第253話 小さな怪物
☆亜美視点☆
さあさあ、ついに世界選手権が始まりました。
朝一の開会式の後、4つのコートに別れてグループ予選が開始。
私達BグループはBコートでアルゼンチンと試合するよ。
他にもBグループにはブラジル、タイ、カナダがいる。
「皆頑張ってくださいね」
今日はスタメンに入っていない奈央ちゃんは、ベンチから応援。
私もベンチスタートだ。
「こうやって見ると身長差凄いね」
「ですわね」
コートに並ぶ選手達の身長差たるや。
本当に小学生に見えちゃうよ。
「ブロックは厄介そうですわね」
「まぁ、私達からすればどこのチームも巨人みたいなもんだし、楽は出来そうにないよね」
奈々ちゃん達がどこまで通用するか。
「始まりますわよ」
「うん」
ベンチからコートの選手に声援を送る。
サーブはアルゼンチンからだ。
「はいっ」
長身から放たれる弾丸サーブを、希望ちゃんが難なく拾って見せる。
「良いよー!」
「さて、黛の妹さんは誰を使うかしらね」
奈央ちゃんも注目している最初の攻撃は……。
コート内では黛姉さんが最初に助走を開始。
その後で弥生ちゃんと奈々ちゃんがテンポをずらして助走。
「これは高速連携じゃないね」
いきなりは見せないつもりのようだ。
トスは奈々ちゃんの方へ上がり……。
パァンッ!
強烈な音とともにスパイクが放たれる。
ブロック1枚を華麗に避けてのスパイクは、とんでもない角度でコートに突き刺さる。
「っしゃ!」
「ええで藍沢さん!」
幸先よく先制できた日本チーム。
「うーんさすが藍沢さん。 私も出たいな」
今日はベンチの宮下さん。
きっと大会中に出番はあるよ。
さぁ、日本チームのサーブだよ。
「ナイサー妹さん!」
「いけー!」
黛妹さんのサーブは色々あるけど、得意なのはジャンプフローター。
綺麗な無回転ボールで、着弾点がわかりにくいサーブだ。
そのサーブで、アルゼンチンチームの陣形を崩す。
完璧なサーブだ。
だけど、さすがアルゼンチンを代表するメンバー。
崩されながらもトスを上げてくる。
そして、噂のミカエラさんの攻撃。
奈々ちゃんと曽木さんが2枚ブロックにつく。
パァンッ!
「巧いっ!」
曽木さんの手の側面に当てる様に打ってきた。
が、それを読んだのかそれとも見てからなのか、反応している影があった。
「はぅっ!」
希望ちゃんのファインプレー炸裂。
ダイビング気味にボールを拾う。
ただ、ボールはあまり良い位置ではない。 黛妹さんが何とかトスを上げて、弥生ちゃんがスパイクで返すも、良いトスではなかったのか威力半減。
ブロックに捕まる。
「はぅ!」
しかし、そのブロックされたボールにも希望ちゃんは食らいついた。
今日の希望ちゃんは何かが違う。
「良いよ希望ちゃん! ナイスファイトー!」
「雪村さんの頑張り無駄にしないでよー!」
「わかっとるわ!」
ここで黛姉さんが走り出す。
出るよ、伝家の宝刀……。
「いけぇ!」
ジャンプの最高到達点で腕を振った黛姉さん。
その手元に突如としてボールが現れる。
パァン!
アルゼンチン陣営は全く反応できず。
初めてみる連携に、顔色が変わったのが見て取れた。
「あちらさん、ざわつきましたわね」
「うん。 良い出しだね」
いきなりのブレイクで、波に乗る日本。
その後の攻撃は通してしまうものの、その後は連続でブレイクしてリード広げる。
そして、希望ちゃんが前衛に移動するタイミングで、私がコートに入る。
「希望ちゃん、良い動きだったよ」
「ありがと。 亜美ちゃんも頑張って」
「任されたよ」
さて、世界デビューだ。
暴れるよ。
「来よったな、日本のエース」
「いやいや、それは私じゃないから」
絶対に弥生ちゃんだよ。
「清水さん、今日の調子は?」
「絶好調だよ」
「オッケー。 バンバン上げるで」
黛妹さんは、そう言ってポジションにつく。
曽木さんのサーブでリスタート。
アルゼンチンの攻撃は、ミカエラさんに通されてしまう。
「ベンチで見るのと全然違うねぇ」
「そやろ? 結構やりよるで奴さん」
切り替えていかないと。
ここは集中して取り返すよ。
アルゼンチンチームのサーブは、強烈なジャンプサーブ。
うわわ、希望ちゃんはこんなサーブを拾ってたの?
曽木さんが何とかレシーブに成功。
「ナイスレシーブ!」
私はトスのタイミングで助走を開始。
黛妹さんとは、合宿で何度も合わせた。
今や奈央ちゃんのトスと遜色無い。
「任せるで清水さん!」
「らじゃだよ!」
任されたのでジャンプ。
身長の高いブロックが2枚ついてきた。
クロスに打たせる為に、ストレートのラインをシャットアウトしているが。
「真っ直ぐいくっ!」
「?!」
ブロックの手の上ギリギリをかすめてストレートにスパイクを打ち抜く。
高いだけあってワンタッチ取られたけど、問題無くイン。
「ナイスやで亜美ちゃん。 あんさんの高さは世界に通用するんやな」
「いやいや……」
正直言って危ないところだった。
指先とはいえ、触られていたからね。
あんまり連発はしたくないけど、全力ジャンプも使った方が良いかもしれない。
「見てみなさいよ。 あちらさん、信じられないものを見たような顔してるわよ」
「あはは……よーし、このままいくよ」
◆◇◆◇◆◇
その後は、長いラリーが何度もあり、長期戦にはなったものの、2セットを連取して勝利。
勝ち点3を手に入れた。
今日のMVPは希望ちゃん。
長いラリーでも集中を切らさずに、ボールを拾いまくっていた。
「お疲れー」
という事で、世界戦初勝利を祝して乾杯中の私達。
もちろんジュースだよ。
「それにしても、今日の雪村さんやばかったな」
「うん。 何だか、今日はコート内がよく見えたんだよ」
「希望覚醒?」
「そんなことないよ……」
「でも実際安心して任せられたわよね。 雪村さん次もよろしく!」
曽木さんが、希望ちゃんの肩をパンッと叩く。
痛そう。
「でも、一番おもろいんはこれやな」
今テレビで試合のダイジェストが流れてるわけだけど、どうやら前評判の低かった私達日本チームの評価が上がったらしい。
その理由が……。
「Small Monster from Japan!」(日本から来た小さな怪物!)
という英字とともに、私が大きなブロックのさらにその上からスパイクするシーンが切り抜かれている。
「なはははは! 亜美ちゃんはこれで世界的に化け物扱いされてもうたな!」
「人間だよ!」
190はあろうかという高いブロックの遥か上から、スパイクを叩きつける160ちょっとの人間に注目が集まったようだ。
まさかこんなとこでも人外扱いされるなんて……。
「でも、亜美ちゃんの高さが世界に通用するのがわかったのは収穫ですわね」
「そうね。 黛姉妹の連携も使えるし、結構戦えるわよ」
「明日のスタメンは月学メンバーに宮下さんと曽木さんか。 良いメンバーじゃない」
「あはは……頑張るよ」
「期待してるでぇ、ジャパニーズモンスター」
「やめてよ黛さん……」
皆は、私をイジって爆笑するのだった。
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