第337話 バレンタインパーティー

 ☆希望視点☆


 今日はバレンタイン。 日曜日という事もあり、友人の皆は直接夕也くんの家までチョコレートを持ってきた。 奈央ちゃん、紗希ちゃん、遥ちゃんの3人は用事があるという事らしいので、渡すだけ渡して帰ってしまったけど、奈々美ちゃん、麻美ちゃん、渚ちゃんの3人は家に上がってチョコレートパーティーを始めた。

 皆で交換した友チョコをわいわい話しながら食べるだけのことである。


「せっかく皆いるし、ねぇ希望ちゃん」

「うん」


 この場で夕也くんにロールケーキを渡して、皆で分けて食べようという事なのだろう。

 私もそれには賛成である。

 私達は立ち上がり、ロールケーキを持ってリビングへ持ってくる。


「せーの……」

「はいこれ!」


 亜美ちゃんと同時に声を出して夕也くんに、ロールケーキを渡す。 夕也くんは「おう、サンキュー!」と言って受け取ると早速開ける。


「おお、ロールケーキだな」

「へぇ、手が込んでるわね。 2人で作ったの?」


 奈々美ちゃんがロールケーキを眺めながら訊いてきたので、頷いておく。

 麻美ちゃんは目をキラキラさせながら涎を垂らしている。 お、女の子なのに……。


「麻美、汚いで……」

「おいしそー……じゅる」

「ははは、俺1人じゃ食い切れないから分けて皆で食おうぜ」

「やったー!」


 麻美ちゃんは喜んで手を上げる。 なんというか自分に正直な女の子だ。

 それが麻美ちゃんの良い所であり、強みでもある。 彼女に本気で夕也くん争奪戦に参加されていたら、私も亜美ちゃんも危うかったところである。

 隣では、亜美ちゃんがロールケーキを切り分けている。

 亜美ちゃん型切り分けマシーンは、寸分の狂いもなく等分している。


「……あんたさ」

「人間だからね?」

「……」


 奈々ちゃんが何かを言う前に、先に口を封じる亜美ちゃん。 さすが17年一緒の幼馴染。


「よっしゃ、じゃあ食うかー」


 宏太くんが真っ先に頬張り始める。 食いしん坊だなぁ。


「うめー! しっとりとした生地にココアの風味が効いていて、甘いチョコレートクリームと合わさり、絶妙なハーモニーを」

「たしかに美味しいわね」

「はむはむ」


 皆からも絶賛。 うん、美味しい。


「そうそう。 さっきの渚の告白の返事はどうすんのよ夕也?」

「うぇぇ。 先輩ちゃいますからね?」

「ん、あぁ。そうか」

「大体、先輩には清水先輩がおるんですから……」

「関係ないけどなー」


 麻美ちゃんはお構いなしだもんね。 この間は夕也くんとデートしたらしいし、ゲームの中で結婚もしたとか。 凄く前向きだよ。

 でも渚ちゃん、本当にいいのかなぁ? そんなこと言っちゃうと「好き」だって言いづらくなっちゃうよ。 それとも本当に言わないつもりなんだろうか?

 渚ちゃんは顔を赤くして、無言でロールケーキをパクパクと食べていた。


「渚も夕也兄ぃとデートすればいいのにー」

「けほっ……話聞いとったか麻美?!」

「まあ聞いてたけどさー……それで満足ならいいんだけど」

「ま、満足とか不満とか……」

「あ、麻美ちゃん、それぐらいにしときなよー」


 亜美ちゃんも流れが悪いと感じたのか、話を切りに行く。 


「……はーい」

「……」


 せっかく楽しくやってるんだし、雰囲気悪くするのは良くないもんね。


「ところで亜美姉、あれから連絡あったー?」

「あー、ううん、まだだねぇ」

「連絡?」


 私もよく知らないけど、完成した小説を賞に応募したらしい。 まだ受賞者発表されてはいないみたいだ。

 亜美ちゃんも麻美ちゃんも、小説を書いているという事を私達と両親にはカミングアウトしてくれている。 どっちも結構長い間隠していたらしい。 私も2冊ほど麻美ちゃんの小説を持っていたらしい。

 びっくりだよ。


「亜美ちゃんのが受賞したら、書籍化されるの?」

「うん。 そうだね」

「へぇ、読みたいし受賞しないかしらね」

「お、音羽奏の新作はぜひ読みたいですね」


 そりゃそうだよね。 あの伝説にして幻の小説作家が復活するかもしれないのだから。


「プロになるのか?」

「まだなんとも……」

 佐々木くんがチョコを食べながら訊いている。 プロかぁ、やっぱり亜美ちゃんは凄い。 麻美ちゃんに至ってはすでにプロとして活動しているのだ。


「でも聞いた時は驚いたもんよ。 麻美がプロの小説家だなんて、上手く隠してたもんよねぇ。 小遣いやたら持ってると思ったわ」

「あはは、アサミっていえばそこそこ売れっ子だもんね」

「えっへん」


 麻美ちゃんは胸を反らして威張る。 でも実際偉い。 私より年下なのに、もう自分の道を歩いているんだから。

 私も頑張らないと。 その為にはまず、しっかり勉強して、来年は志望の大学へ受からなければ。


「私はどうしようかしらねぇ……やっぱ近場の大学行くぐらいしか頭に無いわ」

「奈々ちゃんは良いじゃん? 永久就職先があるんだし……ねぇ、宏ちゃん?」

「んあ? なんで俺に振る?」


 宏太くんは、本気でわからないというような感じだ。

 もしかしてまだ、奈々美ちゃんとの将来とか考えてないんだろうか?


「奈々ちゃんと結婚しないの?」

「奈々美と結婚? ははは! さすがにまだ考えてないぞ? 何がどうなるかわからないだろ? この先」

「えー! お姉ちゃんをお嫁さんにもらってくれないのー?」

「だから、それも含めてまだ何も言えないっての」


 宏太くん、何だかちょっとがっかりだよぅ。

 男らしく「おう! 貰ってやる!」って言えないのかなぁ。


「藍沢先輩はええんですか? あんなこと言われてますけど?」

「別に良いわよ。 事実、宏太の言う通り何がどうなるかなんてわからないもの」

「えぇ……」


 亜美ちゃんも、さすがにちょっと困ったような顔をして2人を見ている。

 ちょっと雰囲気が暗くなったところで、宏太くんが言った。


「良いかー? 好きだからって、簡単に嫁に貰ってやるとか、幸せにしてやるなんて言うもんじゃないだろ? まだ高校生だぜ? 自分の将来だってまだ見えてないのにだ、他人の将来を俺に任せろなんて言えないだろ」

「こ、宏ちゃん」

「うわ、かっこいいー!」

「宏太くん、ちゃんと考えてるんだね」

「お前にしてはやるな!」

「当たり前だろ……だからな、自信を持って幸せにしてやれるって思えた時はだな……ちゃんともらいに来てやるから待ってろ」

「……」


 奈々美ちゃんは、口をパクパクさせて宏太くんを見つめている。

 これは、プロポーズだよぅ!


「ま、ま……待っててやるけど、早くしなさいよね」


 と、ちょっと照れながら返すのが精一杯の奈々美ちゃん。

 夕也くんはどうなんだろう? 将来どうするか考えたりしているんだろうか?

 亜美ちゃんとの事とか……。


「ん? どうした希望?」

「はぅっ、なんでもないよ」


 聞きたいような聞きたくないような……割と複な心境なのである。

 ここは話を別の人に振ろう。


「渚ちゃんはもう、将来どうするかとか考えてるの?」

「私ですか? 具体的にはまだ何も……お姉ちゃんはVリーグを検討してるって言うてましたけど、私もそこを目標にしつつ大学進学も視野に入れようかなぁ程度ですかね?」

「へー、弥生はバレー続けるのね。 私も考えてみようかしらVリーグ」


 と、奈々美ちゃん。 私達の仲間から、将来活躍する選手が出たら嬉しいね。


「そや……再来年にはワールドカップバレーあるやないですか? 先輩方は代表に選ばれる可能性あるんちゃいます?」

「どうだろ? 大学ではバレーやらないつもりなんだけどねぇ」


 と、亜美ちゃん。 私も大学ではやらないつもりでいる。 だから、声が掛かるかは微妙なんだけど……。


「でも、万が一呼ばれた時は、代表のユニフォームを着るつもりでいるよ」

「あ、亜美ちゃんがやるなら私も……私が選ばれるか知らないけど」

「おー! だったら、練習はしておかなきゃねー! 暇な時は月学の練習に顔出しなよー!」


 麻美ちゃんがそう言う。

 いざ呼ばれた時に、ブランクでまともに動けないなんて事になると困るしね。


「そうだね。 考えておくよ」


 亜美ちゃんも、前向きな考えのようだ。

 私達は広げたチョコを平らげて、解散。

 有意義なトークタイムを過ごせて良かったよぅ。

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