第325話 高校4冠
☆亜美視点☆
試合はさらに少し進んで現在、3セット目23-20。 もう最終盤まで来ている。
このリードのまま、あと2点取れれば春高連覇、高校4冠が達成できる。
サーブはまた私に回ってきている。 ミスをしないようにだけ注意してフローターサーブを打つよ。
「ナイスー」
打ったサーブは簡単に拾われるも、ここはもうブレイクさえされなければ問題ない状況。 これでいい。
弥生ちゃんもキャミィさんも助走はまだ。 どっちもオープン攻撃に構えている。
うちのブロッカーも、トスは上がるまでは動く気配はない。 リードブロックで3枚つけるつもりだね。
オープン攻撃は基本、サーブでレセプションが崩れた時なんかに、アタッカーなどのポジション移動する猶予を作るために高いトスを上げる時に使ったりするもの。
高くトスが上がる性質上、どこからスパイクが飛んでくるかわかりやすく、ブロックにつかれやすいという欠点がある。 なので、よっぽど自分の実力に自信が無いと、オープン攻撃はあまりやりたくないのだけど。
「弥生!」
弥生ちゃんの方に高いトスが上がり、うちの前衛3人も弥生ちゃんのブロックについた。
「何枚でもぶち抜いたるわ!」
「せーの!」
遥ちゃんがブロックのタイミングを取って、3人が同時にジャンプ。
「おりゃ!」
パァン! 弥生ちゃんは自慢のパワースパイクで下に叩きつけるのではなく、平行なスパイクを打つ。
ブロッカーの手の平に当てて、ブロックアウトを狙ったプレーだ。
ボールは弥生ちゃんの狙い通り、紗希ちゃんの手に当たって尚高く浮き上がり、コートの外へと飛んでいく。 希望ちゃんが追いかけるも届かず、ブロックアウトにされてしまった。
「ごめーん」
「あの3枚を抜かれちゃあ仕方ないよ。 切り替えてこ~」
実際、紗希ちゃん、遥ちゃん、渚ちゃんのブロックはそれなりに高い。 その3枚を抜いてくるんだからとんでもない選手である。
その弥生ちゃんがローテーションで後ろに移動し、サーブを打ってくる。
弥生ちゃんのパワーサーブは、もの凄いインパクト音をさせてこちらコートへ飛んでくる。 ここに来てもパワーは衰えず。
本当に凄いよ全く……。
「はぅ!」
そして、そんなサーブをいとも簡単にレセプションしてしまう希望ちゃんもまた凄い。
私は今回もバックアタック。 終盤は私をメインで使うと、奈央ちゃんがそう言った。
スタミナも足の踏ん張りもまだまだ余裕があるし、このセットで決める気で全力で跳ぶよ。
「亜美ちゃん!」
ここでもトスは私へ。 奈央ちゃんはその時その時調子が良さそうな選手へトスを上げる特徴がある。
勝負より試合を重視する事が多いけど、たまにアタッカーの気持ちやテンションを考慮して、個人的な勝負をサポートするようなトスを上げたりもする。 昨日の奈々ちゃんへのトスがそれだ。
今日は試合に徹したプレーだね。 それとももしかして、私と弥生ちゃんの勝負のサポートに回ってるのかな?
「どちらにしても……」
私は助走から全力でジャンプする。
「奈央ちゃんのトスに応えるだけ!」
高い打点からバックアタックを打つ。
「ワオ?!」
「たぁっ!」
パァンッ!
キャミィさんのブロックは高いけど、それでもその上から叩きつける。
ピッ!
「オケー!!」
「良いわよ亜美ちゃん!」
「いえーい」
マッチポイント。 ローテーションして遥ちゃんのサーブ。 ここで希望ちゃんが下がり、麻美ちゃんも入ってくる。
「遥ちゃん! ラストプレーにしよー!」
「おうー!」
トントンッとボールを突きながら助走に入り、ボールを上に上げる。 大きく跳び上がり腕を振って強烈なサーブを放った。
「眞鍋先輩!」
「わかっとるっ!」
そのサーブで決めさせまいと、眞鍋先輩が必死になって拾う。 まだ終わらせないぞと言う強い意志が伝わってくる。
なんとか上がったボールを、後衛に下がっている弥生ちゃんがアタックラインの後ろからトスを上げる、バックトスの先にはクイックに跳んでいたキャミィさんが。
「ブロック間に合わない!」
「ハイ!」
スパァン!
誰も反応出来ずに、ボールを目で追う事しかできない。 クイックでこの威力……キャミィさんのパワーも底なしである。
「切り替えて切り替えてー! あと1点だよー」
「ここで決めるわよー!」
「おー!」
そうだ、あと1点。
「さー来い!」
ここでキャミィさんのサーブ。 強力なのが来るよ……。
「ホイッ!」
しかし打ってきたのはフローターサーブ。 ミスをしないことを優先しつつ、こちらのミスを誘うようなサーブだ。
「私に任せて!」
私が声を出して拾う。
「ナイス亜美ちゃん」
そのまま私はバックアタックの為にポジションをライト後方に移動する。
その間、麻美ちゃんはセンターでAクイック、渚ちゃんと紗希ちゃんはセミクイック攻撃。
これは相手ブロックも戸惑うね。
「亜美ちゃん!! 決めてっ!」
「お任せだよっ!」
助走して全力ジャンプ。 今日1日分の踏み込みで今日最大のジャンプをする。
「……ありえんやろほんま」
私のジャンプの高さに、ブロックに跳んだ相手選手が漏らす。
私は、コートの隅に狙いをつけてストレートに打ち込む。
「終わりっ!!」
◆◇◆◇◆◇
試合は終わり、コートの中央で立華の皆と握手を交わす。
「今回は完敗や」
「流れがこっちに向いたんだよ」
弥生ちゃんと言葉を交わして、次の眞鍋先輩と握手を交わす。
「眞鍋先輩お疲れ様でした。 進路は決まってらっしゃるんですか?」
「うちはVリーグ入りが決まってるんよ」
「そうですか。 頑張ってください」
そっか、実業団行きが決まってるんだね。
これからもバレーボールの世界で生きていく眞鍋先輩に対しエールを送りつつ、コートを出るのだった。
コートから出てベンチまで来ると、雑誌社の人などがやってきて囲まれてしまう。
たっぷりとインタビューや写真撮影されたあとでようやく解放された。
ロッカールームへ戻ってきた私達は、試合の疲れよりその後のインタビューなどで疲れてしまった私達。
「まだこの後、閉会式があんのよねー……」
「あはは、もうちょっと頑張ろうね奈々ちゃん」
◆◇◆◇◆◇
閉会式を終えた私達は、ホテルへ戻ってきてぐったり。
それでも夕ちゃんへの連絡は欠かさないよぉ。
「もしもーし、夕ちゃんー」
「おー。 決勝どうだったよー?」
「勝ったよぉ。 春高連覇で高校大会4冠だよぉ」
「すげぇなぁ、相変わらず」
「凄いのは私だけじゃないよ。 皆凄かったもん。 特に奈々ちゃんと紗希ちゃんのWエースがすごく頑張ってくれた」
「そうか。 明日帰ってくんだろ? 気を付けて帰って来いよ?」
「うん。 じゃあ、明日家でね」
「おう。 お疲れさん」
「ばいばーい」
電話も程々にして切る。
「本当に仲良いわよねぇあんた達は」
「奈々ちゃんのとこもでしょー」
ルームメイトの奈々ちゃんはベッドに寝転びながら話しかけてくる。 昨日に続き、今日も2セット目は大暴れしてもらったし、結構疲れているはずである。
「奈々ちゃんもお疲れだよぉ。 マッサージしたげよっかー?」
「あんたのマッサージは痛いだけなのよー」
「あははーかくごー」
「やーめーなーさーいー」
嫌がる奈々ちゃんに構わずに、勝手にマッサージを強行するのであった。
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