第322話 流れ
☆亜美視点☆
第2セットも順調に進み、ブレイクも取ったり取られたり。
このセットは奈々ちゃんが大奮闘。 当初の予定の通り大暴れしてくれている。
京都立華といえど、全国で1、2を争うパワーを持つ奈々ちゃんのスパイクは容易には止められないようである。
「奈々ちゃんナイス!」
今もまた強烈なスパイクをばっちり決めてくれたところである。
奈々ちゃんと、今日何度目かのハイタッチを交わして、16点目のタイムアウトの為にベンチに戻る。
「ふぅ……16―13。 2セット目も順調順調」
「そうね」
「奈々美、まだスパイクは打てそう?」
「このセットの間は大丈夫そうね。 3セット目に入る時に替えてちょうだい」
「はーい」
「渚ー、ウォームアップしときなよー」
「わかっとる。 もうやっとるよ」
渚ちゃんはストレッチをしながら応える。 3セット目は渚ちゃんに頑張ってもらわないといけないからね。 次期エースとしてしっかりしてもらわないと。
「じゃあこのセットはこのまま奈々美をメインに使ってくわよ。 2セット目取れたら3セット目は同時連携も使って一気に攻め切るわよ」
「OK-! なんだか昨日の試合に比べると順調よねー?」
「たまたまだろー。 都姫も立華も強さ的には変わんないし。 やっぱ流れってのもあるんだろうさ」
遥ちゃんの言う通り、2校の実力には差はほとんどない。 流れがこちらに向いているに過ぎないのである。
だから、流れを持っていかれれば一気にひっくり返される危険がある。
私達は出来るだけ今の流れ維持していくことが大事。
「よし、行くよ! 2セット目も取って一気に流れに乗るよ!」
「おー!」
タイムアウトを終えてコートに戻る。
サーブは奈央ちゃんからの好配置。
「奈央ちゃん頼むよー」
「任せなさい」
奈央ちゃんは高くボールをトスして、ジャンプからのドライブサーブ──パワフルサーブを打ち込む。
凄い軌道で落ちるサーブを、眞鍋先輩が拾う。
セッターを崩したので、代わりのトスを上野さんがアタックライン外からのジャンプトスで上げる。
セミクイックに跳ぶ弥生ちゃんに対して、私と遥ちゃんでブロックに跳ぶ。
「はっ!」
パァン!
ブロックした手に当たり、ブロックアウトを取られた。
「むぅ……」
「簡単に止められてたまるかいな」
弥生ちゃんは手を振りながら背を向けてローテーションで後衛に下がっていく。
切り替えていこう。 ブレイクさえされなきゃ、このセットは取れるんだから。
「1本で切るよー」
「OK!」
さて、弥生ちゃんのサーブだ。 奈々ちゃんと同じくパワーに傾いたサーブ。
パァン!
弾丸のようなサーブが飛んでくる。 希望ちゃんの守備範囲の外……紗希ちゃんだ。
「うぉっとぉ!」
頑張ってなんとかレセプションをする紗希ちゃん。 威力を殺せなかったようで、かなり前方に飛んでしまうも、なんとかこっちのコート内で済みそうである。
奈央ちゃんが走ってセットアップする。
レフト側からのトス。 遥ちゃんがクイックに跳び、奈々ちゃんが高めのセミクイック。
私は一番遠くでオープン攻撃準備。
「奈々美いきなさい!」
「っし! ぁっ!」
ブロック1枚、キャミィさんが跳んでいる。
高いブロックだね……。
パァンッ!
キャミィさんを避けてクロスへスパイクする奈々ちゃん。
弥生ちゃんがディグを試みるも止められず、ボールはもの凄い勢いで観客席へと飛んでいく。
何だか、パワーがどんどん増していってるような……。
「よっし」
「良いわよ奈々美ー。 イケイケじゃん」
「ったりまえよ」
紗希ちゃんとハイタッチを交わす奈々ちゃん。
さっきのは、レセプションした紗希ちゃんも、難しいボールをしっかりトスした奈央ちゃんも、お上手だった。
◆◇◆◇◆◇
そのまま第2セットも最終盤。 途中ブレイクを許したものの、現在24-22のセットポイント。
「奈々美!」
「これで打ち止めっ!!」
パァン!
ピッ!
「よっし!」
奈々ちゃんが決めて2セット目も取ってリーチを掛ける。
ベンチに引き上げてきた私は、しっかりと仕事をやり切った奈々ちゃんを労う。
「お疲れ奈々ちゃん」
「まぁ、まだ昨日に比べればマシよ。 ただこっからは渚に任せるけどね」
「任してください! きっちり藍沢先輩の代わり務めてきます!」
「意気込むのは良いけど、リラックスよ」
「わかってます」
「さて、3セット目もこのまま一気にいくよ」
「おー!」
気合いを入れて、この後は少し休憩。 スポーツドリンクを飲んで息を整える。
2セット目は奈々ちゃんが頑張ってくれたおかげで、私もまだまだ体力が残ってるし、足もまだまだいける。
次のセットなら全力で跳んでも大丈夫そうだけど、4セット目がある可能性を考えると、最初から飛ばすのはよくないね。
様子を見つつ適度にいこう。 その分、紗希ちゃんと渚ちゃんが頑張ってくれるはずだ。
◆◇◆◇◆◇
3セット目が始まるのでコートに入る私達。
渚ちゃんの姿を見て、弥生ちゃんが声を掛けてきた。
「お、渚やん。 藍沢さんの代わりとは出世しよってからに」
「私なんて、藍沢先輩に比べたらまだまだや」
「そんなん当たり前やん」
あはは……。 弥生ちゃんもなんていうか正直だねぇ。
「せやけど、しっかりと代わりは果たして見せる。 覚悟しぃや、お姉ちゃん」
「ええで、来ぃや渚」
夏のインターハイに続いて、月島姉妹の直接対決が始まるようである。
あれから渚ちゃんもレベルアップしている。 弥生ちゃんに、強くなった姿を見せてあげるんだよ渚ちゃん。
「さて、サーブ来るよ!集中して切ってこ~!」
立華サイドはは眞鍋先輩からのサーブ。 ゆるゆるとした無回転サーブを打ってきた。
また拾いにくそうなサーブである。 希望ちゃんが落下地点に入ると、腰を落としてレセプションする。
「はぅ」
手元で微妙に変化したようで、上手くレセプション出来なかったようだ。
こればっかりは仕方ない。
「ごねん、奈央ちゃん!」
「十分よ!」
同時連携サインを出しながらセットアップする奈央ちゃん。
私達前衛は同時に助走を開始する。
「あれかいな!」
3人同時に走ったのを見て察した弥生ちゃんは。 とにかく私に絞ってブロックに跳ぶ。
でも残念。 後出しできるんだよ。
「渚ー!」
「はい!」
渚ちゃんが振る腕に合わせてトスが飛んでいく。 ドンピシャのタイミングでボールが到達し、渚ちゃんのクイック攻撃が無人のスペースに突き刺さった。
「っしゃー!」
珍しく大きな声を出してガッツポーズを決める渚ちゃん。 気合い入ってるみたいだね。
「あんまやって来ぃひん思うたら、ここでかいな……」
弥生ちゃんは「ほんま、いい加減にせぇやー」と、ちょっと怒り気味に言ってくる。
そんなこと言われても、使えることは使わないともったいないし……。
「悪いけど、このまま3セットで終わらせちゃうよ」
「まだや。 そう簡単に終わらせてたまるかいな。 4セット目も5セット目もやるで」
弥生ちゃんと目を合わせて、火花を散らすのであった。
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