第324話 亜美のターン

 ☆亜美視点☆


「っ!」


 ピッ!


「おっけ!」


 ここで第3セット2回目のテクニカルタイムアウト。

 得点は16-14で2点リードで終盤へ。


「皆、もうちょっとだから頑張ってね! このリードのままあと9点取って、3セット目で終わらせよう!」

「OK!」

「がんばろー!」


 皆まだまだ元気だ。 流れも試合開始から常に私達が握っている。 ここまで来たら後は、この流れを切らないように注意して試合を組み立てるだけだ。

 その組み立ても、司令塔でセッターの奈央ちゃんにお任せだ。


「亜美ちゃん。 まだ足の方はいけそう?」

「うん。 いけるよ」

「なら、ここからは亜美ちゃんに集めますわね。 頼むわよ、世界一のOH」


 奈央ちゃんは私で点を取る方向で考えているようだ。


「あはは、うん任せて。 一気に決めよう」


 さて、これを最後のテクニカルタイムアウトにする為に……。


「行くよ皆!」

「勝つわよ!」

「当然!!」


 皆気合十分でコートへ戻る。

 しかし、気合十分なのは私達月ノ木サイドだけではないようだ。


「このまま終わるわけにはいかへんで! うちらは誰や!」

「絶対女王、京都立華!」

「同じ相手に、もう何回負けとるんや! 今日は勝つで!」

「おう!!」


 立華サイドからキャプテン眞鍋さんの檄が聞こえてくる。 凄い気合いだ……。


「気が抜けないわね、これは」

「うん」


 私達に遅れて立華サイドもコートに入ってくる。

 選手1人1人の顔つきが、まだやるぞという闘志に満ち溢れている。

 ここで気圧されて流れを持っていかれたら、ここからでもひっくり返されかねない。 やっぱりここで決めてしまわないといけない。


「亜美、きっちり良いサーブお願いね」

「もちろん」


 よーし、私のジャンピングドライブサーブでいくよ。 力一杯腕を振って。


「っ!」


 パァンッ!


 あえて狙いを付けずに、パワーを重視したサーブで成り行きに任せる。

 ボールは後衛のOH真尋さんが拾う。 奈々ちゃんや遥ちゃんのようなパワーが無いので、あっさり拾われてしまう私のサーブ。


「皆集中!」


 返ってくるボールに集中する。 眞鍋先輩がセットに入る。

 む、キャミィさんが下がってオープン攻撃準備に入っていて、弥生ちゃんがセミクイック。 後衛の真尋さんがバックアタックだ。

 後衛の私はライトを、リベロの希望ちゃんはセンターを守る。

 弥生ちゃんのストレートは無警戒になるけどそればかりは仕方ない。

 弥生ちゃんにブロック2枚がついていく。

 しかしここはキャミィさんにトスが上がる。


「くるよ!」


 ブロック1枚、奈々ちゃんがついてる。 キャミィさんにトスが上がったのを見て、希望ちゃんが少しレフト側へ守備位置を移動した。 クロス警戒だね。


「ハイッ!」


 高い身長を活かした高い打点から、超強力なスパイクが放たれる。

 クロスに打ち込まれたスパイクは希望ちゃんの正面。


「はぅっ!」


 希望ちゃんはあまりのスパイクの勢いに、体を後ろに少し吹っ飛びながらボールを上げる。

 威力に完全に負けたディグで、ボールが高く高く上がる。 しかしそれでも奈央ちゃんが上げやすい場所にボールを上げている。

 私はバックアタックの準備をするよ。


「はい!」


 私の前方にトスが上がる。 私の少し左側の位置でCクイックに跳んでいる遥ちゃんに釣られてブロックが跳んでいる。 その少し後からテンポをずらして高く前方に跳び上がり、時間差のバックアタックを打つ。


「てやあっ!」。

「くっ! 時間差かいな?!」


 弥生ちゃんの手の上を抜いてバックアタックを決める。


「バケモンめ……」

「人間だよ」


 弥生ちゃんと視線を交わして、サーブ位置へ戻る。ここでブレイクしたのは大きい。

 

「もう1本とるよ!」


 ここはキャプテンとして大きな声を出して、チームを鼓舞する。

 次もコントロールは考えずに、パワーを重視したサーブを打ち込んでいく。 やっぱり威力はあまり出ない私のサーブ。 これは私の弱点と言えるのかもしれない。


「はい!」

「弥生!」

「らぁ!」


 ここは綺麗に決められてしまうも、1ブレイク伸ばせたので合格点。

 17-15、あと8点。


「さぁ! あと8点よ! 気を抜かないで!」


 奈央ちゃんも声を出しくれていて、チームの皆も「おー!」と返事をして、集中力を高めている。

 今日はなんだか負ける気がしないよ。

 ここで立華は弥生ちゃんのサーブになる。 後衛に下がった弥生ちゃんだけど、バックアタックの威力も侮れないプレーヤーなので、油断はできない。

 そんな弥生ちゃんのパワーサーブが私に向かって飛んでくる。


「っと!」


 なんて威力のサーブなのよもう……。 私と同じぐらいの体格なのに、どうしてこうもパワーに差があるんだろうか。 奈々ちゃんや遥ちゃんみたいな人はまあわかるんだけど……。

 とはいってもなんとかレセプションには成功。 奈央ちゃんがセットアップしてすぐに遥ちゃんがAクイックの助走に入る。 私もテンポを遅らせて助走を開始する。


「あーみーちゃん!」

「はーい!」


 少し早めに跳んでいた私に対して、セミクイックのトスが上がる。 早めのバックアタックで打ち込む。 今回はブロックもついてこれていないので、好きに打ち放題。


「よっ!」


 パァン!


「ナイス亜美ちゃん!」

「いえーい」


 紗希ちゃんとハイタッチを交わしてローテーションする。 ここでサーブは3セット目からコートに入った渚ちゃん。 プレースタイルがお姉さんの弥生ちゃんや、うちの奈々ちゃんに似ている選手である。

 パワーも結構あるけど、空中での打ち分けが少し苦手ということでまだまだ発展途上。 夏にはエースになってもらわないといけないから、頑張ってほしい物である。


「渚ー。 強烈なのかましてやりなさーい」

「はいっ」


 渚ちゃんはジャンプサーブを打つ。 力みもなく、良いサーブが打てている。

 お姉さんの弥生ちゃんがサーブを拾っている。 上手いなー弥生ちゃんも。

 なんて言ったら「あんさんに言われても煽りにしか聞こえんわ」とか言われそうだけど。


「ほれキャミィ!」

「ホイ!」


 スパァン!


 とんでもないインパクト音をさせて、キャミィさんのスパイクが飛んでくる。 ディグを試みるも、全く止められずに後方に大きく飛んで行ってしまう。


「ひぇー……」

「ドンマイ亜美ちゃん。 あんなの打たれちゃ仕方ないわよんー」

「う、うん」


 キャミィさんのスパイクはやっぱりすごい威力だね。  奈々ちゃんクラスのパワースパイク。 打ち分けができないという弱点があるだけでマシだけど。 それでも脅威であることには変わりない。


「どんまいどんまい! まだリードしてるし、焦らずいくわよー! 楽しんでいきましょー!」


 紗希ちゃんも大きな声を出してくれている。 相変わらず私達のムードメーカである紗希ちゃん。


「ここ1本集中!」

「おー!」


 もう決勝戦第3セットも終盤。 このまま勝負を決めてしまいたいところだし、ブレイク

されることは絶対に避けなければない。

 京都立華のここからの底力も侮れないけど、このまま何とか抑え込みたいところだ。



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