第328話 今井家へ

 ☆麻美視点☆


 メインイベントが終了して、ブース巡りを再開。

 次はゲームの体験コーナーへやって来た私と夕也兄ぃは、VRゲームの体験をしてみることにした。

 ゴーグルを装着してリモコンを持って……。


「おおー! 凄ーい! これがVR-!」


 眼前に広がるゲームの世界に感動する。 私がまるでゲームの世界に飛び込んだような感覚だ。

 手を振ると、画面の中の私も手を振る。 これは欲しいですよー。

 いずれはVRが主流になってくる可能性もあるだけにぃ。


「これは最高だねー! うーん、買っちゃいたいけどなー」


 今日は残念ながら手持ちが少ないのだ。 帰ったら通販で買っちゃおうそうしよう。

 やっぱり稼ぎがあるといいもんだねー。


「次はあっちいこー!」

「おう」


 次は夕也兄ぃも楽しめそうな場所である。

 そこへ到着すると、そこはゲームセンターで見かけるような大きな筐体が置いてある。 これも人気シリーズの試遊台で画面に流れる矢印に合わせて、足元にある4方向のボタンを足で踏んで踊るゲームである。


「夕也兄ぃ、これやってみてー」

「あー、これはゲーセンでたまにやるからわかるぞ」


 夕也兄ぃは試遊台に進んで、ゲームプレイを始めた。

 ゲームセンターでたまにやっているらしいだけあって様になっている。


「か、かっこいいなー夕也兄ぃはぁ……」


 ついつい見とれてしまう私なのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 ゲームショーを堪能した私達は、会場から出て近くの喫茶店でゆっくりと休憩してから帰ることにした。


「麻美ちゃん楽しかったか?」

「うんうん! もう満足満足!」


 いくつかゲームのグッズも買ってきたし。 色々な新作も試遊できたし最高だ。

 ただ、夕也兄ぃが楽しめたかどうかは気になる。


「夕也兄ぃはその……楽しかった?」

「ん? あぁ、楽しかったよ。 よくわからんかったけど、麻美ちゃんが楽しそうだったからな」

「ふぁー」


 また歯の浮くようなことを言うんだからこの人はー。


「はー……夕也兄ぃには困ったものだよ本当にー……」

「んん?」


 気付きもしてないんだねー……気にしたら負けだねこれは。 無視して話を変えましょー。


「夕也兄ぃ、今晩の夕飯はどうする予定?」

「んー? 帰ったらいい時間だしなー。 向こうで外食でもするか?」

「もしちょっと待てるなら、私が夕也兄ぃの家に作りに行こうかー?」

「んん? 良いのか? なら頼む」


 よーしよーし。 第一関門、夕也兄ぃの家に行くを突破したぞー。

 むふふー。 亜美姉も希望姉もいない夕也兄ぃの家……。 ちょっとは甘い雰囲気になっても良いのではなかろうか。


「何か顔がにやついてるぞ麻美ちゃん」

「うぇ?! そ、そうかなー?」


 いかんいかん、顔に出てたかー。 気を付けなければー。


「とにかく、楽しみにしててねー!。 上達した料理の腕を見せてあげるからね、夕也兄ぃ!」

「おう、楽しみにしてるぜ」


 さてー、何を作ろうかなー。 

 帰りにスーパー寄って、買い出しして……。 夕也兄ぃと2人で夕ご飯食べて、リビングでテレビなんかを2人で見て……甘い雰囲気になってそのまま……。


「……おーい」

「はっ!?」


 ついつい妄想が働いてしまう……作家の職業病なのかなー?。 それとも、もともと私には妄想癖があるのかなー?


「さて、そろそろ帰るかー」

「あ、うんー!」


 喫茶店での休憩も程々にして、店を出る私達。

 来た道をゆっくりと歩きながら、駅へと向かう。


「これってデートって言えるのかなー?」

「麻美ちゃんはどう思ってるんだ?」

「なんだか、私の趣味に夕也兄ぃを付き合わせただけみたいなー?」

「ははは! まあ、そうなんだろうけどな、実際」

「……やっぱそーなんだ」

「いやいや、悪い悪い。 さっきも言ったけど楽しかったし、ちゃんとデートだと思ってるよ」

「ゆ、夕也兄ぃ……」


 ぐぬぬー、優しい、優しすぎるよー。 もう女の敵だよー。

 こうやって女の子をすぐ勘違いさせてその気にさせちゃうんだよねー。 私は違うけど、希望姉がその代表格だ。

 私も未だに夕也兄ぃのこれにはドキッッとさせられる。 あー、好きなんだなーって思わされる。


「夕也兄ぃー……ずるいよー……」

「ん?」


 夕也兄ぃは「何が?」というような顔で私の事を見るけど、私は知らんぷりしてそっぽを向いてやった。



 ◆◇◆◇◆◇



 地元へと帰ってきた私と夕也兄ぃは、駅前のスーパーで夕食の材料の買い出しをする。

 今晩の夕食は肉じゃがにすることにした。 以前亜美姉に教えてもらった時に作った献立だ。

 あれからどれだけ上達したかを、夕也兄ぃ見せることが出来る。


「あ、麻美と今井先輩」

「げっ、渚」

「げっ、てなんやのん……」

「おっす。 渚ちゃんも買い出しか?」

「あ、はいそうです。 2人はどこか行ってたんですか?」

「デートだよーデート!」

「そういえば前言うとったな。 なるほどなるほど。 それで、何で買い物してるん?」

「夕也兄ぃの夕飯作ったげるのー」

「な、何やて?!」

「ふふーん。 んじゃそーゆーことでー」

「じゃあな、渚ちゃん」

「あ、うー……はいぃ」


 うふふー、なんだか勝ち誇った気分だねー。

 渚は未だに、夕也兄ぃに気持ちを伝えてないし、いつまでそのままでいる気なんだろうー?

 

「渚ちゃんも呼べば良かったか」


 私は転けそうになった。 夕也兄ぃはすぐこれだ。


「お邪魔虫はいりませんー」

「お邪魔虫って……」


 友達だけど、今晩に限って言えばお邪魔虫なのだ。

 私は1日、夕也兄ぃと2人でいたい。


「いいから! とにかく買い物して早く夕也兄ぃの家に行くよー!」

「お、おう」


 夕也兄ぃを引っ張って、買い物を手早く済ませてスーパーを後にした。

 知り合いに見つからないように周囲を警戒しながら、夕也兄ぃの家の前まで到着した。


 ミッションコンプリート!


「さっきから電柱やポストの影に隠れて何してんだ?」

「ふぇっ?! な、何でも無いよー! あははははは」


 ついゲームの癖でそんな動きをしていたみたいだ。


「ささ、入ろ入ろー!」

「お、おう」


 夕也兄ぃを促して、今井家に上がり込む私。

 早速キッチンを借りて調理を始める……前にー。


「あ、もしもしお母さん? 今日ちょっと友達の家にお泊まりする事になったんだけどー」


 お母さんに連絡を入れて、お泊まりする旨を伝える。 友達の家と言ったがこれはもちろん嘘。 夕也兄ぃの家に泊まるのだー。

 年末に、渚が泊まったと聞いた時は悔しかったからねー。


「うん、わかってるー! じゃあ、また明日ねー……。 よしっ! 第2関門、親の許可を得る突破!」


 これで後は夕也兄ぃを丸め込んで、ここに泊めてもらうだけだ。

 私はにやにやしながら、肉じゃがの調理を開始した。

 亜美姉に教わって作った時より、絶対美味しい自信あり。

 お母さんの手伝いもして、藍沢家の味付けもマスターしたし、夕也兄ぃ絶賛間違い無し。


「美味しいよ、麻美ちゃん」

「そ、そーかなー」

「お嫁さんにして毎日作って欲しいくらいだ」

「お、お嫁さん?! ダ、ダメだよ夕也兄ぃ! 亜美姉がいるじゃん!」

「今はいないよ」

「夕也兄ぃ……ダ、ダメェー」


 ……。


「はっ?! また妄想の世界に入ってしまった……」


 私は頭を振って現実に戻り、肉じゃがの調理を続けるのであった。

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