第254話 イタリアの若き天使

 ☆亜美視点☆

 

 アルゼンチンを破った後、私達日本は破竹の4連勝。

 全勝して、グループ1位抜けを決めている。

 ここまで、チーム全員が大活躍していていい感じだよ。

 これは本当に、世界一も狙えるかもしれない。


 グループ1位抜けを決めた夜、レストランで夕食を食べながら話をしています。

 翌日は順位決定戦の予備戦が行われる。

 各グループの上位4チーム全16チームで試合をし、勝った8チームで上位の順位決定戦を、負けたチームで下位の順位決定戦を行っていく。


「他のグループも、優勝候補って言われてるところは全部抜けてきたね。 特にアメリカは同じく優勝候補のロシアに勝って4連勝してる」

「そやな」

「やっぱ抜けてるのかしらね、今年のアメリカは」

「うん」


 私達のいたBグループは、そこまで強豪がいたというわけではない。

 同じ4連勝でも価値が違う。


「明日からが本番やけど、初戦の相手がイタリアやね」


 眞鍋先輩は組み合わせ表を見ながら、言った。

 そう、私達が1戦目で当たる相手は優勝候補一角のイタリア。

 ついに一線級が相手になる。


「どこが相手でも一緒ですわ。 世界一になるには全部倒すしかないんですから」


 奈央ちゃんは、ジュースを飲みながら言う。

 そう、その通りである。

 そんなことは、皆もわかっている。


「ユースの大会なんて、ほとんどの人はあまり興味も示さんやろうけど……」

「世界一になって帰れば、皆注目してくれるでしょ」

「ま、オリンピックとかに比べて地味やからな」

「そやね」


 なお、この時の私達は知る由も無かった。

 日本では、私達日本ユースの活躍が大々的に報道され、大注目を浴びている事なんて。


「さて……そろそろミーティング始まるし、ホテルに戻ろう」

「そうね」

 

 夕食を食べ終えた私達は、レストランを出てホテルへと戻る。

 アメリカの方でも、世界選手権の内容は報道されており、私達の事も少しは知れ渡ったようである。

 開催国のアメリカからすれば敵チームの私達だけど、結構温かく接してくれる。

 寛容な国だねぇ。



 ◆◇◆◇◆◇



 ホテルに戻った私達は、すぐにミーティングに呼び出された。

 ちょっとは休ませてほしいものだ。


「よーし始めるぞ。 明日はイタリア戦だ。 わかっていると思うが、今大会の優勝候補の一角だ。 特にこの選手。 イタリアの若き天使アンジェラ」

「なんか凄い名前がついてんな」

「日本から来た小さな怪物とはえらい違いよね」

「あぅ」


 画面に映し出された選手を観察する。

 今大会注目のOHということらしい。

 身長は見た感じ高くはない。


「特筆すべき点はこれだ」


 試合動画を再生してみせる監督。

 イタリアの攻撃の一連の流れだ。

 トスが上がると、アンジェラさんはかなり早いタイミングでジャンプした。

 これじゃ手が届く前に体が落ちて……しまわない?

 アンジェラさんのジャンプに釣られて跳んだブロッカーが先に落下を始めて、アンジェラさんは悠々とスパイクを決める。


「どうだ、清水」

「滞空時間が異様に長いですね」

「そうだ。 もちろん、ジャンプもそれなりに高い。 この動画のように、ジャンプに釣られてブロックに跳ぶと、先にこっちが落ちるんだ。 どうする? 曽木」

「ボールの高さを見て遅らせて跳びますかね」

「でも、それだとクイックに反応出来ないかもしれませんわ」

「コミットも混ぜろっちゅう事かいな」

「そこでだ」


 そう言って、監督は作戦を発表した。


「ブロックは全てリードブロックでいく。 先程曽木が言った通り、ボールを見て遅らせて跳べ」

「クイックは捨てるんですか?」


 宮下さんの疑問は最もである。

 こちらがクイックを捨てているとバレたら、やられたい放題されるリスクがある。


「誰も捨てるとは言ってないだろう。 クイックはバックがなんとか拾え!」

「む、無茶苦茶ね……」


 隣に座る奈々ちゃんが、ボソッと漏らした。

 でも、無茶苦茶なのは本当だ。

 ブロックが前にいないアタッカーは、好きなコースへ打ちたい放題。

 当然、空いてる場所を狙い打ってくる。

 それをなんとか拾えと言われても。


「そこでだ、明日は清水には守備的OHに徹してもらう。 後衛の時は、ディグを重視して、攻撃は余裕のある時にだけ参加」

「は、はい」

「前衛の時は、アンジェラをマークして、曽木とブロックに当たれ」

「わかりました」


 守備的OHかぁ。


「オールラウンダーの亜美だからこそって感じね」

「かなぁ?」

「他のスタメンは、月島、藍沢、西條、雪村、雪村の交替は宮下」


 曽木さん以外は全員2年生だ。


「西條。 例の同時連携は他校の選手とも合わせられるな?」

「合宿で練習したので問題ありませんわ」

「点の取り合いになる可能性がある。 攻撃力で負けるな」

「はいっ!」

「ベンチメンバーも、スポットで出すかもしれんから気を抜くなよ」

「はいっ!」

「よし解散! よく休むように!」


 ミーティングは終了。

 監督もかなり悩んで作戦を考えたのだろうけど、これといった対策は思い付かなかったのかもしれない。

 無茶苦茶な作戦だとはわかった上で、私達に託したのだ。


 部屋に戻った私達は、少し作戦会議をすることにした。


「亜美のジャンプなら、あの滞空時間に対抗出来ない?」

「無理かなー? 高さは勝てても、同時に跳べば私が先に落ちるよ」

「やっぱり遅らせ跳びしかないか」

「クイックで攻められない事を祈るばかりね」

「麻美ちゃんがいれば、謎の嗅覚でクイックも防いでくれるのにね」

「それだ!」


 私は声を上げた。

 部屋にいた希望ちゃん、奈々ちゃん、奈央ちゃんは目を丸くする。


「麻美ちゃんに動画を貼り付けてメール送信」


 今、日本は昼ぐらいのはず……。


「そんなことしてどうするのよ?」

「麻美ちゃんなら、どう対応するのかを聞くんだよ」

「ど、動画見ただけで何かわかるかな?」


 希望ちゃんが不安そうにしているが、麻美ちゃんなら何か見つけてくれるかもしれない。

 数十分後、麻美ちゃんから返信があった。

 そこには驚くべき内容と、麻美ちゃんからのアドバイスが書かれていた。


「何だって?」

「クイックを捨てるのもありだけど、コミットブロックを見せないのは良くないって」

「まあ、そうよね。 クイックを警戒してるフリでも良いから見せないとね」

「んで、麻美ちゃんが動画を見て気付いた事なんだけど、セッターがトスを上げる時の腕の角度が、上げる高さによって変わる癖があるって」

「はあ?」

「ちょっと見てみましょうよ」


 奈央ちゃんに促されて動画を見返してみると……。


「た、たしかに微妙に違うような……」

「言われないとわかんないわよこれ」

「麻美ちゃん、凄い観察力だね」

「恐ろしい子」


 でも、これなら何とかクイックも読めるかもしれない。

 私は麻美ちゃんにお礼のメールを返した後、監督や他のメンバーを呼び出して、情報を共有した。


「ほ、ほんまやな……あんさんとこのあの1年ブロッカーも、大したバケモンやで」

「私ら姉妹の連携も崩しよったしな」


 麻美ちゃんの株が急上昇。

 監督も、緊急招集をかけたいぐらいだと漏らした。

 作戦の内容は変更。

 クイックが来るとわかったなら、コミットブロックも混ぜる方向へ。

 これで幾分戦いやすくなるはずだ。


「じゃ、一丁大番狂わせ見せたろやないか」

「おう!」


 そして夜が明けた。

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