第252話 世界

 ☆亜美視点☆


 私達日本ユースのメンバーは最終合宿を終えて、世界選手権の開催国であるアメリカへとやって来た。

 うー、初めての地へ足を踏み入れて、好奇心が抑えきれないよ。


「亜美ちゃん、きょろきょろするのはやめて下さい……田舎者みたいでしょ」


 奈央ちゃんに叱られてしまった。


「しかし、当たり前やけど皆外国人やな」

「はぅー、話しかけられたらどうしよう」


 私も英語のテストの成績は良いけど、実際に英会話をした事は無いし不安ではある。


「よし、行くぞ。 ホテルまではバスを出してもらうから、乗り遅れるなよ」

「はい」


 空港を出て、すぐの場所に日本チームのバスが停車していたので、それに乗り込む。

 知らない街並みを、バスの窓から眺めるのはワクワクする。

 春くんが言っていた通り、とにかく派手だ。

 ホテルに到着した私達は、荷物を置いてすぐに試合が行われる会場へと下見に向かう。

 ホテルから程近い場所に、会場はあった。


「ここで試合するのね」

「なんだか緊張してきた」


 皆の顔が変わった。

 ふと、視線を後ろに向けると、アメリカ代表らしきメンバーがやってきた。


「うわわ、優勝候補だよ」

「地元民かいな……」

「さすがにでかいわね」

「皆が遥ちゃんみたいだよぅ」


 たしかにこれは圧巻だ。

 近づいてきたアメリカ選手が、声をかけていた。


「NICE to meet you」(初めましてこんにちわ―)

「NICE to meet you too」(初めましてー)

「さすが亜美ちゃん」


 これぐらいは皆出来るでしょ……。


「Are you Japanese Team?」(貴女達は日本チームかしら?)

「Yes we are」(はい、そうです)

「……It's like elementary school students」(……まるで小学生みたいね)


 後ろの方にいる選手が、ボソッと呟くように言ったのが聞こえてきた。


「Olivia! Oh sorry……」(オリヴィア! あの、ごめんなさい)


 オリヴィアさんという人の失言を、謝っているようだ。


「Please don't worry」(いえいえ、気にしないでください)


 その後「良い大会にしましょう」と握手を交わして、アメリカチームは去って行った。


「さっき、何言うてたんや、あの後ろの人」

「まるで小学生みたいって」

「ほう……」


 私達の身長が低いのを揶揄しているのだろう。

 ただ、基本的には良い人達のようだ。


「言わせておけば良いのよ。 大会が終わったらどっちが小学生だったかハッキリするんだから」


 宮下さんは結構強気だ。

 

「ちなみに、アメリカ戦っていつだっけ?」

「まだわからないわよ。 グループ違うもの」

「そっか」



 でも、私達が目指すのは世界一。

 結局のところ、何処にも負けられないのである。


「明日ここで開会式してから、初戦か。 来ちゃったのね、世界まで」

「奈々美、ビビッてるんですの?」

「ビビッてないわよ」

「そうそう。 藍沢さんはビビッたりする玉じゃないでしょ」

「せやせや」

「まったく、貴女達はいつでもどこでも変わらないわね」


 キャプテンの眞鍋先輩が、溜め息をついてそう言うのだった。

 皆、リラックス出来ているみたいで何よりだよ。


「それにしても眠いわ……」

「だから飛行機の中で寝とけって言ったのに」

「せやかて……」


 日本とは時差があるから、リズムが整うまでは体も怠くなるだろう。

 海外戦はそういうのとも戦わないといけないのだ。


「ホテル帰って寝よ寝よ」

「今寝たら夜眠れなくて明日また辛いよ?」

「どないせいっちゅうねん」


 弥生ちゃんは、終始眠たそうにしながらホテルまでの道を歩いていた。

 ホテルに戻り、部屋に入る。

 私は希望ちゃんと同室。

 部屋に入ってテレビを点けてもよくわからない番組しかない。

 新聞や雑誌も英字で読みにくい。


「する事がないね」

「うん……」


 土地勘も無いし、むやみに外出するのも良くないね。

 こんな時は家から持ってきた本を読むしかない。

 希望ちゃんにも一冊貸してあげる。


「にしても、本だけじゃ大会中保たないよね」

「まあ、慣れてきたら買い物とかに出かければ良いでしょ」

「慣れるかなぁ」


 大会期間は10日間近くある。

 嫌でも慣れると思う。

 他の皆は何して時間を潰してるのだろう。


 夕方頃、夕食へ行こうという事になったので近くのレストランへ向かったのだ……。


「ね、ねー清水さん」

「何?」

「メニュー読めない……」

「私もや……」

「同じく」


 宮下さん、と黛姉妹は英語が苦手のようである。

 仕方ないなぁ……。

 とりあえず一通り教えてあげて「これ!」というので一緒に注文してあげた。


「助かるわー。 清水さんがいなかったらご飯もまともに食べられないわ」

「えぇ……」


 少し待っていると、テーブルに料理が運ばれてきたけのだけど……。


「す、凄い量……」

「さすがアメリカさんやで。 スケールちゃうわこら」


 日本では考えられないほどの量の料理が皿に並ぶ。

 な、なるほど……。


「とにかく派手でスケールも大きいと……」


 もう少し、春くんからアメリカの事を聞いておけば良かったねぇ。


「でも美味しいよ亜美ちゃん」

「うんうん……たしかに、味付けもスケールが違うようだねぇ」

「日本ではここまで塩辛くないわよね……」

「あまり健康には良くないかもしれないですわ」


 塩分過多は否めないね。


「んぐ……んで、明日の試合ってどことだっけ?」

「宮下さん、組み合わせ表ちゃんと見た?」

「見てない」


 何故か胸を張ってそう言う宮下さん。

 やっぱり見てなかったんだねぇ。


「初戦はアルゼンチンだよ」

「アルゼンチンかー……でどんなチーム?」

「あんさんなぁ……」


 眞鍋先輩も呆れている。

 しかし、実際のところどんなチームなのかは私もまだ把握していない。

 今晩この後のミーティングで何かわかると思うけど。


「今のところ情報があまりないわね。 どこの国もだけど」

「これから徐々にわかってくると思いますわ」

「んーそっか」


 宮下さんは割かし呑気に構えている。

 リラックスしていて、多分いつも通りなんだろう。


「希望ちゃんは緊張とかしてない?」

「うん。 大丈夫だよ」

「そっかそっか。 じゃあ期待できるね」

「あはは……頑張る」



 食後はホテルの大部屋を借りてのミーティング。

 明日の開会式後の対戦相手についてとスタメンの発表がある。


「じゃあ始めるぞー。 まず明日の対戦相手だがアルゼンチンとなっている」

「どんなチームなんですか?」


 キャプテンの眞鍋先輩が代表して聞いてくれた。


「まずは試合動画を見てくれ」


 と、巨大テレビに映像を映し出す監督。


「やっぱでかいのね」

「うむ。 身長は平均183だそうだ」

「うへー……」

「私達って170あったっけ?」

「無いやろ」


 凄い差だよ。


「うーん。 このOH中々やな」

「うむ。 ミカエラという選手だ。 長身からの鋭角なスパイク脅威だぞ」

「ビデオじゃわかりにくいけど、私や藍沢さんに似てるかな?」


 と、宮下さん。

 うーん……奈々ちゃんも宮下さんも、パワーはある上に空中戦もとても上手い選手だ。

 このミカエラって選手も、パワータイプっぽいけど。


「うむ。 技術もかなりの物だ。 が……」

「どう見ても藍沢さんと宮下さんの方が上や」

「うん。 身長差があるだけだね」

「その通りだ。 アルゼンチンのエースはこのミカエラなんだが、今年のアルゼンチン守備重視のようだ。 長いラリー戦と高いブロックが武器だ」


 ビデオを見ていると、たしかにしつこいくらいボールに食らいついている。

 なるほど、守りのチームなんだね。


「ということで、明日のスタメンを発表するぞ」

「はい」


 監督はどういう采配をしたんだろう。


「まずOHは藍沢、黛姉、月島 MBは曽木でLは雪村、Sは黛妹。 雪村の交替に清水」


 私は希望ちゃんが前衛に入った時の交替か。


「わかりました」

「まずは初戦勝つぞ」

「おうー!」


 いよいよ世界戦が始まるよ。

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