第294話 親友だからわかること

 ☆亜美視点☆


 ビンゴ大会も大詰めといったところで、残る景品もあと1つ。

 私もリーチが3本あるんだけど、もう1つが出ない。


「んー」

「亜美、そんだけ空いててビンゴしてないって逆に凄くない?」

「あはは……私もそう思う」

「亜美ちゃんはアンラッキーガールねー」


 んー……そんなはずは。

 ただ、私と希望ちゃん以外全員が、プレートくじを当ててるんだよね。

 希望ちゃんだってビンゴ一番乗りで温泉旅行当てちゃったし。


「別にええやないですか。 たかがゲームぐらい」

「そうだよ。 別に死ぬわけじゃあるまいし」


 渚ちゃんはBlu-rayディスクプレーヤーを。遥ちゃんはロードレーサーを貰っている。


「私も何か欲しいぃ」


 と、言ってみるものの……。


「はい、これにてビンゴ大会終了とさせていただきます! 参加していただきありがとうございましたー!」


 結局、何も貰えないままビンゴ大会は終了してしまった。

 私はアンラッキーガールなのか……。


「これからダンスタイムとなります。 ごゆっくりお楽しみください」


 そのままダンスタイムに突入してしまった。

 私は誰とも踊るつもりもないし、誰かに声を掛けられる前にテラスへと避難しよう。

 希望ちゃんと渚ちゃん、遥ちゃんもついてくる。

 他の皆はダンスに参加するようである。 凄いねぇ。

 テラスへ出てきた私達不参加勢は、夜風に当たる。


「さ、寒い……」

「そだねー……」


 部屋の中は暖かかったけど、外は真冬であることを忘れていた。

 とはいえ、中に戻ると誘われそうだし。


「さ、さすがに寒すぎるな……どうせ私は誘われないだろうし戻るよ」


 と、遥ちゃんは寒さに耐えられなくなり中へと戻っていった。

 うぅ、私ももう耐えられない。


「戻ろ」

「はぅぅ」

「ガクガク」


 結局、皆中へ戻るのだった。

 できるだけ誘われないように、端っこの方で小さくなって固まることにした。

 麻美ちゃんが、先ほど声を掛けてきたアイドルグループの男性と踊っているのが見える。

 奈々ちゃんも、誰か知らないけど男性と踊っている。


「皆、よく踊れるねぇ。 知らない人なのに」

「しかも、芸能人とか政治家とかだしなぁ」

「信じられないよぅ」

「私も無理や……お姉ちゃんは気にせず踊りそうやけど」


 どうだろう……物怖じはしなさそうだけど「踊ること自体にさして興味あらへんわ」とか言って結局参加しなさそう。

 あ、でも夕ちゃんとはやけに踊りたがってたね。 踊ること自体は好きなのかも。


「そだ。 ねぇ希望ちゃん。 さっきの温泉旅行だけど、誰誘うか決めた?」

「うーん……一応」

「へぇ。 希望ちゃんにしては即決だね」

「うん。 もっとたくさん行けるなら良いんだけど4人だしね」

「ちなみに誰なんだい?」


 遥ちゃんが希望ちゃんに訊いてくる。

 たしかに気になるね。


「お父さんとお母さん。 それに亜美ちゃん。 家族で行くよ」

「へぇ。 親孝行だね」


 遥ちゃんも感心しているよ。

 そっか、お父さんとお母さんか。 良い選択だと思う。

「でも、いけるのは冬休み明けてからかなぁ。 もう年末で忙しいし、年明けは春高だし」

「そだね」

 

 タイミングが合う時に行けば良い。

 4月までは、お父さん達もまだ一緒にいるんだから。


「ふぅ、ただいま」

「あ、奈々ちゃんおかえり」


 ダンスを数曲踊って帰ってきた奈々ちゃんは、少しお疲れのようだ。


「さすがに緊張で疲れるわ……」

「相手は大物ばかりたからね。 足とか踏んだら大変」

「社会的に消されちゃうよぅ」

「きゃはは、そこまではされないってー」

「そーそー。 希望姉は心配しすぎー」


 今度は、紗希ちゃんと麻美ちゃんが戻ってきた。


「おかえり。 麻美ちゃんは、好きなアイドルと踊れたんでしょ? 良かったね」

「良い思い出になるー。 でも、やっぱ夕也兄ぃが一番良いね」


 人気男性アイドルより、近くの幼馴染の兄さんが良いというのは、まあわからなくもない。

 住む世界が違い過ぎて、現実味が無いのだ。


「紗希ちゃんは誰と踊ってたの?」

「んー? 何とか電気の社長さんのご子息だって。 顔はまあまあだったけどねー」


 紗希ちゃんからすれば、柏原君の方が数倍良いとの事。

 皆、自分の彼氏が好きなんだね。 私もだけど。


「んと、奈央ちゃんは?」

「奈央ならあそこ」


 遥ちゃんが顎でクイッとした方に視線を向けてみると、まだ誰かと踊っていた。

 さすがに多方面から誘われているのだろう、中々解放されないらしい。


「学校では自由そうにやってはるのに、家やと窮屈そうですね」

「そうねー。 学校で見せるあの子が、本来の姿なんだけど。 家とかではあーやって取り繕わなきゃいけないって大変よね」


 紗希ちゃんは、少し暗い顔をして奈央ちゃんの方を見ながらそう言った。


「さっきさ、将来亜美ちゃんを専属秘書にって話をしてたでしょ?」


 食事中に、急にそんな話をされた。


「将来は、西條グループを背負って立つ運命。 きっと、気の休まる時間なんて欠片も無くなる。 今みたいな自由も……」

「……」


 改めて思う。 奈央ちゃんは、凄く大変な将来を約束されているんだ。

 私達じゃ想像も出来ないような、凄いプレッシャーを感じているはず。


「そんな中でもさ、少しでも気の休まる時間が欲しい。 素の自分を出せる相手を近くに置きたい。 そう思ってるんじゃないかなー……なんて」


 と、最後はそうはぐらかす紗希ちゃん。

 でも、多分それは当たっているんじゃないかと思う。

 長年、奈央ちゃんと過ごしてきた親友の紗希ちゃんだからわかる事なんだろう。


「まあ、北上君がお婿さんになったら、支えてくれるっしょ」


 と、軽くそう締め括った。


「なーんの話よ」


 その紗希ちゃんの後ろから、奈央ちゃんの声が聞こえてきた。

 ただ、紗希ちゃんの影に隠れていて見えないけど。

 こうやって見ると、大人と子供である。


「別に何でもないわよー」

「そうそう。 奈央はちっこいから、ダンスパートナーの人は踊りにくそうだって話してたんだ」

「むきーっ! ちっこい言うなー」


 紗希ちゃんと遥ちゃんは、奈央ちゃんにぽかぽかと叩かれながらケラケラと笑うのだった。

 本当に仲良しだねぇ、この3人は。


「さ、もうすぐパーティーも終わりね」


 そっか。 もう終わるんだ。


「むっふっふー」

「?」

「何よ、気持ち悪いわね」


 奈央ちゃんの含んだような笑いに、私達は?マークを浮かべる。

 どうしたんだろ?


「皆、今日は泊まっていかない?」

「!?」


 何と、奈央ちゃんからお泊まりの提案である。

 この誘いには是非乗りたい。


「両親に連絡するよ!」


 私はすぐにスマホで親に連絡を取る。


「私は一人暮らしやし誰の許可もいりませんし、甘えさせてもろてええですか?」

「もちろん、ええわよ」


 他の皆も次々と家に電話をかけて、両親に許可を貰っている。

 私も希望ちゃんも両親から「迷惑をかけないように」という事で許可をもらえた。


「お世話になります!」

「私も麻美もOKよ」


 という事で、クリスマスパーティーのあとは西条家でのお泊り会が突発的に開かれることになった。

 まだ皆と一緒にいられるんだと思うと嬉しくて仕方がないのである。

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