


 帰り道では、3人で遥ちゃんの改造計画を練るのであった。

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