第326話 目指せ妹脱却

 ☆麻美視点☆


 明日、亜美姉と希望姉は清水家家族水入らずで旅行に出掛けるらしい。

 つまり、夕也兄ぃは1人ぼっちになるということ。 ここで以前からお願いしていた夕也兄ぃとのデートをぶっこもうという算段をしている。

 亜美姉には事前に許しももらっているし、夕也兄ぃも良いって言ってくれてる。

 なーのーでー。


「もしもし夕也兄ぃ」


 今晩の内に夕也兄ぃに連絡して、明日デートの約束を取り付けるのだ。 急すぎて明日はダメって言われるかもしんないけど一応。


「ねー、明日なんだけど、前々から言ってたデート……」

「あぁ、そういえば言ってたなー。 んじゃ明日行くか」

「おおー! うん! 明日行こー!」


 夕也兄ぃは快く承諾してくれたという事で、そのまま待ち合わせ場所や時間、行き先などを話して電話を切る。


「んー! 楽しみー!!」


 私はベッドに寝転んで、明日のデートの妄想に耽るのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 んでんで翌日ー。


「あら、麻美。 今日は早起きね?」

「うんー。 ちょっと予定がねー」


 いつもならまだ寝てる時間だけど起きてきた私に、お姉ちゃんが目を丸くして訊いてきた。


「ふぅん……おめかししちゃって、どこ行くのよ?」

「んー、デートー」

「……はぁ? デートする相手なんかいないでしょ」

「失礼なー! 私にだっているよー!」

「まぁ、良いけど」

「もーしかしたら、お泊りしてくるかもー?」

「……はぁぁ? そんなのお父さんとお母さんが怒るわよ?」

「そこはほら、友達の家にーとかさー」

「知らないわよー全く」


 お姉ちゃんは「好きにすればいいけど、私はフォローできないわよー」と言いながら冷蔵庫から牛乳を取り出しコップに注ぐ。


「ま、まあ、相手が泊めても良いって言ったらだけど」

「あーそうなの。 まあ、楽しんできたらいいじゃない」

「うん」


 お姉ちゃんは、牛乳を飲み干すと部屋に戻っていくのだった。


「よし! 準備OK! 行くかー!」


 待ち合わせ場所は駅前、時間は7時待ち合わせ。

 余裕を持って出かけることにした。



「はぁ、夕也ね、相手は……亜美も夕也も何考えてるんだか」



 ◆◇◆◇◆◇



 家から出てゆっくりと待ち合わせ場所の駅前と向かって歩き出す。 夢にまで見た夕也兄ぃとのデートである。 前からプランも作ってあるし、しっかり楽しむぞー。

 後悔は残したくないんだ。

 時間15分前に待ち合わせ場所に到着した私は、今か今かと待ち合わせ相手の到着を待つ。

 私は手鏡を見て、おめかしに問題が無いかを最終確認する。


「問題無し!」

「おーっす」


 手鏡を片付けると同時に、夕也兄ぃがやってきて右手を上げている。

 ついに始まるー。


「お、おはよー夕也兄ぃ!」

「お、おう、おはよー」


 夕也兄ぃと挨拶を交わして、いざデートを開始する為に駅へ移動する。



「あれは麻美と……今井先輩? な、なんやなんや……そういえばデートするとかなんとか言うとったか?」



 夕也兄ぃと電車に乗り込み、少しお話をする。

 夕也兄ぃはどこへ行くのか知らないので、まずそれを訊いてくる。 当然っちゃ当然だね。


「実はね、今日ゲームショーのイベントを東京でやるんだよー」

「ゲームショー?」

「うんうん。 タイミング良くてラッキーだね」

「麻美ちゃんらしいなぁ。 そうか東京か、通りで朝早いわけだ」

「そうそうー。 夕也兄ぃはゲームとかよくわかんないよね……何かごめんね、私だけ楽しめるとこで」

「別に構わないよ。 俺は俺で楽しむさ」

「これを機に夕也兄ぃもゲーム始めれば良いんだよー!」

「ははは、亜美みたいにか?」


 亜美姉は私が勧めたゲームを時々やってくれている。 私と一緒に冒険したりするのは楽しいって言ってくれるし、勧めた甲斐があるというものである。


「そうそうー」

「ははは、考えとくよ」


 夕也兄ぃは笑いながら私の頭をポンポンと叩いてそう言った。

 こういう子ども扱い、妹扱いが抜けきらない。 夏に妹扱いするのはやめてってお願いしたのになー。


「ぶー」

「な、何だ?」

「何でもなーい!」


 私は不満そうな顔をしてそっぽを向いて不機嫌アピールする。 夕也兄ぃは困ったようなな顔をしながら「わ、わかった! ゲーム始めるって!」と見当違いな解釈をしてしまったけど、これはこれで結果オーライだ。


「本当に?」

「あ、あぁ」


 私は機嫌を直した振りをして振り返り、言質を取った。 これでゲーム仲間もう1人げっとだぜ。

 ただ、これじゃあ妹扱いが変化しないのはちょっと困る。 今日中に何とか妹脱却を目指さないとね。

 まぁ、妹脱却してもその先は無いんだけど、やっぱり好きな人からは「異性」として見てもらいたいからね。


「東京まではまだ長いな。 昼とかどうするんだ?」

「もち、向こうで食べるよー。 ちゃんと周辺の調査は済んでるから安心してー」

「じゃあ、今日のデート麻美ちゃんに全部任せるかー」

「どんど任せたまえー!」


 胸をポンと叩いて応える。 今日のデートプランは完璧である。  全部私に任せてほしいのである。


「期待してるぞ、麻美ちゃん」


 やっぱり頭をポンポンと叩いて、子供扱いにされるのだった。

 何だか悲しいよ、私は。



 ◆◇◆◇◆◇



 電車を乗り継ぎ東京へ到着した私と夕也兄ぃは、イベントが行われる会場にほど近いレストランで早めの昼食を取ることにした。


「隣のあれがイベント会場か」

「うん、そだよー」

「何時から始まるんだ?」

「11時開場だよー」

「あと40分ぐらいか」

「うん。 楽しみー。 超人気シリーズの新作の新情報とかもあるみたいだし、今からワクワクするー」

「本当に好きだなー、麻美ちゃんは。 やっぱり将来はゲームに関係した職業に就きたいのか?」


 夕也兄ぃはお昼の定食を口に運びながら訊いてきた。 将来かぁ……。 夕也兄ぃにももう話しちゃっていいかなー? 亜美姉も夕也兄ぃには話したらしいし。


「んーと。 将来やることは決めてるっていうか、もうその道を歩いてるんだよねー」

「んん? もう歩いてるって?」

「私ねー、小説家なんだよこれでもー」

「……またまた冗談を」

「本当だもんー! 顔とかは隠してるから、あんまり大きな声では言えないけど、アサミっていうペンネームでもう3冊出してるよー」

「……マジか?」

「マジマジ」


 夕也兄ぃは信じてくれたようで「そうか、すげぇな。 もうプロとして活動してるなんて」と感心していた。


「亜美も小説書いてるらしいぞ」

「うんー、知ってるー。 音羽奏でしょ? 私ファンなんだー」

「なんだ、知ってたのか」

「むしろ、ずっと私しか知らなかったんだからねー」

「そ、そうなのか」


 2人で食事をとりながら、その辺の話で盛り上がった。 夕也兄ぃはまだ、将来何をやりたいのかとかで悩んでいるらしい。

 私の事を子供扱いする割には、まだまだだねー。 私の方が社会の先輩だし、子供扱い妹扱いはやめてほしい物だねー。


「本当に凄いな、麻美ちゃんも皆も」

「ふふんー! そーでしょー! あ、でもお姉ちゃんも別に決めてないって言ってたよ? 宏太兄ぃは大学行かないで働くって言ってたけど」

「そうなのか?」

「うんー。 早くお姉ちゃんを養えるようにならないとだめだからねー。 むふふー」

「ははは、なるほどな」

「まあ、実際はどうか知らないけどねー」


 多分勉強するのが嫌なだけなんじゃないだろうか。


「夕也兄ぃ、私と結婚したら私が稼ぐよー!」

「プロの小説家だもんな。 楽できそうだ」


「ははは」と笑いながらそう言い、まるで真剣に相手されなかったので少し機嫌が悪くなる私なのであった。



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