第331話 ずっと大好き
☆麻美視点☆
ちゅんちゅん……
「ん…んー? 朝?」
カーテンの隙間から漏れる光が、朝であることを告げている。
暖房の切れた部屋の中は少し寒くて、まだ少し布団の中にいたい気分である。
「……」
チラッと隣に視線を向けると、夕也兄ぃの顔が目の前にあった。
昨晩、私はついに夕也兄ぃと……。
「……ヤっちゃったー!」
「どわっ?!」
つい大きな声を出してしまい、それに驚いた夕也兄ぃは跳び起きてしまった。
「あ、おはよー夕也兄ぃ!」
「……おはよう。 上の服着なさい」
私は言われてから自分の体を見てみる。
うは、色々丸出しだこれー!
「あ、あっち向いててー!」
明るい場所で見られるのはNGだー。 私は大慌てで服を着る。
やっぱ恥ずかしいーっ。 昨日は暗い中だったから大丈夫だったけど……。
「えへー……」
「もういいかー?」
ずっと向こうを向いている夕也兄ぃがそう訊いてくる。
私は「いいよー」と返事をした。
「ふぅ……約束だぞ。 誰にも言わないって」
「もちろんだよー。 これは私と夕也兄ぃだけの秘密」
誰にも口外しないという条件付きで、私のお願いを聞いてくれたのだ。 夕也兄ぃの事を裏切ることはできない。 そもそも、最初から誰にも言うつもりなんてなかったんだけどねー。
「夕也兄ぃってさ。 結構誰とでもするのー?」
「ぬぁ……」
「亜美姉と希望姉はまあ、わかるよね。 でも、うちのお姉ちゃんと私ともしちゃって……お? おお? 幼馴染フルコンプ?」
「……はっ、たしかに」
夕也兄ぃは偉業を成し遂げていた。 私は「おめでとー」と言いながら拍手で祝福してあげるも、夕也兄ぃは「いや、めでたいのかこれ?」と少し困惑気味に返すであった。
「とにかく……我儘を聞いてくれてありがとうございました!」
無理な我儘を聞いてくれた夕也兄ぃに、深々と頭を下げてお礼を言う。
「……これで最後だぞ?」
「わかってる。 一生の思い出にするよー」
これで私も満足である。 夕也兄ぃのお嫁さんの夢はこれで諦めがつくというものだ。
ハナっから勝ち目のない出来レースだったけど、私は今、それなりに満足している。 私は昨晩の事を一生の思い出として胸に秘め、1人で生きていける。 と思う。
もちろんチャンスがやってきたらその時は遠慮しないけど。
「……ごめんな。 麻美ちゃんだって、俺の事ずっと好きだったんだよな?」
「違うよ」
「え、違うのか?!」
「うん。 好き『だった』じゃないよー。 これからもずっとずっと、夕也兄ぃの事が大好きなんだもん」
夕也夕也兄ぃを好きでい続けることを諦めたわけではない。
希望姉もそうであるように、私もずっと、夕也兄ぃを好きでいたい。
「……幸せ逃すぞー?」
「大丈夫! 私の幸せは、そこにあるんだよー!」
◆◇◆◇◆◇
私達は、1階に下りてきて朝ご飯を囲む。 まるで夫婦みたいだー。
「んぐんぐ……亜美姉と希望姉は何時ぐらいに帰ってくるのー?」
「昨日の話だと、夕飯も外で食べて帰って来るって話だったな」
「じゃあちょっと遅くなるんだねー……といっても、私もお昼には帰らなくちゃ怒られるけど」
「気にすんな。 コンビニ弁当でも何でも食ってるよ」
夕也兄ぃは笑いながらそう言った。 本当は家に呼んで一緒に食べようって言いたいけど、私が夕也兄ぃの家に泊まったことがバレかねないのでそれはちょっと出来ない。
「そうだ! お昼にカレー作っておいてあげるよー!」
我ながら名案である。 昨日見た時、たしかカレールーがあったはず。
昨日買ってきた具材がもまだ残ってるし、1人前2食分ぐらいなら作れそうだ。
「そこまでしなくても」
「任せてよー! ちゃちゃーっと作っちゃうからー」
「お、おう」
有無を言わせずに私はキッチンに立ち、早速カレーを作り始める。 夕也兄ぃも何か手伝おうかと聞いてきたが、夕也兄ぃの不器用さがどんなものかを重々承知している私は、丁重にお断りした。
「そだー。 昨日のゲームでもして時間潰してなよー」
「……んー、そうだなー。 ちょっとやってみるか」
そう言うと、夕也兄ぃはゆっくりと自室へと戻っていった。
昨日の肉じゃがにはミンチ肉を使用したので、ミンチカレーだねー。
そうこうしてる間にカレーは完成。 これなら夕飯にも食べられるしばっちり。
夕也兄ぃの部屋に向かい、ドアをノックする。
「おう」
「カレーできたよ。 もうそろそろ時間だし、私は帰っちゃうけど……」
「そっか。 楽しかったか? デートとお泊りは」
「うんっ! 最っ高に楽しかった!」
「そりゃ良かった」
夕也兄ぃは笑顔でそう言ってくれた。
「カレーはお鍋に入ってるから、お昼と夕飯にどうぞー」
「サンキュー。 助かる」
と、話しながら部屋の中を覗くと、どうやらゲームをやっているようだ……。
ピコーン!
私の中で閃きの電球が点灯した。
「帰ったら私もゲームやるからさ、一緒に遊ぼうよー! 今度はゲーム内デート!」
「そうか。 オンラインゲームだもんなー。 わからないこと多いし、ちょっと頼むわ」
「やった! じゃあ、またあとでゲームでね!」
「あぁ」
私は帰り支度をして、走って家へと戻るのであった。
「ただいまー!」
「あー、おかえり麻美。 まさか本当に泊まって来るなんてねー」
「にししー。 参ったかー」
「参った参った。 よくまぁお相手さんもOKしたもんね」
「頑張って泣き落としたからねー」
私はお昼ご飯を適当なカップラーメンにして、それを持って部屋に戻りパソコンを起動する。
たしか夕也兄ぃのキャラクターは……。
「おー、いたいたー!」
早速夕也兄ぃのキャラに近付き声をを掛ける。
「こんにちは! 私だよー! っと」
すると夕也兄ぃは挨拶を返してきてくれたので、私はフレンド申請を送っておく。
すぐに承諾されて、晴れて夕也兄ぃのフレンド第1号になった。
これが現実だったら、私が亜美姉みたいな立ち位置になれたんだけどなー。 今更言っても仕方ない事。
夕也兄ぃを手伝いながら、序盤のストーリーやクエストをこなしていく。 最初は慣れない操作に戸惑っていた感じの夕也兄ぃだけど、今はずいぶんマシになってきた。 亜美姉とパーティー組んで、早く3人で冒険したいな。
「……ん?」
フレンド欄の夕也兄ぃの名前にカーソルを合わせると気になる文字が……。
「結……婚……そっか。 このゲームには異性キャラ間での結婚が実装されてるんだった。 結婚したキャラ同志はお互いにバフが掛かってステータスが上がる他、マイハウスをも持つことが出来るんだっけ」
……結婚。 現実でできないならせめて。
「ねーねー」
「なんだー?」
「実は、このゲームには結婚システムってのがあってねー」
結婚システムについて説明していくと、夕也兄ぃは……。
「ふぅん。 結婚するだけで色々特典があるのか。 いいぞー」
なんかあっさりとOKしてくれた。 現実ではこうはならないんだけど、ゲームだとこうもあっさりなんだねー。 そこに愛があるわけではないとわかっているのだけど……。 それでも夕也兄ぃと結婚できるなら。
「じゃあ、申請するねー」
私は緊張してクリックすると、これまたすぐにOKされた。
これで、私と夕也兄ぃはゲーム内での夫婦となった。 これはこれでありだなーと思う。
後日談だけど、亜美姉に私と夕也兄ぃのキャラが結婚していることを知られて一騒動あったのは言うまでもない。
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