第293話 ビンゴ大会
☆亜美視点☆
あの後も、色々な人が奈央ちゃんに挨拶をしに来た。
やっぱり奈央ちゃんは私達とは違う世界の人なんだと、改めて感じさせられる。
「どうしたの? じろじろ見て」
「え? いや、奈央ちゃんってこうやって見ると、私達とは別世界の人間なんだなぁって思って」
「何言ってるんだか……私も亜美ちゃんと何も変わんないわよ。 同じ学校に通って、同じ部活で汗を流す、同じ女の子なんだから」
「あぅ……」
奈央ちゃんは、私達にだけ見せる、子供みたいな笑顔でそう言った。
そうだよね。 私達は仲間だもんね。
別世界の人間だなんて、言っちゃダメだよね。
「ごめん奈央ちゃん」
「別に謝るような事じゃないでしょ」
「そうそう。 奈央なんて大した人間じゃないんだから」
「紗希ー!」
「あはは」
「っと。 唐突で悪いんだけど……亜美ちゃんさ、将来何やりたいか決まった?」
奈央ちゃんが不意にそんな事を訊いてきた。
「まだだけど、それがどうかしたの?」
「もし良かったらさ、将来私の専属秘書にならない?」
「奈央ちゃんの専属秘書?」
またまたとんでもない事を言い出したね。
奈央ちゃんの秘書って事は、西條グループのトップのお世話をするって事だよね?
何でまた私なんだろう?
「私、亜美ちゃんの能力の高さを買ってるのよ? スケジュール管理とかも完璧にこなすし、私も知り合いの方が気が楽だし」
「亜美ちゃん、どうするの?」
「ど、どうするって訊かれてもねぇ……急過ぎて何とも……それに、先の話だし」
「まあ、今はそんな感じで良いけどね。 何か、他にやりたい事見つけたならそっちを優先してくれて構わないわ」
あくまでも選択肢の1つとして、頭の片隅にでも置いておいてほしいと、そう言うのだった。
「さて、そろそろビンゴ大会が始まるわね」
食事も食べ終わる頃になって、奈央ちゃんがそう言った。
すると、ちょうどそのタイミングで司会のお笑い芸人さんが喋りだす。
「えー、今からビンゴ大会を開始します! 皆さん、お手元にビンゴカードはありますか?」
と、言われても……。
「私達、貰ってないわよ」
そう、私達はビンゴカードを貰っていないのである。
これではビンゴ大会には参加できない。
「大丈夫よ。 貴女達の分は私が持ってるから。 はい」
と、奈央ちゃんがどこからか人数分のビンゴカードを取り出してきた。
それを、私達に配ってくれる。
これでビンゴ大会に参加可能である。
「えー、今回はこのビンゴに加えて、くじの要素も取り入れております。 皆さま、胸につけておられるナンバープレートがございますね?」
と、説明を受ける。 たしかにこの部屋に入ってくる時に受け取ったナンバープレートがある。
どうやら、ビンゴで出た数字がナンバープレートと一致している人は、それ用の景品があるらしい。 ビンゴの景品に比べれば質素なものらしいのだけど、比較的チャンスはある。
「ビンゴの景品、温泉旅行だって」
「よーし、狙っていくわよー」
「温泉旅行ー!」
それ以外も、特大液晶モニターだとか、高級国産和牛だとか、高性能電動自転車だとか高価な景品が並ぶ。
さすが西条家のビンゴ大会である。
皆も目の色を変えてビンゴに臨むのであった。
「ではではー最初の数字はー……56番! ビンゴの方いらっしゃいませんかー? いたら不正ですよーー」
「はははは」
さすがお笑い芸人さん、淡々とやってもつまらないビンゴだけど、しっかり楽しめるように喋りで盛り上げてくれる。
「ではー、56番のプレートお持ちのお客様はございませんかー? 景品1番乗りのラッキーなお客様ー?」
はて、56番か……私62番で惜しいなー。
なんて考えていると、麻美ちゃんが手を挙げて大声を上げる。
「はーい! 56番です!」
「うぇぇっ?!」
「ちょ、あんたマジ?」
麻美ちゃんの胸のプレートを見ると、間違いなく確かに56である。
な、なんてラッキーガールなの……。
「おーっと! そこのお嬢さんが一番乗りだぁー!! どうぞこちらへ!」
「ちょっと行って来るー」
「恥かかないようにね」
麻美ちゃんは席を立って、前の方へ歩いていく。
今、誰よりも注目を浴びているのは大物芸能人でも何でもない、ただの高校1年生の女の子である。
「はい! こちらのお嬢さん! たしかに56番です!」
「いぇいー!」
「おおー、元気ですねー。 えーと、西条奈央嬢様のご友人という事で?」
「そうです!」
「さて、一番乗りなので景品を選び放題ですぞー! こちらの中から好きなものをどうぞ」
麻美ちゃんは景品が展示されている中から、どれにしようか悩んでいるようだ。
こちらのくじの景品はビンゴに比べればランクは落ちる、とはいえ西条家の用意した物だ。
一般人の私達からすれば、それはそれは高価な物も多い。
「麻美、良いもの選びなさいよぉ……」
姉の奈々ちゃんも使えるものを選ぶといいんだけどねぇ。
あの中だと、冷蔵庫とか炊飯ジャーとかの家電かなぁ。
「この炊飯ジャーでお願いします!」
「よし、よくやった麻美!」
奈々ちゃんもガッツポーズである。
やっぱり家族で使うものが良いよねぇ。 麻美ちゃんもそれはわかっていたようだ。
景品は後日家まで送り届けられるようだ。
麻美ちゃんが帰ってきて、ビンゴが再開される。
私は何とかカードに穴は空くものの、中々思ったような場所が空いてくれない。
「はぅ、はぅ」
「どしたの希望ちゃん……って、うわわ。 リーチじゃん」
「おおー、やるねー希望姉ぇ!」
「何番が出たら良いのー?」
麻美ちゃんと紗希ちゃんが、希望ちゃんのカードを覗き込む。
私も便乗して横から覗いてみる。
「次はー8です!」
「はぅぅっ!?」
「おおー」
「希望姉ぇ!」
なんと、今度は希望ちゃんがビンゴを揃えてしまった。
な、なんてラッキーガールなの……。
「どどど、どど、どうしよう……」
「どうしようじゃないでしょ? 手を挙げないと」
「そうだよ。 早くしないと次に進んじまうよ?」
「はぅーはぅー」
「はよ、せんと……」
「仕方ないなぁ!」
私は希望ちゃんの手を取って、無理矢理上げさせる。
「ビンゴです!」
「はぅぅ-っ?!」
「おおーっと! ついにビンゴ第1号が出ましたー!! こちらへどうぞー!」
と、呼ばれる希望ちゃんだけど、案の定完全にアガってしまって足がガクガクしている。
ただでさえアガリ症の希望ちゃんが、こんな大物ばかりの場所で目立つなんて普通に考えれば無理難題である。
しかし、温泉旅行には代えられないのだ。
「私も一緒に行くから……ね?」
「う、うん」
仕方ないので、ここは私も一緒に前まで行くことになった。
希望ちゃんの手を取って、ゆっくりと前に向かう。
「ええと、ビンゴしたのは?」
「この子です。 アガリ症なので一緒に来たんです」
「はぅはぅ」
「カードを確認します……はい! たしかにビンゴです! おめでとうございます! ビンゴ一番乗りなので、景品選びたい放題です!」
「はぃぃ……そ、それじゃ……温泉旅行を……」
「温泉旅行! ではこちらをどうぞ!」
希望ちゃんは、緊張してガチガチになりながらも温泉旅行券を受け取った。
西条グループの持っている温泉宿への招待券4人分。
4人かぁ……。
「それでは皆さん拍手!」
パチパチパチー……
私と希望ちゃんは拍手を受けながら、皆の下へと戻る。
希望ちゃんはもう小さくなっちゃっていた。
「お帰り」
「うん……緊張したよぅ」
「きゃはは。 で、温泉旅行誰と行くの?」
「4人分なんだよね……」
「誰と行くかは希望ちゃんが決めなよ。 希望ちゃんが当てたんだから」
「そうそう。 誰も文句言わないわよー」
「う、うん」
希望ちゃんは、頭を悩ませるのだった。
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